「フィリピン」と一致するもの

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『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』大ヒット御礼!大友啓史監督、佐藤健、青木崇高が日本縦断舞台挨拶@大阪
(14.8.9 大阪ステーションシティシネマ)
登壇者:大友啓史監督、佐藤健、青木崇高
 
(2014年 日本 2時間19分)
監督:大友啓史
出演:佐藤健、武井咲、伊勢谷友介、青木崇高、蒼井優、江口洋介、藤原竜也
2014年8月1日(金)~全国大ヒット公開中
(C)和月伸宏/集英社
(C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
 
RNK2-1.jpg幕末から明治維新に渡る激動の時代を斬新なアクションと佐藤健演じる主人公剣心が大好評を博した『るろうに剣心』が、前作を超えるスケールの大きいアクション大作となってこの夏スクリーンに参上。その第一弾となる『るろうに剣心 京都大火編』が8月1日から全国公開され、大反響を呼んでいる。
 
 
 
“人斬り抜刀斎”として恐れられたのも今は昔、前作の闘いを経て新時代で穏やかな暮らしを送っていた剣心(佐藤健)の前に、新政府がかつて焼き殺しながら奇跡的に甦った影の人斬り、志々雄真実(藤原竜也)を討てとの依頼が届く。
 

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包帯でぐるぐる巻かれた顔の奥に血塗られた眼光がギラリと光る最大の強敵志々雄の禍々しさや、志々雄の弟子、瀬田宗二郎(神木隆之介)の飄々とした殺気、冷酷な二刀流の使い手、四乃森蒼紫(伊勢谷友介)と剣心に協力を惜しまなかった爺(田中泯)との壮絶な闘いなど、前作以上の壮絶なアクションは一瞬たりとも見逃せない。
 
 

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不殺の誓いを胸に京都を駆け抜け、強敵たちと対峙する剣心の葛藤や闘いぶり、また剣心の苦境を助ける相楽左之助(青木崇高)の存在感など、前作の登場人物たちがさらに成長し、新しい一面を見せている。9月13日公開『るろうに剣心 伝説の最期編』が待ちきれなくなる衝撃のラストにも注目したい。
 
 
 

 

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前日はフィリピンで舞台挨拶を行ったという大友啓史監督、佐藤健、青木崇高が、福岡を皮切りに10都市で大ヒット御礼全国縦断舞台挨拶を開催。大阪では大阪ステーションシティシネマにて上映後舞台挨拶が行われ、映画の感動冷めやらぬ観客から大きな歓声が沸き起こった。
 
 
 
 
 

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「大分カロリーの高い映画だったので、ドッとくるでしょ?上映後の舞台挨拶なのでみなさんと映画のことについて話をできれば」(佐藤)
「こんにちは!みなさん映画を観てくださって“マラーミング サラマートゥ”!(「ここは日本!」と佐藤にツッコまれて)タガログ語が出てしまいました。台風が来て足元が悪い中、ありがとうございます」(青木)

 

 

 

 

 

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「おかげさまでいい感じでスタートできました。この1週間、カナダ・モントリオールに行き、現地の熱狂を目の当たりにしてきました。映画が始まる前にスタンディングオベーションが起きたのは初めてだそうです。大阪も前作はすごい熱気だったので、みなさんに背中を押してもらって『るろうに剣心 伝説の最期編』まで突っ走りたい」(大友監督)と最初の挨拶から観客と対話をしているような和気あいあいとした雰囲気に。阪神タイガースの帽子を被っている青木に、佐藤が「毎日被ってますね」とツッコむと「毎日被っています。映画でも被ってたでしょ?」と返し、リラックスムードで観客からの質問タイムにうつった。
 
 
 
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剣心の口癖「ござる」を日常生活でも使っているのかという微笑ましい質問に、「撮影中にも使っていました。『本番でござる』とか『カットでござる』」と佐藤が答えると、すかさず「そんなことあったか?」と大友監督のツッコミが入って笑いを誘う場面も。また、土屋太鳳演じる操に剣心が引っ張られていくシーンでは、佐藤の薄笑いしたカットが大友監督に気に入られて採用されたという裏話が披露され、会場から笑いが巻き起こった。

 

 

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途中、大阪にゆかりのある有名人によるメッセージの朗読では、最後に送り主が青木自身であることが明かされ、前の舞台挨拶の地広島から移動の新幹線の中で書いたと、他の二人を驚かせる一幕もあった。最後に登壇者を代表して「待ってくれる皆さんがいるので、映画が公開でき、本当に感謝しています。『るろうに剣心 伝説の最期編』につながるように、できたら力を貸してほしい」と佐藤が挨拶し、舞台挨拶を締めくくった。ゾクリとさせられる冒頭シーンから、早く続きが観たくて仕方がなくなるような衝撃のラストシーンまで2時間強があっという間の濃密なアクション活劇。最強の敵にどう立ち向かうのか。剣心の闘いの行方が今から楽しみだ。(江口由美)

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instantmommy1.JPG『インスタント・マミー』レオ・アバヤ監督、主演ユージン・ドミンゴさんインタビュー
『インスタント・マミー』“Instant Mommy”
2013年/フィリピン/102分
監督:レオ・アバヤ
出演:ユージン・ドミンゴ、松崎悠希、シャメイン・ブエンカミノ

特別招待作品部門『インスタント・マミー』作品紹介はコチラ

昨年の『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』(OAFF2013)で来阪時に、相手役の日本人俳優募集を呼びかけたユージン・ドミンゴ主演作が今年の大阪アジアン映画祭で凱旋日本初上映された。ユージン・ドミンゴが日本の恋人とスカイプで遠距離恋愛する様子の悲喜こもごもをコミカルに描いたフィリピン映画『インスタント・マミー』。恋人カオル(松崎悠希)の子を身ごもったCM衣装係見習いのベチャイ(ユージン・ドミンゴ)は、流産してから連絡が途絶えたカオルを懲らしめるべく疑似妊娠大作戦を決行する。一方、なかなか離婚調停が進まないカオルもなんだか隠し事がありそうな雰囲気がプンプン。スカイプだけで一見穏便に関係を育んできた二人が、リアルの出会いを果たした時、どんな展開が起こるのか。結婚や出産を前に揺れる女心を等身大で演じるユージン・ドミンゴが魅力的な国境を越えたラブコメディーだ。

昨年に続き、大阪アジアン映画祭では3度目の来阪で、今回は国際審査員も務める主演のユージン・ドミンゴさんと、本作が初監督作となるレオ・アバヤ監督に、本作やフィリピン映画界についてインタビューを行った。上映後のQ&Aと合わせて紹介したい。

 


<上映後のQ&A>
―――脚本はオリジナルですか?
レオ・アバヤ監督(以下監督):何年も前にクリス・マルティネス監督とジェフリー・トレア監督が作り、長い間棚上げされていた原案を今回映画にしました。私がよく知っている広告映像の世界とこれまで会ってきた人たちをアイデアとして加え、元々のストーリーに私なりのひねりをいれながら新しい作品として映画にしました。

―――今回日本人俳優の松崎悠希さんが出演されていますね。
監督:前回の大阪アジアン映画祭でユージン・ドミンゴさんとクリス・マルティネス監督が来日した際に、映画祭関係者や取材に来られたジャーナリストの方々に呼びかけして、日本人俳優でユージン・ドミンゴの相手役となる重要なキャストを探しているとお願いをしました。その呼びかけを大阪でさせてもらったおかげで、最終選考に14人残り、その中から松崎さんを選ぶことができて本当にうれしく思っています。台北やシンガポールからも応募があり、結局ロサンジェルスから応募された松崎さんに決まった訳ですが、松崎さんには日本語の台詞を訂正してもらったり、ユージン・ドミンゴさんの日本語の台詞もずいぶんコーチしてもらいました。

instantmommy4.JPG―――ユージンさんの話す日本語がとてもキュートでしたが、松崎さんとの共演はいかがでしたか?
ユージン・ドミンゴさん(以下ユージン):本当に?日本語の台詞はほとんど忘れてしまいましたが、「ありがとう」「愛してます」は印象に残っています。この言葉はどの言語でもとても重要な言葉ですから。松崎さんは現場でも手伝ってくださり、私の台詞ももっと自然に聞こえるように指導してくれ、気持ちいい人柄の方なので、今回一緒に来れなかったのが残念です。
私たちの作品はインディーズ作品なので、普段松崎さんが慣れている仕事のやり方とずいぶん違ったと思います。入国早々セットに入ってもらい、パソコンを通じてやりとりする部分をすぐに撮影しました。隣の部屋に入って撮影していたのですが、初日に私が胸を見せたりして、たった5日間で全てのシーンを撮影したので大変だったと思います。

instantmommy5.JPG―――フィリピンで日本人男性はどう思われているのか?
監督:日本人男性について、ステレオタイプのようには描いていません。色々なことに対して反応するカオルの姿は、人生そのものではないかと思います。
カオルという人物像については、日本に長期滞在経験のある友人のフィリピン大学女性教授は、カオルは一人の男性として悩んでいる、率直にべチャイを愛していて、紳士的すぎたために夫婦のヨリを戻したことを言い出せないでいる一人の男性の弱さが現れていると語っていました。
ユージン:映画の中では一つの状況を作り上げて、そこに日本人の男性とフィリピン人の女性の出会いを作りだし、物語が展開していくという部分では、ある意味日本人男性のステレオタイプの部分もあるし、フィリピン人女性のステレオタイプの部分を映画で提示しているといえます。でも実際の話のエッセンスの部分は愛と失望。それは現実的なものであり、世界中どこにでもある普遍的なテーマだと思います。ステレオタイプの人物像であったとしても、本質的なものは普遍的だと思います。

 


<単独インタビュー>
―――東京国際映画祭で最優秀女優賞受賞(『ある理髪師の物語』)、おめでとうございます。受賞後、何か変化はありましたか?
ユージン:もちろん!急に審査員に選ばれましたし(笑)

―――審査員としてどういう視点で作品をご覧になるのでしょうか?
ユージン:映画祭にはテーマが必要だと思っています。大阪アジアン映画祭はインディーズ映画でも特定の人を対象とするのではなく、モダンでもう少し多くの観客を対象としていると思います。審査員だという上から目線ではなく、一人の観客として感動させてくれる作品に出会いたいです。技術的なものは後からついてくると思います。

instantmommy3.JPG―――『インスタント・マミー』は、一度棚上げされた企画を復活したということですが、なぜその企画を手がけようと思ったのですか?
監督:クリス・マルティネス監督と『ベッドコレクター』のジェフリー・ドリアン監督が実在の話をもとにしたストーリーラインを作っていました。まだ脚本にもなっていない状態でしたが、たまたま私のところに話がきたんですね(笑)。実はプロデューサーから別の話がきていたのですが、私はこちらの方が気に入ったので二人の監督に了解を得て原案を膨らませていきました。

―――クリス・マルティネス監督とはどのようなつながりがあるのですか?
監督:クリス・マルティネス監督が制作したTVコマーシャルの美術のプロダクションデザイナーを行いました。映画で一緒に仕事をするのは初めてですが、共通の友人は多いです。

―――スカイプを使って遠距離恋愛を行うアイデアは監督が出されたものでしょうか?
監督:そうです。原案の頃はまだスカイプはなく、写真を送りあっていました。インターネットやスカイプというツールを私が加えたわけですが、インターネットは色々な情報を瞬時に提供してくれる素晴らしいツールである一方、瞬時に私たちを欺いているものでもあります。

―――ユージンさんは、実際は隣の部屋にいながらもかおる役の松崎さんとパソコンの画面を通して演技をしたわけですが、どうでしたか?
ユージン:監督のアイデアで、25平方メートルの部屋でお互いに画面を観ながらリアルタイムで演じることをしたのですが、自発的に私たちが反応することが狙いだったのです。 

instantmommy6.jpg―――スカイプで会話するシーンはかなりアドリブが入っているのでしょうか? 
ユージン:私の方は現場のアドリブや、目新しいことを仕掛けるのですが、松崎さんは最初それほどでもありませんでした。ただ、レストランのシーンで、カオルが「お尻」とか「おっぱい」とフィリピン語で次々に話しかけるシーンは、突然日本人の彼にそんなことを言われたので本当にびっくりしてひっくり返りそうになりました。
監督:時間がなかったので、具体的な台詞はあまり決めず、シチュエーションや流れを決めておくという形で撮影を行いました。リハーサルもあまり多くはしていません。二人ともいい俳優ですし、それに加えて二人が会ったときに化学反応が起きる人たちだったので、映画にとってもラッキーでした。

instantmommy2.JPG―――ベチャイは40歳前後の独身女性が結婚や出産という問題に向き合い、さらに流産してしまうなどシリアスな状況に置かれますが、時にはコミカルさも交えて等身大で表現されていて、胸にひびきました。演じてみた感想は?
ユージン:実際に舞台を始めたとき、私は本当に衣装アシスタントをしていて、女優ではありませんでした。ベチャイの仕事の内容はよく分かっていましたし、私も弟や妹のいる姉としての立場です。ベチャイを演じてみて、私も日本人の恋人が欲しくなりました。やはり外見もアシスタントらしくしなければいけないし、お腹のダミー型も2ヶ月用から3か用…8ヶ月用と細かく作っていきました。そこは物語でも重要な部分でしたから。また映画に出演しているシャンプーCMの髪がきれいな女性の一人が日本在住経験のある人で、私に日本語のレッスンをしてくれました。直接フィリピン語から日本語に翻訳できるので助かりました。

―――ベチャイが下町を訪ねるシーンは、それまで都会的なシチュエーションであったところに土着的暮らしぶりが垣間見え、「これ食べて」とおやつ(スパニッシュブレッド)をもらったりして、私は好きです。監督があえて本筋とは関係ないシーンをいれた意図は?
ユージン:あのシーンがいいの?もっと重要なシーンがあるのに(笑)ああいう雰囲気が好きなのね。
監督:典型的なフィリピンの光景で、不法占拠している人もいる場所です。マニラの多様性を見せたかったんです。

―――では、お2人の好きなシーンは?
ユージン:下町でスパニッシュブレッドを食べているシーンかしら(笑)実はあの場所はレオ・アバヤ監督が美術監督をしていた『ベッドコレクター』のロケ撮影していた場所なんです。きっとレオ監督にとっても思い出の場所だと思うわ。
監督:本当に思い出の場所ですね。

―――暉峻プログラミング・ディレクターは今回5本のフィリピン映画をセレクトした理由として世界的にもフィリピン映画が評価され、力のある作品を作る若手作家が増えてきたことを挙げていました。実際にフィリピン映画界の中にいらっしゃるお二人は、昨今の映画界の状況をどうお感じになっていますか?
ユージン:昨年はシネマラヤ映画祭に加えて、2、3のインディペンデント系映画祭が開催されました。新人監督だけではなく、ベテラン監督が作ったインディペンデントではない作品もありました。そのおかげで面白い映画が登場し、俳優にもいい機会が与えられ、世界中の映画祭から興味を持たれる作品もたくさん生まれたわけです。今回、大阪アジアン映画祭でたくさんのフィリピン映画が選ばれたことをとてもうれしく思います。
監督:海外の映画祭でフィリピン映画を上映したいと思ってもらえたことを、フィリピン映画人の一人として誇りに思います。一つの作品だけだと全体のインパクトしては弱いですが、5作品を選んでいただいたことでフィリピン映画全体に対してのインパクトが生まれます。インディペンデント映画はフィリピンでたくさん作られていますが、上映できる場所がまだ少ないのがとても残念ですし、物足りなく感じています。こういったインディペンデント映画が海外の映画祭で高く評価されることは、フィリピンの観客にとっても改めて関心を持ってもらうきっかけになると思うので、意味のあることですね。

(江口由美)

 

shift2.JPG『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)シージ・レデスマ監督インタビュー
『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)“Shift“
2013年/フィリピン/80分
監督:シージ・レデスマ
出演:イェング・カーンスタンティーノー、フェーリックス・ローコー

コンペティション部門『シフト』作品紹介はコチラ

第9回大阪アジアン映画祭で見事グランプリ(最優秀賞)を受賞したフィリピン映画『シフト』。都会で生きる等身大の若者たちの仕事、恋、自分探しを鮮やかな映像と印象的な音楽で綴る、パンチの効いた青春物語だ。

<ストーリー>
主人公エステラは、シンガーソングライターを目指しながらテレフォンオペレーターとして働くロックな少女。女子高あがりのエステラは、大学で初めて男友達ができるものの、ボーイッシュすぎて恋人に見てもらえない。そんなエステラは職場で自分の指導員となったトレバーと親しくなる。乙女な雰囲気のあるトレバーは、ゲイであることを家族に知られたものの、正式にカミングアウトできないでいる。男のような女と、女のような男の2人は、互いに過去を共有しあい、エステラは友達以上の気持ちを抱えるようになるが、トレバーは複雑な表情を見せるのだった・・・。

Web上のチャット画面を映像に重ね、夜中に複数の男性と同時進行でチャットをしたり、Webを通じてジョブハンティングをされたりと、イマドキの若者のつながり具合をリアルに表現。ゲイに間違われようが、女の子らしくすることを拒み、自分らしさを貫き通すヒロイン、エステラの見た目の強さと奥に潜む弱さを映画初主演のイェング・カーンスタンティーノーが鮮やかに演じている。往年のラブストーリーのように、挿入歌を効果的に取り入れながら、二人のデートエピソードをスタイリッシュに見せる一方、職場では事務所閉鎖、リストラといったシビアな日常の一面も映し出している。エステラとトレバーの主人公二人の魅力に引っ張られ、それぞれが恋も含めて自分らしく生きる道を模索する青春物語は、ジェンダー問題を扱いながらも爽やかな後味を残す作品だ。
本作が初監督作となったシージ・レデスマ監督に話を聞いた。

 


shift1.JPG―――監督は社会人を経て映画監督を目指していますが、志したきっかけや、本作制作の経緯を教えてください。
ずっと芸術に興味があり、特に映画は好きでした。ちょっとメインストリームからはずれるような映画をレンタルビデオやDVDで観ていましたが、映画関係者が家族にいるわけでもなく、普通の家庭で育ちました。映画を作るのにはコストがかかるし、映画監督で生計をたてていくのは難しいと思ったのです。ただデジタル時代が到来し、カメラも私が働いていたコールセンターの給料で買えるぐらいのものが出てきたので、撮ることをはじめてみようと思ったのがきっかけです。

―――主人公エステラの存在がとても個性的です。チェ・ゲバラに心酔する激しい一面を持ちながらも、すごくナイーブな内面の持ち主ですが、このキャラクターをどう作り上げていったのですか?
実は、自分自身を投影しています。

―――エステラ役のイェング・カーンスタンティーノーさんが見事な存在感で、歌も素晴らしかったです。
イェングはフィリピンで非常に人気があるポップシンガーで、とても忙しい人なのでスケジュールをあわせるのが大変でした。また、彼女にとって演じることは初めてで、私も映画を作るのが初めてだったので、最初は不安がありました。

―――監督がイェングさんに出演依頼したのですか?
エステラ以外の配役は簡単に決まったのですが、エステラだけはカリスマ性などを備えていなければならず、私の要求度が高かったのでなかなか決まりませんでした。エグゼクティブプロデューサーと相談しながら何人もオーディションを重ねたのですが、誰もピンとこなかったのです。私の中でイェングさんがいいのではという気持ちがあったので、彼女は歌手ですが脚本を送ってみました。するとイェングさんが脚本をすごく気に入ってくれ、出演してくださることになったのです。

―――作中イェングさんが歌った歌が非常に印象的でしたが、もともと彼女の歌だったのですか?
私の周りにあまり曲を書ける人がいなかったし、あのシーンの心情に合う歌詞にしたかったので、私が自分で曲を作りました。

―――映画の色使いが非常に鮮やかで、暉峻プログラミング・ディレクター曰く「フィリピン版『恋する惑星』」と表現していましたが、映像に関するこだわりや参考にした作品は?
実際に私はウォン・カーウァイ監督の大ファンですし、撮影監督には『恋する惑星』を見せて、こんな感じにしてと指示も出しました。イェングさんはポップシンガーなので、もともと赤い髪だったんです。 

―――乙女心のある隠れゲイのトレバーはどこから着想を得て作られたキャラクターですか。 
トレバー役のような男子は、私がコールセンターで働いていた頃同僚でよくいた典型的なゲイのタイプです。フィリピンでは”ストレートアクティングゲイ”と呼ぶのですが、オネエではなく見た目は男だけれど、少し女っぽい面がみえるような人ですね。

shift3.jpg―――エステラやトレバーの会話にはジェンダーに関することや政治的思想に関する話題が登場しますが、監督は意図的に挿入しているのでしょうか。それともフィリピンの若者は日常よくこのような会話をするのでしょうか。
意図的に挿入しました。この映画ではジェンダー問題に関する自分なりのメッセージを込めたかったのです。またエステラがゲイの男性に惹かれる様子を、そういう考え方や性的哲学を入れることで浮かび上がらせています。

―――仮装パーティーのあと、ボーイッシュスタイルのエステラとドレッシーなトレバーが二人で静かに肩を寄せ合うシーンが、届かない思いを表現して記憶に残りました。
あのシーンは脚本を書いている割と最初の頃から構想にありました。パーティーのシーンは私がコールセンターでモチベーションアップのために開催されたパーティーを参考にしています。私の上司がゲイだったので、実際に男女逆転のコスチュームを着て仮装パーティーをやりました。二人が肩を寄せ合うシーンは、二人の関係を如実に表しているものにしたかったのです。自分は相手に恋をしているけれど、相手はどう思っているのか不安なやるせない感じを込めました。

―――最後はエステラが恋叶わず、夢に向かいながらも道半ばで、新しい仕事を探すところで終わります。このラストで示したかったことは?
最初のシーンと最後のシーンは重なるイメージで、エステラは最初も最後も自分の居場所を探し続けています。『シフト』というタイトルと非常に絡み合ってくるのですが、キャリアを変えたいと思っているけれど、なかなか前に踏み出せないでいる。エステラは見た目攻撃的な性格に見えますが、自分が強い人間だと思いたいからそうしているだけです。内面的には非常に壊れやすいタイプの女性で、だからなかなかキャリアを変えられないでいます。そこにトレバーという男性が突然現れることで、ちょっと宿り木のように寄り添っていきます。叶わぬ恋の相手ですが、トレバーといることで居心地がよくなり、自分の居場所探しに必死にならずに済んでいたわけです。自分探しからトレバーにシフトしたのが、この映画で起こった出来事です。最後に、それが終わってまた自分探しにシフトしていく。本質に戻っていったわけですね。 

―――本作は職場のシーンがリアルでしたが、今のフィリピンの若者たちが置かれている環境について教えてください。 
コールセンターの仕事だけが一番ブームで盛り上がっていますが、雇われるのは20~30歳の大卒がほとんどです。外資系の企業がコールセンターとしてアウトソーシングしており、仕事は非常に退屈ですが、パーティーを開くなどコールセンターの仕事をオシャレに見せ、働き手のモチベーションを上げています。それ以外の仕事は本当に雇用が厳しく、非常にプロフェッショナルな仕事、たとえば教師や、私も大学で臨床心理学を学びましたが、高学歴な人たちもコールセンターの方が給料がいいと、人材流出しています。私自身も大学卒業後進路が決まらなかったので、それならばとコールセンターで働き始めました。一般的にかなり厳しい状況です。

―――監督第一作を作り上げて、大変でしたか?それともまた作りたいと思いましたか?
また作りたいと思っています。私が映画を作る原動力になるのは、自分を投影できたり、感情移入できたり、自分のことを語っているように見えたときです。とても安らぎますし、気持ちがよくなります。私の作品をみた観客が、「一人じゃないんだ」と思える作品を作りたいし、それらが映画を作る大きな原動力になっていくのでしょう。
(江口由美)

 

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3月16日に閉幕した第9回大阪アジアン映画祭は、クロージングセレモニーで受賞結果の発表が行われ、グランプリはシージ・レデスマ監督の『シフト』(フィリピン)、観客賞はマー・ジーシアン監督の『KANO』(台湾)に決定した。今年のフィリピン映画旋風をまさに証明するかのような受賞結果に、賞状を手渡したフィリピンの名女優で国際審査委員ユージン・ドミンゴさんとシージ監督が抱き合って喜ぶ場面もあった。また、審査員によるコメントを読み上げる際に「これはトム・リン監督が書いたスピーチです」とユージンさんが大爆笑を誘う一幕もあり、まさに涙と笑いと感動を呼ぶ授賞式となった。
以下、受賞結果と審査員スピーチをご紹介したい。

clossing shift.JPG★ グランプリ(最優秀作品賞)
『シフト』 (Shift) フィリピン/監督:シージ・レデスマ (Siege LEDESMA)

『シフト』シージ・レデスマ監督インタビュー@OAFF2014はコチラ

★ 来るべき才能賞
ハ・ジョンウ(HA Jung-woo)
韓国/『ローラーコースター』(Fasten Your Seatbelt)監督

★ 最優秀女優賞
カリーナ・ラウ(Carina LAU)(劉嘉玲)
香港/『越境』(Bends)(過界)主演女優

★ スペシャル・メンション
『アニタのラスト・チャチャ』(Anita's Last Cha-Cha)
フィリピン/監督:シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード(Sigrid Andrea P. BERNARDO)

★ ABC 賞 『おばあちゃんの夢中恋人』(Forever Love)(阿嬤的夢中情人)
台湾/監督:北村豊晴(KITAMURA Toyoharu)、シャオ・リーショウ(SHIAO Li-shiou)(蕭力修)

★ 観客賞 『KANO』
台湾/監督:マー・ジーシアン(Umin Boya)(馬志翔)

<審査委員を代表してユージン・ドミンゴ(Eugene DOMINGO)さんからコメント>
clossing euzine.JPG皆様、こんばんは。2014年の第9回大阪アジアン映画祭の審査委員を務めさせていただき、大変光栄でした。短期間に多くの作品を審査するのは大変な作業です。今回の映画祭について、審査委員全員の一致した意見は、韓国映画とフィリピン映画の印象が最も強かったということです。しかし、どの作品も本当に力の入った素晴らしいものであり、審査委員としての苦労もずいぶん軽減してもらいました。今回、私たちが選んだのは、シンプルで、率直で、真摯にさまざまな境界を乗り越えて制作された作品です。どうぞ、参加作品の関係者全員に、大きな拍手をお願いいたします。私たちがここに集うきっかけをつくってくれた大阪アジアン映画祭に感謝するとともに、観客の皆さん、映画祭のサポーターの皆さんにお礼申し上げます。大阪アジアン映画祭は、大阪が世界へとつながるゲートウェイとなる、意義ある文化事業となりました。おおきに!

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 3月7日より開催される第9回大阪アジアン映画祭コンペティション部門国際審査委員に昨年の東京国際映画祭で最優秀女優賞を受賞、フィリピンを代表する女優のユージン・ドミンゴさん(特別招待部門作品『インスタント・マミー』主演)、『九月に降る風』『星空』(OAFF2012)のトム・リン監督、ドキュメンタリー『老人』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞するなど、国際的に評価されているヤン・リーナー監督(特別招待作品部門『春夢』監督)の三名が選ばれた。
 今年のコンペティション部門では、フィリピンや韓国をはじめ、世界初上映映画を含む全11本が上映され、その中からグランプリ(最優秀作品賞)、来るべき才能賞が授与される。今年は初長編作にして非常に完成度の高い、若き才能あふれる作品が勢揃いしており、賞の行方や国際審査委員の審査にも大いに注目したい。

【コンペティション部門】(11本)
『2014』(インドネシア)
『アニタのラスト・チャチャ』(フィリピン)
『越境』(香港)
『ある複雑なお話』(香港)
『ローラーコースター』(韓国)
『すご~い快感』(タイ)
『もしもあの時』(フィリピン)
『KIL』(マレーシア)
『シフト』(フィリピン)
『サンシャイン・ラブ』(韓国)
『甘い殺意』(台湾)

【コンペティション部門 国際審査委員プロフィール】
ユージン・ドミンゴ(Eugene DOMINGO)フィリピン/女優
フィリピンの映画・舞台女優、コメディエンヌ、司会者。1990年代からキャリアを重
ね、これまで60 本以上の作品に出演してきた。『浄化槽の貴婦人』(11 年、OAFF2012)で数々の女優賞を獲得。『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』(12 年)OAFF2013 のコンペティション部門で上映。『ある理髪師の物語』(13 年)で第26回東京国際映画祭・最優秀女優賞を受賞。『インスタント・マミー』(13 年)は本映画祭の特別招待作品部門で今回上映。現在、フィリピン映画界で最も活躍している女優の一人である。

トム・リン(Tom Shu-yu LIN/林書宇) 台湾/映画監督
1976 年、台湾生まれ。アメリカと台湾の両国で育ち、カリフォルニア芸術大学で美術の修士号を取得。ツァイ・ミンリャン監督の『西瓜』(05 年)やゼロ・チョウ監督の『TATTOOー刺青ー』(07 年)などに助監督として参加。05 年に『海岸巡視兵』(第2回アジア海洋映画祭in 幕張)を脚本・監督。監督2 作目の『九月に降る風』(08 年)は日本でも劇場公開され、人気作となる。『星空』(11 年)がOAFF2012 の特別招待作品部門で上映され、好評を博した。

ヤン・リーナー(YANG Lina/楊荔鈉) 中国/映画監督
1972年、中国に生まれる。95年に中国人民解放軍芸術学院を卒業。バレエなどに出演し踊る傍ら、演劇や映画にも俳優として参加。ジャ・ジャンクー監督作品『プラットホーム』(00 年)などに出演している。97 年から、インディペンデント・ドキュメンタリー作家として活動し始め、近所に住む孤独な老人の日常を追ったドキュメンタリー『老人』(99 年) を初監督、山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞するなど、国際的に評価されている。本映画祭で今回上映する『春夢』(12 年)は長編フィクション初監督作品となる。

barber5.JPG写真左よりジュン・ロブレス・ラナ監督、ユージン・ドミンゴさん、ペルシ・インタランプロデューサー

『ある理髪師の物語』(2013年 フィリピン 2時間)
監督・脚本:ジュン・ロブレス・ラナ 
出演:ユージン・ドミンゴ、エディ・ガルシア、アイザ・カルサド、グラディス・レイエス

 

~戒厳令下の70年代フィリピン、不条理に立ち向かう女たちの魂の物語~

Barber's Tales_main.jpg昨年のTIFFで「アジアの風部門」スペシャル・メンション賞を受賞した『ブワカウ』のジュン・ロブレス・ラナ監督と、TIFF2011『浄化槽の貴婦人』のユージン・ドミンゴが、70年代のフィリピンを舞台に田舎で暮らす未亡人女性の自立と目覚めを描く『ある理髪師の物語』。マルコス政権下で反乱軍の摘発が頻繁に行われ、戒厳令が敷かれる中、理髪師の夫に先立たれた妻が村の女友達と共に、様々な偏見や社会矛盾に立ち向かう様をゆったりとした時間の流れの中、しなやかに、時には強く表現する感動作だ。

AA7W0323.JPG特筆すべきは、今までコメディー作品や舞台でキャリアを重ねてきたユージン・ドミンゴが初めてシリアスな長編ドラマの主人公メリルーを演じたことだ。夫の言うことを聞くしかなかった控えめな主婦から、男社会の理髪師の世界に足を踏み入れ、次第にその腕前を認められていく自立の様子を芯の強い表情で魅せる。抑制し続けた感情を爆発させ、怒りを解き放ち、政府に反旗を翻すメリルーの決意の表情は、物語が終わった後も心に残り、最優秀女優賞にふさわしい見事な演技だった。

今年コンペティション部門に選出された同作は、ワールドプレミア上映され、観客から大喝采を浴びた。上映後のQ&Aも本作の狙いについて熱く語るジュン・ロブレス・ラナ監督や、茶目っ気たっぷりにキャスティングの経緯を語るユージン・ドミンゴさんの軽快トークで大いに盛り上がった。一部記者会見の模様を交え、翌日に行われた独占インタビューと合わせて、ご紹介したい。


(ワールドプレミア上映後のQ&A)


━━━最初のご挨拶
ジュン・ロブレス・ラナ監督(以下監督):みなさん、こんばんは。本日は私の作品を観に来てくださって、本当にありがとうございます。昨年も東京国際映画祭に参加させていただき、また今年も戻ってくることができたのは信じられない思いです。コンペで上映していただくことができて、大変光栄に思います。
ユージン・ドミンゴ(以下ドミンゴ):みなさん、こんばんは。お越しいただきましてありがとうございます。本日この作品を観に来てくださったフィリピンの方、本当にありがとうございます。この作品はフィリピンの皆さんのために作った作品です。そして、初めてみなさんと共に初めてこの作品を観ることができて、大変うれしく思っています。本当に胸がいっぱいです。日本は天気が穏やかで、過ごしやすく大好きです。
ペルシ・インタランプロデューサー:みなさん、こんばんは。本日は私達の作品を観に来てくださってありがとうございます。プレミアという形でみなさんもはじめてこの作品を観ていただくことになったわけですが、先ほど皆さんのリアクションを拝見させていただいて、大変ワクワクしました。ありがとうございました。

barber3.JPG━━━なぜ、今70年代を描こうとしたのか、この作品の背景を教えてください。
監督:こちらの作品はトリロジーとなっており、昨年上映させていただいた『ブワカウ』と一連となる作品になっています。これらの作品は「孤立」を表現しています。それぞれが「死」ばかり考えているような作品になっていました。『ある理髪師の物語』では70年代、一般的に期待されていた女性像が描かれていたと思うのですが、現在私が手がけている3作目は14歳の孤児が主人公で、自分の父親が実は神父だと分かり、唯一残された家族を辿りるため自分も宗教の道に入っていく様子が描かれています。それぞれの作品ではアイデンティティーや自由、セクシュアリティーを扱っています。本作の時代背景(70年代)はフィリピンの歴史でも激動の時代で、40年経った今でも当時の問題は今でも残っていることをごらんいただきたいと考え、この作品を作りました。

barber6.JPG━━━メリルー役にキャスティングされた経緯は?
ドミンゴ:私がキャスティングされるまでの話は多分45分ぐらいかかると思いますが、みなさんお付き合いいただけますか?私は主にコメディー映画に出演していたのですが、あるときプロデューサーから作品の話があり、監督が『ブワカウ』のジュン・ロブレス・ラナ監督と教えてくれました。ただその時はもっとギャラを払ってくれるメジャースタジオでの5つぐらいの作品に関わっていたので、全く脚本を読む余裕がありませんでした。それから1~2年経った時、主役女優をまだオーディションしていると聞き、連絡を入れると「脚本を読んでみないか」とメールで送ってくれたんです。しかし何度送ってもらってもメールが開かず、5回ぐらい送ってもらい、やっとメールが開き、ようやく読み始めることができました。

読んでみると、皆さんが映画をご覧になっていたときのリアクションと同様に、マリルーが市長を刺したとき、私も叫びましたし、市長の妻が飛び降りたときも、思わず叫んでしまいました。読み終わったときには拍手をして、監督に電話をかけたんです。「国にとっても、女性にとっても、普遍的なメッセージを含んだ素晴らしい作品です」と伝えました。その後に、メールで「私のことを採用したかったのでは?」と送ると、「受けてくれるんですか?」と言われ、やっとこの役を私が演じることになりました。なかなか意志の疎通ができていなかったのですが、やっと作品として出来上がり、みなさんにこのような形でご覧いただくのは夢が実現したように思います。私のようなコメディーをメインにした女優がこのようなドラマの長編作品で主演し、素晴らしい役を得て、本当に楽しかったです。

━━━この映画は75年の設定ですが、脚本を書くに当たり参考にしたことや、このような物語を描いた理由は?
監督:この時代は私にとって非常に関心が高く、私の家族もとても身近に感じている時代です。というのも、私の母方の兄弟が、解放軍に関わっていたこともあり、この問題はニュースで見るものではなく、家族が実際に体験したことでした。戒厳令も私たちが人事のように見ていたのではなく、実際に体験したことです。その政変の結果どういうことが起こったかが、とても重要でした。

ただそれら私の政治的な背景はあくまでもバックグラウンドでしかなく、私はこの作品の中で、ある一人の女性が70年代に女性としての期待値に縛られ、彼女がいろいろと苦しみながら最終的に自分の意見を言えるようになることを伝えたかったのです。この作品は女性がどうやって社会の中で自分の場所を見いだしていくのかという問題に触れていますし、映画の中でそれ以外の家族の問題や、反乱軍の問題は当時だけの問題ではなく、今でも私たちは同じような問題に直面しています。そういうことをお伝えしたかったわけです。

━━━脚本以外に、この作品に出演したかった動機はありますか?
ドミンゴ:女優として本当にその脚本と恋に落ちなければいけないと思いますし、監督やそのビジョンを信頼し、理解しなければいけないと思います。今回この作品は目標も明確で、女優であるということ以上に女性であり、フィリピン人であるということで託されている「全ての女性は愛されるべきで、尊敬されるべきだ」というメッセージに本当に共感しました。 

━━━ラストに「マリルー・ディアス=アバヤに捧げる」とありましたが、マリルー・ディアス=アバヤさんについて教えてください。 
監督:マリルー・ディアス=アバヤさんはフィリピン映画界の大巨匠で、昨年惜しくも亡くなってしまったのですが、私が23,4歳の頃はじめて書いた脚本を彼女が取り上げてくれ、自らプロデューサー兼監督作として世に送り出してくれました。ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映され、私の映画人生の第一歩を作って下さった方なのです。心からの敬意を表して本作のヒロインの名前をマリルー・ディアス=アバヤさんにちなんでつけさせていただきました。

 


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翌日に行われた単独インタビューでは、主にユージン・ドミンゴさんに本作の脚本で一番感銘を受けた点や、マリルーの役作り、感動的なラストシーンの秘話などについてお話を伺った。 

━━━なぜ70年代の田舎を舞台にしたのですか? 
ジュン・ロブレス・ラナ監督(以下監督):この作品は3部作の一つで昨年TIFFで上映した『ブワカウ』を含め、全ての作品は田舎を舞台にしています。私は田舎の町に感銘を受けており、人生がシンプルで、複雑さがないところにすごく興味があるので物語の背景に使っています。そういう背景の上で、町の中での人々の対立をもっと深堀してみたかったのです。70年代を舞台にしたのは現状を反映していると考えているからです。政治的腐敗や家族の避妊の問題は、今でも同じ問題に直面していると思い、取り上げています。

━━━最初は主人に尽くすことしかできなかった主人公マリルーが、困難を乗り越え、自立し、声を上げるまでの姿を見事に演じていましたが、どのようにしてマリルーという女性像を作り上げていったのですか?
ユージン・ドミンゴ(以下ドミンゴ):いただいた素材を100%信用していたので、私自身はそんなに準備をせず、与えられた環境の中で合わせていきました。あまり準備をしてしまうのは、女優にとってはマイナス面もあります。自分は女性であり、女性としての経験もあり、人間としての強さもあります。それを脚本に合わせていく作業をしていきました。あとは監督からの指示をもとにキャラクターを作り上げていった訳です。後は自分の持っている感情や、いろいろなワークショップやディスカッションといった活動を通じてよりキャラクターを膨らませていきました。 

━━━女性たちそれぞれが対面する問題を丁寧に描き、協力してして声を上げるまでの群像劇のようにも見えましたが、脚本を書く際に心掛けたことは? 
監督:ある小さな町の理髪店を営んでいる女性が、苦しんで、最終的に自分の声を見つけるストーリーですが、その中で自分の周りにいる女性たちが、それぞれの強さを見つけるために協力しあうことも描いています。私にとって一番重要なのは、「メッセージからではなく、物語からスタートする」ということです。物語がしっかりしていれば、それ以外のことは後からついてきます。その中のキャラクターも深く描くことができますし、観客にも説得力のあるストーリーを作ることができるでしょう。私自身は「監督ができるストーリーテラー」だと思っています。ストーリーをとある枠組みの中で提示できる監督だと思っているので、まずしっかりとした物語を作るところからこのプロジェクトを開始しました。

barber4.JPG━━━ドミンゴさんが監督からこの役を依頼され、シナリオを読んだとき一番心動かされた部分は?
ドミンゴ:何年もの間、テレビや他の作品でコメディーを演じていますが、ある日「もっと他の役もしてみたい」と思うようになっていました。自分が女性としても女優としても成熟してきているので、例えばフィリピンを代表するような国民的ヒロインの自伝的なものをやりたいと思っていたのです。スペインからのフィリピン解放運動で反乱軍に手を差し伸べ、国民的ヒロインとなったメルチョラ・アキノは、まさにマリルー的人物です。彼女については既に描かれている映画があり、その時は残念ながら私にはオファーをいただかなかったので、何かそういう機会を求めていました。この脚本を読んだとき、「まさに現在のヒロインだ」と感じ、この役をぜひやりたいと思ったのです。

━━━ラストシーンで「我が名はルース」と生まれ変わったような表情を見せながら宣言するメリルーの姿が目に焼き付きました。どんな気持ちでこのシーンを演じたのですか?
ドミンゴ:本当のことを言っていいですか?ラストシーンに革命派のリーダー役で出ていただいているフィリピンの大女優ノラ・ノーラさんは、私にとって子供のころからの憧れの大スターで私の中の永遠のアイコンなんです。彼女と一緒の撮影現場で映画に出ることができるだけで胸がいっぱいの表情になってしまいました。

━━━ぜひやりたい役を演じることができた『ある理髪師の物語は、ユージンさんのキャリアにとってどんな位置づけになるのでしょうか?
ドミンゴ:撮影中にいくつかのシーンをラフで見たとき監督に言ったのは、「これが私の最後の作品になってもいい!」。たった数シーンを見ただけで、本当にそう思えたのです。

(江口由美)

 

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(写真:第2回記者会見ゲスト 左より『ほとりの朔子』深田晃司監督、主演二階堂ふみ、フェスティバル・ミューズ栗山千明、『捨てがたき人々』榊英雄監督)

 

今やアジア最大級の国際映画祭へと成長した東京国際映画祭(TIFF)。昨年25回を迎え、今年は次の25年に向けて、部門構成を刷新し、さらに若く新しい才能を世界に送り出す機能を備えた映画祭として、新しい一歩を踏み出す。フェスティバル・ミューズに女優栗山千明さんを迎え、コンペティション部門の審査委員長にチェン・カイコー監督、国際審査委員に寺島しのぶさんが就任と、映画祭開催前から話題を集めている。

 

■コンペティション部門

The Double_main.jpgTIFFの看板ともいえるコンペティション部門では、「東京 サクラ グランプリ」受賞作品である一昨年の『最強のふたり』、昨年の『もうひとりの息子』が劇場公開で観客から大きな支持を得ているように、注目作のワールドプレミア、アジアプレミア上映を目撃できる貴重な機会だ。今年も魅力的なラインナップが出揃った。日本からは『歓待』でTIFF2010「日本映画・ある視点」部門作品賞に輝いた深田晃司監督と杉野希妃プロデューサーコンビが、二階堂ふみ、鶴田真由、太賀、古舘寛治等を迎えて贈る社会派青春夏物語『ほとりの朔子』、ジョージ秋山の原作を主演に大森南朋を迎えて榊英雄監督が撮りあげた人間の本質と欲望を描く『捨てがたき人々』の2本が選出されている。

We_Are_the_Best!_main.jpgイギリスからは、『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグ主演、文豪ドストエフスキーの原作を近未来的設定に置き換えた、シュールで哲学的な新感覚スリラー『ザ・ダブル/分身』が登場。スウェーデンからは青春映画に定評のあるルーカス・ムーディソン監督が、80年代初頭を舞台に、思春期の衝動に駆られてパンクバンドを始める女子中学生の弾けるような日々を活写した『ウィ・アー・ザ・ベスト!』。

Barber's Tales_main.jpgそして、フィリピンから選出されたのは、フィリピン版『マンマ・ミーア』の『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』(OAFF2013上映)で下町の母をパワフルに演じたユージン・ドミンゴ主演のワールドプレミア作品『ある理髪師の物語』。昨年「アジアの風」部門で上映された『ブワカウ』のジュン・ロブレス・ラナ監督がユージン・ドミンゴと組んで時代の荒波と闘う女性たちの姿を描く注目作だ。

 

■ワールドシネマ部門

Tom at the Farm_main.jpg昨年までの「ワールドシネマ」部門をリニューアルした「ワールドフォーカス」部門では、世界各国の映画祭受賞作や話題作、あるいは有名監督の日本で紹介されていない新作にフォーカスを当て、従来の欧米作品だけではなくアジアの有力作品もこの部門にてラインナップされている。
現在劇場公開中の『わたしはロランス』で高い評価を得ているグザヴィエ・ドラン監督が、自身主演で初のスリラーにチャレンジ。本年のヴェネチア映画祭国際批評家連盟賞を受賞したカナダ、フランス合作の最新作『トム・アット・ザ・ファーム』がいち早く上映される。

Unbeatable_main.jpgまた、香港からは、『密告・者』のダンデ・ラム監督が放つ総合格闘技アクション・ドラマ『激戦』が登場。ニック・チョン、エディ・ポンの若手人気俳優による熱い男たちの闘いを堪能したい。

 

 

 


Soul_main.jpg更に、【台湾電影ルネッサンス2013 】と題して近年活況が著しい台湾映画より、久々の新作で復活を果たしたベテラン監督から注目すべきニューウェーブまで、台湾映画の今が垣間見える作品を特集上映する。今年の台北映画祭でグランプリを獲得した、『四枚目の似顔絵』チョン・モンハン監督の最新作『失魂』をはじめ、『27℃ ― 世界一のパン』、『高雄ダンサー』、『Together』がラインナップ。さらに台湾ニューウェーブの記念碑的オムニバス『坊やの人形』(ホウ・シャオセン監督、ワン・レン監督、ツォン・チュアンシアン監督)のデジタルリストア版も上映される。

 

■アジアの未来部門

Today_and_Tomorrow_main.jpg昨年まで数々の秀作を特集上映と共に紹介してきた「アジアの風部門」を発展させ、今年から新部門「アジアの未来」部門が誕生。長編映画2本目までのアジア新鋭監督の作品を一挙紹介するコンペティション部門となった。ワールド・プレミアとなるヤン・フィロン監督(中国)の『今日から明日へ』をはじめ、アジア映画の新潮流をいち早く発見できる機会となるだろう。

 

■特別招待部門

The_Dust_of_Time_main.jpg「日本映画・ある視点」部門がリニューアルした「日本映画・スプラッシュ」部門では海外進出を狙う日本のインディペンデント作品を、監督のキャリアを問わずに紹介。そしておなじみの「特別招待作品」では、オープニングにトム・ハンクス最新作『キャプテン・フィリップス』、クロージングに三谷幸喜の最新作『清州会議』と話題性十分の作品が勢揃いし、映画祭を大いに盛り上げる。中でも、テオ・アンゲロプロス監督の遺作となった『エレニの帰郷』をいち早くスクリーンで観ることができるのは、映画祭ならではの楽しみだろう。東京が映画色に染まる9日間。日頃劇場でなかなか触れる機会のない、国際色豊かな世界の最新映画をぜひ楽しんで!

第26回東京国際映画祭公式サイト http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/

 

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