原題 | 歸来、COMING HOME |
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制作年・国 | 2014年 中国 |
上映時間 | 1時間50分 |
監督 | チャン・イーモウ |
出演 | チェン・ダオミン、コン・リー、チャン・ホゥイウエン、チェン・シャオイー、イエン・ニー、リュウ・ペイチー、ズー・フォン他 |
公開日、上映劇場 | 2015年3月6日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、シネ・リーブル神戸 ほか全国順次ロードショー |
~愛しいひとを待ち続けることの切なさ~
チャン・イーモウ×コン・リーというだけで、このふたりがタッグを組んだ名作を思い出して泣けるのだが、ここにチェン・ダオミンという渋い名優が加わって、どうにもこうにもアカン。アカンというのは、大阪ことばでは、最上級の賛辞にも使われる逆説的な言葉であることを付記しておきたい。
文化大革命。中国歴史の汚点であるこの人権無視政策のために、いったいどれほどの人々が命を失ったり、心身に耐え難いダメージを受けたりしたことだろう。この映画の夫婦や一人娘も、その暴風に巻き込まれてしまう。夫は、中国共産党からにらまれる右派として強制労働所に送られ、脱走して家族に会おうとするが、失敗する。文革が集結したその3年後の1977年、夫はやっと妻のもとへ帰ることができたのだが、なんということか!妻は夫が誰だかわからない。20年にも及ぶ心痛が、夫の記憶だけを失わせてしまったのである。
それからの夫の孤軍奮闘は実に痛々しい。妻は、夫を近所の親切な男の人としか思っていないのだから、一緒に暮らすわけにはいかず、近くの空き家に別居しつつ妻をじっと見守る。ピアノの調律師として我が家を訪れ、思い出の曲を弾いて妻の記憶を呼び戻そうとしたり、長年に亘って妻に出した手紙を読んで聞かせたり…。だが、そういう夫の一生懸命を他人の“ご親切”としか受けとめられない妻は、以前「5日に帰る」と知らせてきた夫を毎月、駅へ迎えに行くのである。その思いつめたような表情。妻は帰ってくるはずの夫を待ち続け、夫は妻の記憶が戻ることを待ち続けている。待ち続けることだけを余儀なくさせられた人生の、残酷さ、そして切なさ。それでいて、この夫婦の愛情はいっそう深まっていくかのよう、互いに平行線の道を歩むようにして。
チャン・イーモウ監督自身、この反右派闘争により、昔から親族も含めた“負”の苦難に責められたと聞く。彼の胸に常に留まっているその想いが、この映画の根底にもじわりと居座っていて、今、“民主主義の国・日本”に住む私たちにも、国家が人民を統率するという図式の怖さを改めて示しているように思えて仕方がない。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://cominghome.gaga.ne.jp/
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