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『イロイロ ぬくもりの記憶』

 
       

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作品データ
原題 ILO ILO
制作年・国 2013年 シンガポール 
上映時間 1時間39分
監督 アンソニー・チェン
出演 コー・ジャールー、アンジェリ・バヤニ、ヤオ・ヤンヤン、チェン・ティエンウェン
公開日、上映劇場 2015年1月17日(土)~シネ・リーブル梅田、2月京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
受賞歴 カンヌ国際映画祭新人監督賞(カメラドール)、東京フィルメックス観客賞受賞
 

~10才のボクを支えた異国のメイド、その出会いと別れ~

 

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アジア映画の中でも、シンガポール映画が続けて公開されるのは非常に珍しく、うれしい驚きだ。日本の劇画を誕生させた辰巳ヨシヒロの世界を描いたエリック・クー監督作品『TATSUMI マンガに革命を起こした男』(11)に続き劇場公開される、アンソニー・チェン監督の初長編作『イロイロ ぬくもりの記憶』。東京フィルメックスのネクスト・マスターズ・トーキョー(現タレンツ・トーキョー)に参加し、最優秀企画賞を受賞したことが制作に繋がったという本作は、チェン監督の幼少時代のエピソードを盛り込みながら、97年金融危機後のシンガポールの中流家庭や、そこに出稼ぎに来る女性たちを、青年の成長と重ねながら瑞々しく描いている。
 

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97年、シンガポール。共働きの両親と暮らす一人っ子のジャールー(コー・ジャールー)は、親に構ってもらえず、学校で問題を起こしてばかり。妊娠中の母(ヤオ・ヤンヤン)はジャールーの世話をする住み込みのフィリピン人メイド、テレサ(アンジェリ・バヤニ)を雇う。ジャールーはテレサにも反発を繰り返していたが、自分のことを真剣に叱ってくれるテレサに対し次第に心を開いていく。
 

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シンガポールでは半数近くの家庭が、住み込みのメイドを雇っていると言われており、メイドの出身地もかつては中華系が中心だったが、90年代後半はフィリピンやインドネシアからのメイドが多かったという。そのようなシンガポールの子育て事情や出稼ぎ事情を垣間見ることができるのはとても興味深い。しかも、メイドのテレサが寝る部屋は、ジャールーと同じで、忙しい母親代わりか、それ以上に信頼を寄せることができる存在になるのも無理はない。反抗期のジャールーも、時間をかけ、自分に向き合ってくれるテレサを受け入れてからは、学友の差別からテレサを守ろうとすらする。テレサとの別れを経て、やんちゃだった少年は、自分の力で生きることを学んでいくのだ。
 

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大人たちにも様々な事情が内在する。出稼ぎに来ているテレサは、パスポートを雇い主に預け、子どもに会えるのは1年に一度。もっとお金を稼ごうと副業したのが見つかれば強制送還させられる立場だ。そしてジャールーの母も、自分が必死で仕事をしている間に、家庭内にいる自分以外の“女”が次第に息子や夫の拠り所になっていくことに苛立ちを隠せない。またジャールーの夫は金融危機のせいでリストラに遭い、家庭内の不協和音を処理しきれない。バラバラだった家族の物語は、テレサによって孤独だったジャールーが笑顔を取り戻し、辛い現実を生きる大人たちを穏やかに照らし出していくのだ。アンソニー・チェン監督の心の記憶、多感な少年期の母性を求める気持ちや、親に対する苛立ち、別れを体験する辛さを体現した新人、コー・ジャールーの存在感が光る秀作。フィリピンの名匠、ラブ・ディアス監督作品でお馴染みのアンジェリ・バヤニと、シンガポール・マレーシアの人気女優ヤオ・ヤンヤンの、女の火花を散らした熱演にも唸らされた。
(江口由美)
 
公式サイト⇒http://iloilo-movie.com/
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