制作年・国 | 2012年 日本 |
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上映時間 | 2時間26分 |
監督 | 山田洋次 |
出演 | 橋爪功 吉行和子 西村雅彦 夏川結衣 中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優 |
公開日、上映劇場 | 2013年1月19日(土)~全国ロードショー |
~大震災後の日本に問う「家族」の存在~
1年ぶりに“京都散策”を兼ねて京都・南座での完成披露試写に馳せ参じた。いち早く見たかったのは“小津伝説”信奉世代ゆえ。山田洋次監督と言えども、小津リメイクなど映画に対する冒涜、と思っていたが、小津さんの世界の深みか、山田監督の力量か、それとも両者の合わせ技か、時計見るのも忘れて、すっかり引き込まれた“京都の夜”だった。
松竹の話では、イギリスで10年に1度、監督たちの投票による“世界映画歴代ベストテン”が行われ「東京物語」が、「市民ケーン」の指定席だった1位の座を奪ったことが大変な話題を呼んだ(10年前は5位)。劇的なドラマとは言えない54年も前の日本の家族映画が、古今東西の数多ある名作の中で、スタンリー・キューブリック(2位「2001年宇宙の旅」)もオーソン・ウェルズ(3位「市民ケーン」)も、黒澤明、溝口健二も押さえて1位なんて、とんでもない快挙。どんな時代、どこの国にあっても家族は人間の暮らしの根っこ、ということの証明に違いない。
山田洋次「東京家族」は小津安二郎「東京物語」の世界を見事に現代に甦らせた映画と言える。スカイツリーが映るなど、舞台が現代になっていること以外、筋立てはほぼ同じ。あえて違いをあげると「物語」の尾道が「家族」では瀬戸内海の小島に。次男の嫁=未亡人・紀子(原節子)が、今作では次男昌次(妻夫木聡)の恋人(蒼井優)になっていることぐらい。長男(西村雅彦)の医者は同じで、長女(中嶋朋子)の散髪屋はパーマ屋に、次男は鉄道マンからフリーの舞台装置業にと多少変更されている。
両親(橋爪功、吉行和子)が東京に出てきて子供たちの家を泊まり歩くのを楽しみにしていたが、子供たちは自分たちの生活に多忙で親の相手をしてられない、という基本ストーリーは変わらない。「物語」の熱海温泉は今回は横浜の豪華ホテルに。ホテルの広い部屋で何もすることがない老夫婦は窓から見える観覧車に見とれるものの“手持ちぶさた”なのはいつの時代も同じだ。
母は長男の家で倒れ、東京の病院に入院、帰らぬ人になる。次男・妻夫木は今作では母の死に目に間に合う。葬式は瀬戸内海で行われ、家族全員が集まるものの、長男と長女は「物語」同様、早々に“所用”で帰り、次男とその恋人・紀子だけが数日残る。
ショックのあまりずっと無口だった父が紀子に、「あなたに会えてよかった、とお母さんから聞いた。息子を頼む。」と言い残す。次男と紀子は福島の震災ボランティアで知り合ったという設定で、山田監督は2人の出会いと、原節子をほうふつさせる心優しい紀子に万感の思いを込め、家族の未来に希望を託した、と思う。 誰ひとり悪人など登場しないのに、いつの間にか親よりも自分たちの生活に追われてしまう、人が生きていくことの定め、人生のはかなさ、やるせなさを感じさせる、小津さんの死生観まで甦らせた名作に変わりはなかった。
親孝行奨励映画などではない。こうして親元を離れて旅立っていくことが親孝行に他ならない。身近だった家族が一緒に居られる日々は何よりも貴重な宝物……最後にそう確認した夫婦は元同級生(小林稔侍)が言うように、うらやむべき人生だったのだろう。それが、小津さんが、そして山田洋次監督が表現した死生観ではないか。
家族崩壊映画流行りの昨今、“世界一の名作”の現代版を、現代の家族や若い観客はどう見るのだろうか。公開は来年1月19日。 (安永 五郎)
公式サイト⇒ http://www.tokyo-kazoku.jp/
(C)2013「東京家族」製作委員会