「ブラジル」と一致するもの

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『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』ジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督トークショー
 
『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』“Le Sel de la terre”
(2014年 フランス=ブラジル=イタリア 1時間50分)
監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
出演:セバスチャン・サルガド
提供:RESPECT 配給:RESPECT×トランスフォーマー
2015年8月1日(土)~Bunkamuraル・シネマ、8月8日(土)~シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、8月15日(土)~シネ・リーブル神戸、8月22日(土)~京都シネマ他全国ロードショー
© Sebastião Salgado © Donata Wenders © Sara Rangel © Juliano Ribeiro Salgado
 

~息子とヴィム・ヴェンダースが紐解く写真家セバスチャン・サルガド、40年の旅路~

 
60年代から40年にも渡って、地球を旅し、虐げられた者、移動せざるを得ない者、労働する者、長きにわたって部族の伝統を守り繋いでいる者、そして人類の営みに惑わされることなく生きる動物や雄大なる自然を、真っ直ぐに撮り続けてきた写真家セバスチャン・サルガド。彼の人生の歩みを写真と共に振り返ると共に、彼の家族人としてのもう一つの物語も語られていく。
 
セバスチャン・サルガドの息子であり映像作家のジュリアーノ・リベイロ・サルガドとヴィム・ヴェンダースが、写真の奥にあるセバスチャン・サルガドの視点、そして彼の実体験に迫るドキュメンタリー『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』。セバスチャン自身の独白だけでなく、ジュリアーノ・リベイロ・サルガドやヴィム・ヴェンダースの語りが挿入され、セバスチャンの知られざる姿を多面的に浮かび上がらせる。
 
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撮影旅行に同行したときの映像では、セバスチャンの写真がなぜあれだけの力を持つのか、現地の人々と一体となっている様子からうかがい知ることができる。大虐殺の現場や、飢餓で亡くなっていく人々など、同じ人間のする残酷さに目を背けたくなるような写真もあるが、それも含めて、セバスチャンが今までカメラで捉えてきたものが今に伝えようとしていることは大きい。一方、セバスチャンが新たなる希望として掲げる「自然の再生」は、希望を失いがちないな現代を生きる私たちに力を与えてくれるのだ。
 
上映後のトークでは、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督が登壇し、「映画の中でセバスチャンが持っている希望を皆さんと分かち合えたならうれしいと思います」と挨拶。映画でも触れられている父、セバスチャン・サルガドとの関係や、ヴィム・ヴェンダース監督の考えた仕掛けについて、たっぷり語って下さった。その内容をご紹介したい。
 

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―――どのようにして、この企画が始まったのか?
ジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督(以下監督):2009年から企画が始まりました。セバスチャンは南アメリカインディアンのゾエ族の写真を撮りに行くことにしました。ゾエ族は女性が非常に重要な位置を占めています。当時の私と父との関係は非常にぎくしゃくしていて、なかなかコミュニケーションができない状況でした。ですから、当時は父の映画を作るなんて考えられませんでした。ただゾエ族は1万5千年前から同じような生活をしている人々に出会う機会はなかなかありませんから、取材旅行に同行することに決めたのです。ゾエ族の人たちは非常に温厚な人たちで、私たち親子にもいい影響を与えてくれました。
 
セバスチャンが仕事をしているときの映像を旅行中撮影していたので、パリに戻ってから編集をはじめると信じられないことが起こりました 映像を撮るときは、映像を撮る人の感情が映像を通して見えてきますが、セバスチャンは息子がどういう感情をもっているか初めて私が撮った映像を通じて見たのです。あまりにも感動して、ずっと涙を流していたのです。私と父の間の扉が開かれ、一緒に映画を作ることもそのとき可能になったのだと思います。
 

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―――写真家である父のどの部分をどういう視点で捉えようとしたのか?
監督:セバスチャンは写真家なので、彼が撮った写真はアルバムや展覧会で観れますが、写真の映画であってはいけない。また、彼の撮影の旅を題材にしてもあまり強いテーマのにはならない。むしろ、世界を40年間特別な視線で見てきた証人として、彼が見てきた世界を描こうとしました。
 
 
―――ヴィム・ヴェンダース監督はどのように映画制作に関わっていったのか?
監督:セバスチャンは非常に色々な人を見た経験がありますし、(映画を通じて)何か分かち合うものがあるのではと、1年間考えました。彼のことを語ることがとても重要で、若い頃世界と対峙していたのが、だんだん変わっていく部分が面白いし、セバスチャンが、世界を見る時の仲介役となって、カメラを通すことでより豊かに表現できた訳です。セバスチャンは、自分がとても耐えられない状況をエチオピアなどで見ることになりますが、彼はその中で自分なりの世界を作っていくわけです。そこで、ヴィム・ヴェンダース監督に連絡をとり、11年から彼に加わってもらいました。
 
 
―――原題の『地の塩』“The Salt Of the Earth”の意味は?1940~50年代にアメリカ映画で『地の塩』という作品もあったが、この作品と関連はあるのか?
監督:唯一関係を考えるとすれば、50年代の同作は鉱山で働く人たちを描いており、社会的なテーマを描いているという部分では通じるかもしれません。実際にはこのタイトルは聖書の一節です。セバスチャンは合理的で神を信じない人なので、少し矛盾がありますが、彼の写真はシンボリックなものを見出だすことができ、ある意味宗教的とも言えます。セバスチャンは人々を通して地球を好きになったのです。色々な人々と出会うことで、彼らの目線で写真を撮っていきました。ですから、人間について語った言葉が、非常に適切ではないかと考えました。
 
 

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―――セバスチャン・サルガドは、写真を撮る活動を辞めて、森に帰っているが、人類を愛する、信じることが今できているのか?
監督:94年、セバスチャンは、ルワンダの撮影から戻り、ルワンダで見たものに心を痛めていました。彼の写真の撮り方や取材旅行の仕方は、行った先の共同体と一体化し、人と人との人間関係を作りそこから、生まれる感動を写真にしていました。彼の写真は何か希望を持っていて、写真を撮ることや見ることで、人々の意識が変わるだろうと思っていました。しかし、ルワンダでは悲惨な状況があり、自分の写真は役に立たないと感じたのです。その時、彼の中で写真を撮ることに終止符が打たれたのです。
 
その後、セバスチャンは故郷の森に戻り、一時はまる裸になった畑に250万本の木を植えるプロジェクトを行いました。そうすると、生態系の頂点にあるジャガーが戻ってきたのです。以前のように絶対人間が前向きに進むという希望は失いましたが、この時彼は、別の希望を持ちました。私たちはゴリラのようにも、海のクジラのようにも、世界の一部になれると思えるようになったのです。彼が発表した13年に発表した『GENESIS』からも、それを感じていただけるでしょう。
 
 

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――――ジュリア―ノさんは子どもの頃、父、セバスチャン・サルガドさんのことをスーパーヒーローと思っていたそうですが、実際に父の仕事の現場を見た感想は?
監督:一緒に旅をしているときは、父のことを全く知ることができませんでした。彼は非常に集中していて、色々な動物や人と出会うことに完全に入り込んでいます。パプアニューギニアでは、2日間歩いてジャングルの森を上がり、村から1~2キロぐらいのところで畑を耕している人々を見つけると、お互い言葉は分からなくても10分間でその人たちと関係を築き、彼らの共同体に入っていくのを目撃しました。その場では、父のことを探求する余裕はないのです。
 
同行しての撮影が終わり、この映画をヴィム・ヴェンダースと仕事をするようになり、彼のおかげで父を見出しました。私は最初からこの映画をどう語ろうか、決めていました。セバスチャンが写真についての話をし、写真と話を結びつけることにより、若者だった彼が40年の経験の中で、どうやって『GENESIS』のセバスチャン・サルガドアーティストになっていったのか、その変容を語ろうと思っていたのです。
 
そこで、ヴェンダースが撮影にあたってとてもいい仕掛けを考えてくれました。セバスチャンをスタジオに座らせ、周りを黒い幕でかこみ、撮影チームも静かにしていて、何も見えない、聴こえない状態に置きます。彼の前に鏡を置き、マジックミラーで、鏡の後ろにはカメラを据えています。鏡には写真が映るようにし、ヴェンダースは写真を変えるだけでした。彼の物語はよく知っていましたので、写真は私が十分吟味して選んでいました。セバスチャンは、2、3枚写真を見ただけで、完全に写真を撮っている時に戻って語りだしたのです。撮影をしたあとに、事前編集をして、初めて他の人の目を通して父が語るのを見て、彼が精神的にどう成長していったのかを知りました。そこから私と父、セバスチャンとの関係は完全に変わり、友人になりました。
 
 
―――:素晴らしい音楽でしたが?
監督:サルガドが見た世界をどのような音楽を使って表現できるか考えました。サルガドの感情が表に出るように、控えめで抽象的な音楽をさりげなく使いたかったのです。ローレント・ピティガントはそれに応えた音楽を作ってくれました。
(江口由美)
 

 
フランス映画祭2015
6月26日(金)~29日(月)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)…終了しました。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2015/
 

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『サンバ』 - 映画レビュー

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samba-b-550.jpg『サンバ』オリヴィエ・ナカシュ監督、オマール・シー舞台挨拶《東京国際映画祭2014》

フランス/オープニング興収No.1
3年前の東京国際映画祭グランプリ&男優賞受賞コンビ凱旋!!
第27回東京国際映画祭 特別招待作品


『最強のふたり』タッグ凱旋来日!
まさかの無茶ぶりに「ダメよ~、ダメ、ダメ」

 


 
2014年10月26日(日)、第27回東京国際映画祭 特別招待作品『サンバ』の舞台挨拶が行われました。
今回初来日になるオマール・シーと3年前に来日したオリヴィエ・ナカシュ監督が登壇し、お二人ならではの、ここでしか聞けないマル秘エピソードや最強のスマイル溢れるトークショーになりました!

【日時】10月26日(日)10:45~ 
【登壇者】オリヴィエ・ナカシュ(41)/オマール・シー(36)


 
samba-b-2.jpgオマール・シーは初来日。
監督と主演のオマール・シーが再タッグし、フランスで大ヒットしている『サンバ』は、ビザのうっかり失効でフランスから退去命令を受けたサンバ(オマール・シー)。ピンチの最中、移民協会で出会った、燃え尽き症候群の元キャリアウーマンのアリス(シャルロット・ゲンズブール)と、陽気な移民仲間。どん底でも失われないサンバの笑顔は、仲間たちを助け、やがてその出会いは奇跡を起こしていく、という物語。

 

上映前の舞台に登場した監督は「またこの場所に来れて大変光栄です」、オマールは「この場所に来れて嬉しいです。3年前に東京国際映画祭で頂いた最優秀男優賞は私にとって俳優として初めて受賞した作品でした。感謝しております。」と挨拶をした。


世界中で大ヒットした『最強のふたり』の後はどうだった?と司会者の質問にオマールは「激変した。世界中を飛び回り、こうやって日本に来れた。なによりも以前と変わったのは英語を話している自分です。勉強して話せるようになりました」と語った。


samba-b-3.jpgのサムネイル画像『最強のふたり』でリズミカルなダンスを踊っていたオマールだが、今回の役は踊りが得意ではない役。

「サンバという名前なのに踊れない」と監督。踊りが得意なオマール・シーに司会者からせっかくだからサンバを踊って欲しいとのリクエストに、オマールは「ダメよ~、ダメダメ」と答え、監督は「いいじゃないの~」と言い、会場のお客さんからは歓声と笑いが起こった。サンバの曲が流れ、軽快なステップで踊るオマールに会場中は笑顔に包まれた。

最後に「フランスで先日公開され、日本が2番目で本作を上映します。皆さん楽しんでください」と監督。
「また日本に帰ってきます。今日は本当にありがとう!」と最強の笑顔でオマール・シーは会場を後にした。

 



『サンバ』

samba-550.jpg(2014年 フランス 1時間59分)
【監督・脚本】エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 『最強のふたり』
【撮影監督】ステファーヌ・フォンテーヌ
【原作者】デルフィーヌ・クーラン

【出演】オマール・シー『最強のふたり』、シャルロット・ゲンズブール『メランコリア』、タハール・ラヒム『ある過去の行方』、イジア・イジュラン
【配給】ギャガ   
★公式サイト⇒ http://samba.gaga.ne.jp/
(c) Quad - Ten Films - Gaumont - TF1 Films Productions - Korokoro

2014年12月26日(金)~TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


 <あらすじ>

samba-2.jpgアフリカからフランスに来て10年、料理人を目指して真面目に働く青年サンバに、ある日突然、国外退去命令が出される。ビザ更新通知にうっかり気付かず、拘束されるはめに。そんな絶体絶命の彼の前に現れたのは、移民協力ボランティアの女性、アリス。大企業のキャリアウーマンだったが、‘燃え尽き症候群’となりドロップアウトした過去を持つアリスは、窮地の中でも屈託ない笑顔を向けてくるサンバに興味を持ち、彼を救おうと尽力することに。

さらに、陽気なブラジル移民ウィルソンや、破天荒な法学生マニュなど、サンバの周りには彼の不思議な魅力にひかれた人たちが集まってくる。皆、心に傷を抱えているが、笑顔を忘れないサンバといると、楽しい気持ちになっていく。生まれも境遇も全く違う人たちのおかしくも風変わりな関係はいつまでも続くかに思えたが、ある日、サンバの身に思いもよらぬことが起こり―。

 

ive-tai-550.jpg『イヴ・サンローラン』主演のピエール・ニネ待望の初来日レポート

(2014年 フランス 1時間46分)
監督:ジャリル・レスペール 
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ 、シャルロット・ル・ボン、ローラ・スメット、ニコライ・キンスキー 

2014年9月6日(土)~角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、T・ジョイ京都 他全国ロードショー

★作品紹介⇒ こちら
★ジャリル・レスペール監督トークレポートはこちら
★公式サイト⇒ 
http://ysl-movie.jp/
(C)WY productions - SND - Cinefrance 1888 - Herodiade - Umedia


 21世紀フランスを代表するイケメン、ピエール・ニネ待望の初来日! 

世紀の天才デザイナー、イヴ・サンローランを完璧に演じ、美貌と実力を兼ね備えたスターの誕生にヨーロッパが騒然!

 

ive-pos.jpg揺るぎなき地位を築いた一流ブランドの創始者にして、世界で最も有名な伝説のファッションデザイナー、イヴ・サンローラン。彼の輝かしいキャリアと人生の、その光と影を描いた感動作『イヴ・サンローラン』は、今年1月本国フランスで公開するや、アカデミー賞を賑わせた『ゼロ・グラビティ』や『あなたを抱きしめるまで』を抜いて、初登場NO.1の大ヒットを記録しました。その主役となったのが、完璧な演技でイヴ・サンローランになりきったピエール・ニネです。

また、本作はイヴ・サンローラン財団所有のアーカイブ衣装の貸し出しの許可も得て制作された、ブランド初公認の本格伝記映画としても話題となっております。

サンローラン役に抜擢されたのは、国立劇団コメディ・フランセーズ在籍のピエール・ニネ。卓越した演技力で酷似した容姿と繊細なキャラクターを見事に再現し、フランスの全国民を圧倒させました。目を見張る演技力にプラスして美しい容姿をもつ彼の人気は沸騰し、いまや大スターに!日本の女性誌もこぞって取り上げるなど、いま最も注目を浴びている若手俳優です。

この度、日本初来日になるピエール・ニネを囲み、サロン会見を開催致しました。超満員のマスコミの熱気に感動したピエール・ニネは「監督に、こんなにたくさん取材に来てくれたよ!と写真を送りたいので、皆さんの写真を撮ってもいいですか?」と25歳らしい無邪気な面もみせ、場を和ませる一面も。多くの質問が飛び交い。会見は予定の1時間をオーバーし、大盛況の中終了致しました。



【イヴ・サンローラン』 ピエール・ニネ サロン会見 概要】

 実施日:2014年8月8日(金) 14:20~
会場:ザ・ペニンシュラ東京(東京都千代田区有楽町1-8-1)
登壇者:ピエール・ニネ


 【サロン会見 内容】

ive-tai-1.jpg■ピエール・ニネからの挨拶
「皆さん今日はお集まりいただいてありがとうございます。この映画に皆さんが興味を持ってくださってとても嬉しいです。世界中をプロモーションで回りましたが、僕にとっても日本は大切で、美しいものについての美学がある国だと思いますが、生前のイヴ・サンローランが愛した国でもありました。今日はよろしくお願いします」

 

■初来日の日本の印象は?
「日本の人たちは互いを重んじて、リスペクトする国、礼儀正しい国だと聞いていたのですが実際に来てみると、本当にそうで、皆さんのふるまいにエレガンスがあって感動しました。サンローランにとってもエレガンスはテーマでしたが、日本にもそれを感じます。僕はしばらく東京に滞在してあと、日本の伝統も見てみたいと思っていますので、京都に行きます」

 

ive-tai-3.png■イヴ・サンローラン役を演じたきっかけは?
「僕にとって思いもよらないオファーだったんです。僕はコメディ・フランセーズに所属しているのですが、パリで舞台の稽古中にジャリル・レスペール監督から電話が来て、ビールを飲まないかと誘われてかけて行ったら、『世紀のラブストーリー、世紀のクリエイションについての映画を撮る、イヴ・サンローランの映画を撮るんだ』と言うので、僕はもちろんすぐに出演をお受けして、『ところで僕は誰を演じるの?』 と聞いたら『イヴ・サンローランだ!』と。こんなに伝説的で鮮烈で魅惑的な役のオファーがあることはないので、自分はとても幸運だと思いました。そして準備することがたくさんあったので、すぐに準備に入ることになりました」

 
 

■映画の世界的ヒットについてはどう思いますか?
「フランス国内で興行的に成功したことで、様々な国が興味をもって下さり、プロモーションでベルリン、ニューヨーク、ブラジルなど様々な国に行きました。世界的にグローバルに受け容れられたのですが、皆さんが興味をもってくださるのは、イヴ・サンローランというブランド帝国の背後にいたのは誰なのか、それはどういう人物だったのか、ということに対する興味なのではないかと思います。映画はイヴ・サンローランという偉大な人物の裏側も描いていますが、サンローランという人は、時代を先読みする鋭い感受性を持っていたがゆえに心が痛み、極端な行動に走る一面もあったのです」

 

ive-tai-4.png■今回の役作りについて教えてください。
「撮影前に5ケ月の期間があったのですが、ipodに彼の本当の声を入れて、1日3、4時間くらい聞いて勉強したほか3人のコーチにもついて勉強しました。1人目のコーチはデッサンで、2人目はフィジカルコーチで、経年によって変わる体のシルエットについてコーチを受けました。3人目はデザインとファッションのコーチで、ファッション業界の様々な専門用語などや布の遣い方触り方、クチュールのアトリエでの仕事の仕方を学びました。実際に練習して撮影現場ですぐに使えるまでもっていきました。役を作りにあたり、僕は最初自分とサンローランの共通点を探そうとしました。聖人のような人物を演じるわけですが、彼だって人間なのだから、と自分との公約的な部分を探したのですが、結果的には全く違う人物なのだと思い至りました。唯一の共通点を言えば、スケールは全く違いますが若くしてクリエイションの道に入った、若くして自分の道が定まったというところだけは共通しているかもしれませんね。ですから役作りはとても必要でした。」

 

■まだ25歳のあなたにとって生まれていない時代のことを演じるのは大変だったのではないですか?
「僕の世代が直接知らないことを学ぶこは大変面白かったです。イヴ・サンローランの歴史はフランスの歴史に通じるんです。彼は時代を先取り先読みしていた人でしたから、ミリタリーを洋服として着る人がいなかった時代に、ミリタリー・ルックを打ち出したりしましたし、70年代のヒッピー文化の時代については僕自身歴史を再体験するようで面白い経験でした。」

 

ive-tai-5.jpg■この映画はイヴ・サンローラン財団の初公認映画ですが、彼の衣装を目にした時の印象は?
「彼は時代を先読みするビジョンと頭脳の明晰さを行使して、人々は何を好きになるかということを先取りして読むことができる能力がありました。とても印象的だったは、撮影現場モンドリアンのドレスが運び込まれてきた時でした。係員の方が、美術品を扱うように手袋をして触っていたのです。もちろん着用したモデルさんは座っても駄目、食べ物や飲み物も駄目という制限の中で撮影しました。最後に手袋なしでこのドレスを触ったのは、イヴ本人だったのかもしれないと考えたら、とても感銘を受けました。」

(角川映画リリースより)

 

babel-s550-2.jpg『バベルの学校』
La Cour de Babel

監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
出演:ブリジット・セルヴォー二
2013/フランス/89分/ビスタ/5.1ch 配給:ユナイテッド・ピープル
2015年年始公開

© Pyramide Films




babel-2.jpg フランスには、”Classe d'accueil”と呼ばれるクラスが学校に設けられている。他国からフランスに移住してきたフランス語を母語としないこどもたちが、不自由なくフランスで生活し、フランスで教育を受けることができるよう、フランス語学習を強化した特別クラスだ。ジュリー・ベルトゥチェリ監督は、このクラスの日常を、自然なかたちでカメラにおさめた。年代は11歳〜15歳。アイルランド、セネガル、ブラジル、モロッコ、中国……出身国も違う、言語も違う、宗教も違うといった、さまざまな事情を抱える24人の生徒たちと、彼らの自立と成長を見守るブリジット・セルヴォニ先生との交流、そのありのままの姿が、8ヶ月にわたって語られる。

 テレビのドキュメンタリー番組を数多く手がけるベルトゥチェリ監督は、初の長編映画『やさしい嘘』では、2003年度カンヌ国際映画祭の国際批評家週間で大賞を受賞するという経歴も併せ持っている。 

 上映終了後にジュリー・ベルトゥチェリ監督と、ブリジット・セルヴォニ先生の二人が登壇、東京国際映画祭プログラミングディレクター・矢田部吉彦さんの司会で、Q&Aが行われた。
 



babel-s2.jpg――― 監督の映画を観るのは、『やさしい嘘』、『パパの木』に続き、今回が3回めになります。どの作品にも「命の大切さ」という共通のテーマが感じられます。この『バベルの学校』では、フランス語が話せなかったらフランスで生活ができず、自分の国に帰ると今度は命が危険にさらされてしまうこどももいましたが・・・?

ベルトゥチェリ監督:常に死と生を考えてはいますが、今回は特に意識はしませんでした。ただ、この作品にはつらい経験をしてきたこどもたちも登場し、必然的に『死』は反映されていると思います。試練を乗り越えたこどもたちから、そんな命の大切さを感じていただけたとしたら、嬉しいです。

――― ブリジット・セルヴォニ先生に質問します。毎週土曜日、外国にルーツを持つこどもたち(小学生〜高校生)の学習支援をしている者です。『バベルの学校』はフランスの映画ですが、日本も同じような状況にあると感じます。両親と離ればなれで暮らしていたこどもが、ようやく親から呼び寄せられたり、将来のことを考えて母国から離れてやってくるこどもたちが日本にもいます。そんな生徒たちに接するにあたり、どのようなことを心がけ、どのように接していけばよいか教えていただけますか?

babel-s3.jpgセルヴォニ先生:第一に、生徒たちの声を聞くことです。そして、生徒を励ますこと。その子の価値を引き出して自信を持たせてあげること、この3つが大切なことです。

ベルトゥチェリ監督:ブリジット(セルヴォニ先生)は、決して成績の良し悪しにはこだわりません。テストの点が悪かった場合は、教師の説明が悪かったからと考える人です。そして2−3週間後にもう1度テストをし、それでも悪ければ3回めをする。そして3回の中でいちばん高い点数を成績に反映するという方法を取っていました。そういうところがすばらしいですし、教育とは本来そういうものだと思います。

―――(司会の矢田部さんより質問)映画の中で、生徒たちが宗教について語るシーンがありましたね?

セルヴォニ先生:フランスでは、宗教を教育の場に持ち込むことを禁止しています。しかし、生徒たちの中から今ある問題を引き出し、異なる宗教を持つ人を理解できるようになってほしいと考えました。喧嘩ではなく、議論をすることによって相手の立場を考え、一緒に生活していくにはどうしたらよいか学んでもらおうとして、このような方法になりました。

babel-1.jpg――― 生徒たちの表情がとても自然でした。カメラの前でプレッシャーはなかったのでしょうか。監督はどのように撮影されたのですか?

ベルトゥチェリ監督:まず、自分のことを話し、生徒たちと信頼関係を築くことから始めました。監督である私自身が肩にカメラを乗せ、生徒と適度な距離をとりながら撮影しました。ドキュメンタリーは、被写体から自然にわき上がってくるものを撮るものと思っているので、インタビューは行わずに、自然発生した動きを私が拾っていきました。

――― 2年前に撮影されたかと思うのですが、生徒たちとは、その後も連絡は取り合っているのでしょうか?

セルヴォニ先生:生徒と先生の絆が強いクラスなので、卒業後も連絡を取り合っています。また、生徒たちも勉強を続けています。

 フランスにいてさみしいといっていた子も幸せな生活を送り、落第しかけた子も進級できた。3人ほど、故郷の国に帰ったこどもたちがいたが、生徒同士も、FacebookやEメールで連絡を取り合っているという。

「10年後の彼らを撮りたい」と、ベルトゥチェリ監督は語り、Q&Aは終了した。



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 初めて教室でカメラを回したときは、戸惑いがちの生徒もいた。しかし、10月からの8ヶ月間、週2-3回のペースで学校に通いながら、ベルトゥチェリ監督は、生徒たちとの信頼関係を少しずつ築き上げてきた。自分自身のこと、どのような作品をめざしているかなど、監督は生徒たちに根気よく説明をした。生徒たちがカメラの前でも自然に振る舞えたのは、このような日常があったからだ。

 ある朝、ブリジット先生から電話が入る。「急に転校することになった生徒がいる」と。ベルトゥチェリ監督は朝食の支度を中断し、カメラをかついで学校に向かった。感動的なシーンの数々は、ブリジット先生の理解と協力があってこそだった。ブリジット先生のこんな気配りは、本編にちりばめられたさまざまなシーンからも容易に知ることができる。そして、映画祭上映後のQ&Aで、「生徒たちへどのように接するべきか」という観客からの問いに対する、先生の答えが心に残る。「生徒の話を聞くこと。生徒を励ますこと。その子の価値を引き出して自信を持たせてあげること、この3つです」。

『バベルの学校』は2015年新春、日本での順次公開が予定されている。

(田中 明花) 

『イタリア映画祭2014』作品紹介(河田充規)

(2014.4.26~29,5.3~5 東京有楽町朝日ホール) (5.10・11 大阪ABCホール)

 

~いま世界で最も輝いているイタリア映画~

 

F フェデリコという不思議な存在-1.jpg エットレ・スコーラ監督は,フェデリコ・フェリーニに対するオマージュフェデリコという不思議な存在』で,2人の出会いや交友を描き,フェリーニの着想の原点に触れ,自分の葬儀の場から抜け出したフェリーニと共にその作品を振り返る。映画は”動くだまし絵”であり,騙される楽しみの中から監督の人生観が立ち上ってくる。以下の10作品には,人々がどのような状況に置かれようと,必ず希望はあるという人生観が共通している。

B 自由に乾杯-1 - コピー.jpg 最大野党の書記長エンリコは,党大会で野次を浴び,昔の恋人ダニエルの下に逃避し,若かった頃の自分を見つめ直す。一方,瓜二つの双子の弟ジョヴァンニは,書記長の影武者を務め,見事に部下や妻の心を掴み,政治の表舞台に躍り出る。兄は,弟から本当の自分でいた試しがないと言われるが,過去に立ち戻ることで自分を取り戻し,見失っていた未来を再び見出したようだ。『自由に乾杯』では,イタリアの将来への希望が感じられる。

C ようこそ、大統領-1 - コピー.jpg 同じく政治を題材にしたファンタジー『ようこそ,大統領!』では,選挙によりジュゼッペ・ガリバルディが大統領に選ばれる。政治家だというだけで生卵を投げつけられる世相の中で,国民はイタリア統一の英雄の再来を期待したのだろう。その男は,50歳になる臨時の図書館員だったが,大統領に就任すると,支持率が70%を超え,外交でも勝利をもたらす。イタリア式喜劇のパワーがあれば,苦境を乗り越えて希望を見出すことができる。

K 存在しない南-1.jpg イタリア南部カラブリアを舞台とする『存在しない南』は,旧来の状況を変えたいという若い世代の欲求を描いた,低予算の初監督作品だ。グラツィアは,海の底から上がってくる兄ピエトロと会った夢を見て,兄の失踪(死の真相)を語らない父に反発を覚える。その沈黙がもたらす悲しみや怒り,不安や恐怖のため,閉塞感に包まれるが,ラストではグラツィアが初めて笑顔を見せる。暗がりの中で光が点灯したような感動が広がっていく。

H 南部のささやかな商売-1 - コピー.jpg 人生はやり直せることを描いた『南部のささやかな商売』は,楽しい群像劇で,音楽も聞き逃せない。50歳のコスタンティーノは,恋に落ちて神父を辞め,故郷に戻って古びた灯台で暮らし始める。そこには,幼馴染みのアルトゥーロ,彼と形だけの結婚をした妹ローザ・マリア,その愛人ヴァルボーナ,その姉の40歳で売春婦を辞めたマニョーリアらが集まる。そして,灯台はホテルに生まれ変わり,人生は新たな出発の時を迎えるのだった。

G 初雪-1.jpg イタリア北部の村を舞台とする『初雪』では,リビアの内戦を逃れてきたダニが人生を見つめ直す。妊娠中だった妻ライラは,イタリアに着くと,娘ファトゥを残して26歳で亡くなった。娘を見ると妻を思い出すダニは,娘を残して一人でパリに行こうと決意する。彼は,世話になっているピエトロの孫ミケーレとの交流を深めていた。父を亡くしたミケーレがその悲しみを乗り越えたとき,ダニも妻を亡くした悲しみを乗り越えたに違いない。

L 多様な目-1.jpg 目の不自由な人々の日常を捉えたドキュメンタリー『多様な目』を見ると,目から鱗が落ちる。手で彫ったり磨いたりして生み出される彫刻は,目で見るだけでは決して理解できず,手で触れて鑑賞しなければならない。目が見えないからこそ目の見える人には見えない光景が見えていることが,目の見えない人の世界に視点を据えることによって見えてくる。身体の一部を失ってもポジティブに生きる人々の姿から見えてくるのもまた希望だ。

A いつか行くべき時が来る-1.jpg 子と夫を失ったアウグスタ30歳は,喪失感を埋め,自分自身を見つめ直すため,ブラジルに赴く。『いつか行くべき時が来る』で描かれる旅の行程は,出口の見えない闇の中を手探りで進むようなものだ。だが,アウグスタは,ラストの浜辺でたまたま出会った男の子とはしゃぎ回る。親子3人は舟で去っていくが,浜辺ではアウグスタの笑顔が弾けるように輝いている。ここでも,絶望や苦難を乗り越えた先に希望があると信じさせてくれる。

D ミエーレ-1 - コピー.jpg イレーネは,医学部を2年で中退し,不治の病の人々に死の手助けをしている。仕事上は⑨『ミエーレ』 (蜂蜜)と名乗り,自らの苦しさを紛らわすように海で泳ぐ。彼女の心境や日常をコラージュするようなカットが重ねられる。音楽もユニークだ。忌まわしい職業だと言われたこともある。健康なのに死を望む技師グリマルディに心を開いていく。彼が去った後,その言葉のとおりモスクで風が舞い上がる,イレーネの転機を祝福するように。

J マフィアは夏にしか殺らない-1.jpg パレルモが舞台の⑩『マフィアは夏にしか殺らない』は,アルトゥーロの成長の背景にマフィアとの闘争を通観するコメディだ。彼の命は,ラツィオ通りの虐殺があった1969年12月に芽生えた。彼は,少年期に恋するフローラとの出会いと別れを経験し,青年期に再会して彼女の歓心を得ようとする。色々あって結婚し息子が生まれ,21世紀になってマフィアに暗殺された人々の記念碑を訪ねて回る。新たな時代が過去の経験の上に築かれていく。

I 無用のエルネスト-1.jpg エルネストは,1967年10月父から役立たずと言われた。だが,主に運送業を営んで妻アンジェラとの家庭を守り,社会の波に乗る親友ジャチントとの交友も続ける。社会の出来事と同様,彼の人生にも明暗があった。肺癌の宣告を跳ね返し,2013年5月には宝くじで50万ユーロが当たった幸運を噛みしめる。ローマが舞台の⑪『無用のエルネスト』は,イタリアの変転する社会状況の中で慎ましく生きる市民の姿をコミカルなタッチで描いていた。

 以上の11本のほか,特別上映作品2本を除き,映画祭では⑫『サルヴォ』も上映された。未見だが,舞台はパレルモで,タイトルロールは殺し屋だという。彼は,ターゲットの家に忍び込み,その妹で目の見えないリタと遭遇するが,相手を仕留めたとき,リタの目に光が宿り,彼女を救おうと組織から逃げる,という展開のようだ。寡黙でユニークな表現がカンヌ国際映画祭で評価されたらしいが,2人の逃避行の先には救済があるのだろうか。

(河田 充規)


 ①『フェデリコという不思議な存在』 
2013年/93分 原題:Che strano chiamarsi Federico
監督:エットレ・スコーラ Ettore Scola
出演:トンマーゾ・ラゾッテ(フェリーニ)、マウリッツォ・デ・サンティス(老年期のフェリーニ)、ジュリオ・フォルジェス・ダヴァンツァーノ(エットレ・スコーラ)

②『自由に乾杯』
2013年/94分 原題:Viva la libertà
監督:ロベルト・アンドー監督 Roberto Andò
出演:トニ・セルヴィッロ(エンリコ・オリヴェーリ/ジョヴァンニ・エルナーニ)、ヴァレリオ・マスタンドレア(アンドレア・ボッチーニ)、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ(ダニエル)

③『ようこそ、大統領!』
2013年/100分 原題:Benvenuto Presidente!
監督:リッカルド・ミラーニ Riccardo Milani出演:クラウディオ・ビジオ(ペッピーノ)、カシャ・スムトニャク(ジャニス)、ジュゼッペ・フィオレ(白髭の政治家)

④『存在しない南』
2013年/90分 原題:Il sud è niente
監督:ファビオ・モッロ Fabio Mollo
出演:ヴィニーチェ・マルキョーニ(クリスティアーノ)、ミリアム・カールクヴィスト(グラツィア)

⑤『南部のささやかな商売』
2013年/103分 原題:Una piccola impresa meridionale
監督:ロッコ・パパレオ Rocco Papaleo
出演:リッカルド・スカマルチョ(アルトゥーロ)、バルバラ・ボブローヴァ(マニューリア)、ロッコ・パパレオ(コンスタンティーノ)

⑥『初雪』
2013年/105分 原題:La prima neve
監督:アンドレア・セグレ Andrea Segre
出演:ジャン=クリストフ・フォリー(ダニ)、マッテオ・マルケル(ミケーレ)、アニタ・カプリオーリ(エリーザ)

⑦『多様な目』
2013年/94分 原題:Altri occhi
監督:シルヴィオ・ソルディーニ、ジョルジョ・ガリーニ Silvio Soldini,Giorgio Garini
出演:エンリコ・ソージオ、マリサ・サントーニ ほか

⑧『いつか行くべき時が来る』
2012年/110分 原題:Un giorno devi andare
監督:ジョルジョ・ディリッティ Giorgio Diritti
出演:ジャスミン・トリンカ(アウグスタ)、アンヌ・アルヴァーロ(アンナ)、ピア・エングレベルト

⑨『ミエーレ』
2013年/96分 原題:Miele
監督:ヴァレリア・ゴリーノ Valeria Golino
出演:ジャスミン・トリンカ(イレーネ「ミエーレ」)、カルロ・チェッキ(カルロ・グリマルディ)、リベロ・ディ・エンツォ(ロッコ)

⑩『マフィアは夏にしか殺らない』 
2013年/90分 原題:La mafia uccide solo d'estate
監督・原案・脚本・出演:ピエルフランチェスコ・ディリベルト Pierfrancesco Diliberto
出演:クリティアーナ・カポトンデ(フローラ)、ピフ(アルトゥーロ)

⑪『無用のエルネスト』
2013年/113分 原題:L'ultima ruota del carro
監督:ジョヴァンニ・ヴェロネージ Giovanni Veronesi
出演:エリオ・ジェルマーノ(エルネスト)、リッキー・メンフィス(ジャチント)、アレッサンドラ・マストロナルディ(アンジェラ)

⑫『サルヴォ』
2013年/104分 原題:Salvo
監督:ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ Fabio Grassadonia,Antonio Piazza
出演:サーレフ・バクリ(サルヴォ)、サラ・セッラヨッコ(リタ)、ルイージ・ロカーショ(エンツォ・ブレオ)

『イタリア映画祭2014』を見終えて(+大阪会場でのおススメ)

(イタリア映画祭公式サイト⇒ http://www.asahi.com/italia/2014/) 
 

~“世界最高の水準”をいくイタリア映画の醍醐味を満喫~


グレートビューティー.jpg 今年のGWもイタリア映画祭を満喫することができて嬉しい。4月26日(土)~29(火・祝)、東京は有楽町にある朝日ホールにて14本の新作が上映された。最初、マフィアの血の歴史を少年の成長と共に軽妙に描いた『マフィアは夏にしか殺(や)らない』の面白さに驚き、最後、見たこともないローマの美しい映像に圧倒された『グレート・ビューティ/追憶のローマ』で締めくくった。興奮覚め止まぬまま、帰りの新幹線に飛び乗った。大阪はどしゃ降りの雨だったが、『地上5センチの恋心』(06仏)のカトリーヌ・フロではないが、身も心も宙に浮いているような気分で、全く気にならなかった。

マフィアは夏にしか殺らない.jpg 今回の上映作品は、大変ユニークで充実したラインナップとなった。シチリアを舞台にした①『マフィアは夏にしか殺(や)らない』、②『サルヴォ』、③『存在しない南』の3作品は、マフィアを題材にしながら、それぞれ全く違うアプローチの仕方でマフィアの恐怖に迫り、強烈な作家性を感じさせる作品となった。ローマを舞台にした人間模様が描かれた④『グレート・ビューティ/追憶のローマ』、⑤『無用のエルネスト』、⑥『フェデリコという不思議な存在』、⑦『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』、⑧『自由に乾杯』、⑨『ようこそ、大統領!』の6作品。⑧と⑨は、政治の世界を容赦なく風刺するというイタリアの伝統芸で楽しませてくれる。また、スター俳優を揃えた⑩『南部のささやかな商売』では、偏見や人生の再生を軽やかに謳いあげて楽しい。

ミエーレ.jpg ⑪『ミエーレ』では、カトリック教国イタリアではまだ十分に理解されていない安楽死問題を、人間の生き方も合わせて問いかけている。⑫『いつか行くべき時が来る』では、ブラジルのアマゾン川流域を舞台に、イタリアからやってきた傷心の女性の変容を描いている。⑬『初雪』では、イタリア北部のアルプスに近い自然豊かな地方を舞台に、アフリカからの移民を通して心に傷を負った家族の在り方を考えさせる。⑭『多様な目』では、各地で前向きに生きる視覚障害者たちの姿を通して、気付かなかった新たな世界を見せてくれる。

南部のささやかな商売.jpg ひとつ残念だったのは、リッカルド・スカマルチョ(34)とジャスミン・トリンカ(33)という美男美女のゲストの来日が叶わなかったことだ。『昼下がり、ローマの恋』や『赤鉛筆、青鉛筆』(8/23~『ローマの教室で~我らの佳き日々~』というタイトルで公開決定!)『ローマでアモーレ』などできらめく瞳で魅了するリッカルドと、今回の上映作品中『ミエーレ』『いつか行くべき時が来る』の2作品に主演しているナイーブな美しさが印象的なジャスミンに会いたかった!

DSC00191_r1_c1.jpg それでも、昨年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』のジャンフランコ・ロージ監督をはじめとする、8人のゲストによるアフタートークは充実していた。特に、『南部のささやかな商売』を監督した俳優としても有名なロッコ・パパレオ監督は、他の作品の上映会にも参加して、アフタートークではちょっとおかしな質問で会場を笑いで包んでくれた。彼自身のアフタートークでは、“アザラシダンス”!? なるものを披露してくれて、観客総立ちで踊る!という前代未聞のアクシデントが起こった。(後日レポートします)

 今年は作品も充実していたが、観客動員数も昨年より明らかに多かったように思う。アフタートークでは客席から盛んに質問が上がった。イタリア映画についてだけではなく、邦画と比較した質問や、世界の社会問題についてなど多岐に渡り、観客の映画への関心の高さが感じられた。

 フランス映画祭のゲストトークなどでよくお見掛けする映画評論家の秦早穂子さんにお会いすることができた。「イタリア映画祭の方がよく来るのよ」と言われたのは意外だったが、見終えてみて、その理由がよく分かる気がした。フランス映画祭は、バラエティに富んだラインナップで、ゲストも有名女優が団長を務めることもあり全体的に華やかで、若い客層にも人気がある。だが、作品の人物描写やテーマ性に言及すると、イタリア映画祭のラインナップの方が充実していると思う。

 
自由に乾杯.jpg 大阪では5月10日(土)・11(日)にABCホールにて7本が上映される。あの固い椅子のABCホールで7本全部見るのは健康上良くない。せめて、座布団持参で見に行ってほしい。そこで、全部見られない方のために、おススメ作品を下記にご紹介したい。

 
 

・5/10(土)12:30~①『ミエーレ』、15:15~②『マフィアは夏にしか殺(や)らない』

・5/11(日)13:40~③『ようこそ、大統領!』、16:05~④『自由に乾杯』

(フェデリコ・フェリーニ監督に興味のある人は11:00~『フェデリコという不思議な存在』 もおススメ。でも、この作品はエットレ・スコーラ監督によるフェリーニ監督へのオマージュが捧げられた逸品なので、一般公開される可能性は高いと思われます。早く見たい方は頑張って見て下さい。)

★シネルフレでは、順次作品紹介やアフタートークの模様をレポートしていく予定です。

(河田 真喜子)

 

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