原題 | Sur Quel Pied Dancer |
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制作年・国 | 2016年 フランス |
上映時間 | 1時間24分 |
監督 | ポール・カロリ、コスティア・テスチュ |
出演 | ポーリーヌ・エチエンヌ、オリヴィエ・シャントロー、フランソワ・モレル、ロイック・コルベリー、ジュリー・ヴィクトル他 |
公開日、上映劇場 | 2017年9月23日(土)~梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹他全国順次公開 |
~シューカツ女子は見た!闘う女たちと靴に注目のレトロ風フレンチミュージカル~
やっと試用期間を終えたのに、正社員に昇格できず、餞別に渡されたのは売り場の赤いスニーカー。とにかく正社員になることを目指して職探しをする25歳のジュリー(ポーリーヌ・エチエンヌ)を見ていると、つい最近までシューカツをしていた我が娘と重なり、どこも若者の就職難は同じなのかと、切ない気分になってしまう。とはいえ、この作品はフレンチミュージカル。彼氏に突然捨てられ、シューカツする羽目になった自分の境遇もサラリと歌って次の一歩を踏み出していく。ポーリーヌ・エチエンヌは『EDEN/エデン』で見せたキリリとしたショートヘアとはうって変わり、ポニーテールにTシャツと、実に自然体。どこにでもいそうな癒し系ヒロインは共感度大だ。
ジュリーが流れ着いたのは田舎の靴工場。かつて、高級靴の産地として知られた町で今でも操業を続けている靴工場の従業員は、工場長以外全員女性スタッフ。多種多様な素材から手作業で高級女性靴が作られていく様は鮮やかで、思わず見惚れてしまうのだが、工場閉鎖話が持ち上がっていることを知り、スタッフはカンカン!そこからが面白い。すぐパリ本社にいる社長に直談判しに出かけるのだから、自らの権利を守り、闘う意識の高さと行動力には驚かされる。
そんな中ジュリーはと言えば…いたってマイペース。いい感じになった運転手のサミー(オリヴィエ・シャントロー)の誘いで従業員たちが貸し切ったパリ行きのバスにふらりと乗り込み、その場の流れに身を任せている。まだ正式に社員にもなっていないジュリーがいきなり社長直訴に立ち会うだけでなく、バカンスかのごとくテントを張ってストライキを続ける従業員たちに少なからず違和感を覚えるのは当然。そんな全ての展開も、往年のミュージカルを彷彿とさせる曲調の歌と踊りが登場し、もう一つの主役が登場するのを今か、今かと待っているのだ。
安い中国に外注する狙いだった社長が、その言葉を撤回するきっかけとなったのは、同社伝説の赤エナメルで作られた型押し紐付きシューズ、「戦う女」の復刻。女性たちが履くこの靴も往年の女性の象徴のようなピンヒールとは違い、今どきのコーディネートにも合うユニセックススタイル。最近フランス映画で存在感を増しているコメディー・フランセーズ所属俳優でもあるロイック・コルベリーが、悪役になりそうな社長を変わり身が早く、どこか憎めないチャーミングな人物に仕立て上げている。
恋の行方は?正社員の夢は?そもそも、ジュリーの本当の夢は?今までどこか傍観者だったジュリーが、様々な疑問に自分なりの答えを導き出し、前に進みだす時、そこからようやく彼女の物語が始まる。巻き込まれるだけの人生ではなく、自分で選択し、自分の足で進んでいく人生へ。伝統VS効率化という現代の避けられないテーマも、軽やかなミュージカル仕立ての中ではまあ、いいかと思えてしまう。踊りながら闘う女性たちや自分も履きたくなるような素敵な靴と出逢えただけで、C'est bon!(オッケー)なのだ。
(江口由美)