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制作年・国 | 2012年 日本=アメリカ |
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監督 | 内田伸輝 |
出演 | 杉野希妃、篠原友希子、山本剛史、渡辺真起子、山田真歩、西山真来、寺島進 |
公開日、上映劇場 | 2012年12月22日(土)~渋谷ユーロスペース、シネ・ヌーヴォ、元町映画館、京都みなみ会館にて公開 |
~震災後の東京、愛する人を守る女の闘いと孤独~
『ふゆの獣』で男女4人の生々しい恋愛模様を描き出した内田伸輝監督最新作は、プロデューサー、主演に杉野希妃を迎え、震災を被災地ではなく東京に住む女性たちを主人公に見えない敵への孤独な闘いとその行方をリアルに描く震災ヒューマンドラマだ。被災地発の震災ドキュメンタリーやドラマが次々公開される中、東京からの視点で震災と放射能が人々の生活をどう変えてしまったかを表現、そこには“おだやか”を装う日常の危うさが見え隠れしている。
震災当日に離婚を切り出され、実家も被災し頼る人のいないサエコは、日々増大する放射能の危険から娘清美を守るため、幼稚園でも一人マスク着用や外遊びを禁じ、次第に周りから浮く存在になってしまう。サエコの隣に住むフリーライターのユカコもチェルノブイリ事故を調べ、このままでは東京でも危ないと夫に大阪転勤を上司に進言するよう頼む。ガイガーカウンターを手に園内を測りまわるサエコに通園中の親グループも不安を煽ると大反発。次第に陰湿ないじめを受けるようになる。
原発事故が起きてしまい、子育てをしている、もしくはこれから母となる人が子どもを守ることが本当に大変な世の中になってしまった。放射能という目に見えない敵をどれだけ意識し、我が身を守っていくかは親次第だが、自分なりの防護策をすることすら許されない日本特有の横並び意識は、この非常時でも機能していることを幼稚園という舞台で赤裸々に表現している。幼稚園で渡辺真起子演じる表向き放射能を気にしない派ママと杉野希妃演じるサエコの猛烈な口論や、放課後の幼稚園ママ風景などぞっとするぐらいリアルな描写の中に、日常に浸食する「言いたいことが言えない無言の圧力」が浮かび上がる。
一方、流産した過去を持ち、これから子どもを産むことに不安を抱えるユカコは、東京で暮らすこと自体に疑問を募らせるが、夫との温度差は広がるばかり。夫もユカコと会社の板挟みに遭いながら、本当に信じるべき情報は何なのか、幸せにするためにどう行動するのかを改めて考え始める。震災が夫婦を別れに追い込めば、再生にも向かわせる。不安さを胸に抱えたユカコを演じる篠原友希子とサエコの運命がはからずも交差するとき、怒りや絶望が、前へ進む原動力になるのも人間の強さを信じた内田監督ならではの描写ではないだろうか。
『ふゆの獣』や『歓待』から内田監督、杉野希妃ゆかりの俳優や深田監督がカメオ出演し、シリアスな物語の中に遊び心があるのもうれしい。「おだやかな日常」を装っている東京の微妙な空気と、そこに警告を鳴らしたときの差別や疎外感を辛辣に描く一方、自分を信じて声を上げる勇気に目を向けた“闘う映画”なのだ。(江口 由美)
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