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『台北ストーリー』

 
       

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作品データ
原題 TAIPEI STORY
制作年・国 1985年 台湾 
上映時間 1時間59分
監督 エドワード・ヤン
出演 ホウ・シャオシェン、ツァイ・チン、ウー・ニェンチェン、クー・イーチェン他
公開日、上映劇場 2017年5月20日(土)~シネ・ヌーヴォ、7月1日(土)~元町映画館、今夏、京都みなみ会館他全国順次公開
受賞歴 1985年ロカルノ国際映画祭審査員特別賞

 

~時を越えて甦る!80年代半ばの台北と、そこに生きる男女の将来への揺らぎ~

 
台湾ニューシネマの旗手として、盟友ホウ・シャオシェンと共に80年代前半から2007年死去するまで台湾映画界に傑作を送り出してきたエドワード・ヤン監督。没後10年、生誕70年にあたる今年は、DVD化されず幻の傑作と呼ばれて久しかった3時間56分の大作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)が4Kレストア・デジタルリマスター版で公開され、再び大反響を呼んでいる。60年代初頭の外省人(40年代終わりに中国大陸から台湾へ移住した人)一家と彼らを取り巻く鬱蒼とした社会を描いた物語は、少年少女たちが大人たちの影響を受けて心に闇を抱え、反発、暴走する過程を丁寧に浮かび上がらせる。「何をしても変わらない」という諦めが蔓延している時代だった。
 
 
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そしてもう一つの画期的な出来事が、本作『台北ストーリー』(85)の日本初公開だ。エドワード・ヤン監督の出世作『恐怖分子』(86)の前年に公開された本作は、タイトルの通り、急成長を遂げ、変容していく台北の街が車窓から、また屋上からと様々なショットで流れるように映し出される。「FUJI FILM」の大ネオンのショットは、小津作品に度々登場する当時の街のネオンショットと重なり、初見なのに懐かしさを覚える。経済面での進出、テレビで流れる石原裕次郎のコマーシャルや、広島カープの試合、「原宿や渋谷に行きたい」と若者が語るほどの日本若者文化の浸透など、日本への感情は、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』で描かれた60年代初頭(外省人が居住していた旧日本人住宅の屋根裏から少年らが日本刀や拳銃を見つけるエピソードも描かれていた)と比べても、表面的かもしれないが急速に変化していることが伺える。
 
 
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主人公アリョンを演じるのは、本作が唯一の主演作となったホウ・シャオシェン。本作は共同脚本だけでなくプロデューサーとなり、資金ねん出のため自宅を抵当に入れたという。元野球少年で夢を諦め、家業を継いでいるものの、幼馴染の恋人アジンが望む新しい生活への踏ん切りがつけられないアリョンは、過去に囚われている男。一方、アジンは不動産業でバリバリ働くキャリアウーマンで、突然解雇を言い渡されても、アメリカに住む義理の兄に仕事を紹介してもらおうと、アリョンと共に渡米することを打診する。小さい頃から父に「女は結婚すれば一生お手伝いさんだ」と言われ、母をかばってぶたれていたアジンは、もはや台北に未練を感じず、未来に活路を求めていた。方向性の違う恋人たちがすれ違う様を描くのはラブストーリーの定番だが、その背景にある家庭事情が人物像に深みを与える。アリョンが最後に疾走するシーンは、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』で度々みせた闇の中の美しさが印象的に映し出され、衝撃のラストへと結実していくのだ。
 
 
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スタイリッシュな街の様子だけでなく、出っ張った縦看板が所せましと並ぶ歴史的な問屋街・迪化街、若者たちに流行りのディスコ(「フットルース」で歌い踊る!)などを活写、80年代半ばの台北を余すところなく映し出したドキュメンタリー的価値も大きいだろう。そこには日本の高度成長期を彷彿とさせる台北の姿がある。そして何よりも、エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンという二大巨匠だけでなく、『光陰的故事』(82 オムニバス作品)で共に監督を務めたクー・イーチェン、ホウ・シャオセン作品他の脚本でも知られるウー・ニェンチェンなど、台湾ニューシネマの中心人物が結集して作り上げたという熱を、作られてから30年以上経った今、鮮明な映像で感じられるのがうれしい。長い封印から解き放たれ、4Kデジタル修復版で甦った『台北ストーリー』を、ぜひ見逃さないで。
(江口由美)
 
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公式サイト⇒http://taipei-story.com/
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