原題 | THE ZERO THEOREM |
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制作年・国 | 2013年 イギリス,ルーマニア,フランス |
上映時間 | 1時間47分 |
監督 | テリー・ギリアム |
出演 | クリストフ・ヴァルツ,マット・デイモン,メラニー・ティエリー,ルーカス・ヘッジス,デヴィッド・シューリス,ティルダ・スウィントン, |
公開日、上映劇場 | 2015年5月16日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ京都、5月23日(土)~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開 |
~情報社会で人間が生きる輝きを取り戻す~
高度情報化は,生活の利便性を向上させる反面,管理社会の危うさをもたらすことが指摘されている。マンコムという特定の企業が個人に関する大量の情報を管理し,その生活や行動を監視し支配する社会では,人間の絶望感や無力感が生み出される。「未来世紀ブラジル」と同じ監督によるその進化形(21世紀版)のような映画だ。ストーリーよりも,シャガール風の色合いで彩度を高くしたようなレトロ調の近未来都市が強烈な印象を残す。
コーエンは,勤務先のマンコムのマネージャーから在宅勤務を認めてもらい,荒廃した教会にこもって仕事をする。与えられた仕事は,”ゼロの定理”の解明という,到達できるかどうかが分からない代物だ。彼は,心の中にブラックホールのような虚無を抱え,人生の目的を教えてくれる電話をずっと待っていた。教会を取り巻く街は,そこに住む人々の多くが人間の存在意義を見失っているようで,拠り所を提供する電子広告で溢れている。
マット・デイモン扮するマネージャーは,椅子やカーテンにカモフラージュする。支配者が背景に溶け込んでいるため,人々はその存在に気付かない。知らないうちにコントロールされている怖さが感じられる。また,ディスプレイに現れるDr.シュリンク・ロムを,ティルダ・スウィントンが怪演している。彼女は実体を伴っているのか虚構に過ぎないのかが判然としない。バーチャルな社会が実体を持ち始めたような不気味さを醸している。
コーエンを映すシーンが時折モノクロになり,次第にそれが監視カメラの映像であることが分かってくる。リアルな社会の公園は,禁止事項だらけで,もはや閉塞感を通り越して滑稽でさえある。混沌とした世界の中で,彼が上司からクインと呼ばれるのは個性が希薄であることを,彼が自分を我々と言うのは自己が埋没していることを表していた。コーエンは,マネージャーの息子ボブと出会い,リアルな社会における自分の存在を認識する。
コーエンは,バーチャルな社会でベインズリーとデートするが,それは人工的な楽園への逃避に過ぎなかった。電話があるというのは妄想だと知り,自分が支配されていることに気付き,逃げるのを止める。自我を意識し生きる意義を見出したとき,上司からコーエンと呼ばれ,自分を指して私と言う。心の中のブラックホールを突き抜けた先に,自分の意思で生きるコーエンが存在した。人間同士の交流が閉ざされた世界の扉を開く鍵となる。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.zeronomirai.com/
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