原題 | THE QUEEN OF VERSAILLES |
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制作年・国 | 2012年 アメリカ=オランダ=イギリス=デンマーク |
上映時間 | 1時間40分 |
監督 | ローレン・グリーンフィールド |
出演 | デヴィッド・シーゲル、ジャッキー・シーゲル他 |
公開日、上映劇場 | 2014年8月16日(土)~新宿武蔵野館、テアトル梅田、8月23日(土)~シネ・リーブル神戸、8月30日(土)~京都みなみ会館他全国順次公開 |
受賞歴 | 2012年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞受賞 |
~栄光も転落も破格級のリアル“人生ゲーム”~
ルーレットを回し、次から次へと資産を手に入れ、子どもも増え、大金持ちにのし上がったかと思えば、一瞬にして資産を没収されてしまう。かつて友達とよく遊んだ人生ゲームを彷彿とさせるような人生の浮き沈みぶり。しかもそのスケールは破格級ときたものだから、その姿を追いかけるだけでも立派なエンターテイメントとして成り立つと同時に、富が人間に与える影響を赤裸々に映し出す。アメリカンドリームで頂点を極めた一家の転落ぶりと、その家族が住むはずであったベルサイユ宮殿をモチーフにした、アメリカ最大の戸建て住宅建設計画の行方を追ったドキュメンタリー。夢の豪邸物語を撮るはずだったグリーンフィールド監督にとっても思わぬ展開だったというが、2012年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞受賞、全米でも大ヒットとなった話題作だ。
タイムシェア(共同所有)リゾートビジネスによって、無一文から大富豪となったデヴィッド・シーゲルと元ミセスフロリダの妻、ジャッキーは、8人の子どもたちと贅沢三昧の暮らしを送っていたが、彼らには更なる野望があった。総工費1000億円、アメリカ最大の個人邸宅としてベルサイユ宮殿を模倣した富の象徴「ベルサイユ」建設に乗り出し、全米の話題となる。しかし、2008年秋、リーマン・ブラザーズの破たんを皮切りに起こった世界的な金融危機により、デヴィッドは一瞬にして1200億円の借金を抱える身となり、資産売却を余儀なくされる。
貴族じゃあるまいしとツッコミを入れたくなるぐらい、あちらこちらに自らの肖像画が貼られた邸宅の様子や、舞踏会会場もしつらえ、宝塚歌劇さながらの大階段を施し、一邸宅が一つの街のように様々なアミューズメント施設を配する予定の「ベルサイユ」など、彼らが過ごす、もしくは今後過ごす予定であったハコの立派さに驚かされる。と同時に、「ブッシュを大統領にしたのは私」「アメリカ一大きな家をなぜ建てるって?可能だから」と自信に満ち溢れるデヴィッドと、とことん美を追求する一方、自分の子どもたちにも大きな愛を注ぐ超ポジティブなジャッキーの日常にも密着。デヴィッド同様、田舎町で一般家庭の子として育ったジャッキーの波乱の人生にも光を当てている。
豪邸で暮らす子どもたちの中でも異彩を放つのが、不遇な境遇で育ち10代半ばでシーゲル家に引き取られたジョンキル。「こんな生活普通じゃない。お金から自由なようで縛られている」とお祭り騒ぎのような日常を冷静に語る。また、故郷に子どもを残しシーゲル家で乳母として働くフィリピン人女性の、シーゲル家の子どもたちには愛していると言ってもらえるが、我が子に逢えない辛さなど、大邸宅から様々な人間模様が垣間見れるのだ。
金融不況により銀行から融資を断られ、巨額の借金を抱え、従業員大量解雇、資産売却と苦境続きのデヴィッド。すっかりしょぼくれた風貌となり、電気が付けっぱなしとジャッキーを怒鳴りつけ、変わらず贅沢三昧を続けるジャッキーへの不満を露わにする。一方、借金まみれと分かっていながら、今さらしみったれた生活には戻れないと言わんばかりの生活をする一方、夫への生涯変わらぬ愛を口にするジャッキー。そして二人とも「ベルサイユ」建設の夢を諦めていない。ゼロからのたたき上げ人生だけに、失ったものが大きくてもゼロから出発する気力が残っているのだ。華麗なる転落のままゴールするとは思えないパワフルな二人は、大金持ちへのやっかみを差し引いても魅力的だった。
(江口由美)
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