原題 | You're Not You |
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制作年・国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | ジョージ・C・ウルフ |
出演 | ヒラリー・スワンク『ミリオンダラー・ベイビー』『P.Sアイラヴユー』、エミー・ロッサム『オペラ座の怪人』、ジョシュ・デュアメル、ロレッタ・ディヴァイン、マーシャ・ゲイ・ハーデン |
公開日、上映劇場 | 2015年11月7日(土)~新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー! |
~今をどう生きるのか、
人間の尊厳を問うヒラリー・スワンクの気迫に注目~
ALS(筋萎縮性側索硬化症)をご存知だろうか。筋肉の萎縮によって徐々に全身を動かすことができなくなり、やがては呼吸機能まで奪われてしまうという難病である。映画では「博士と彼女のセオリー」「ジェイソン・ベッカー~不死身の天才ギタリスト~」が記憶に新しい。実在の人物を描いたこれらの作品と違い本作はフィクションだが、クオリティの高さではひけを取らない。ALS患者を父と叔母に持つプロデューサー、アリソン・グリーンスパンが惚れ込んだ小説「You're Not You」(ミシェル・ウィルジェン著)が原作となっている。脚本に惹きこまれたヒラリー・スワンクもまた、製作に加わった。
才色兼備で料理上手なケイト(ヒラリー・スワンク)は優しくハンサムな弁護士の夫と広い家に住み、人も羨む暮らしをしていた。そんな生活がある日を境に崩れてゆく。発病してからも夫の優しさは変わらないが、心は次第にすれ違ってゆく。かつての友人たちとも距離ができてしまう。人生はよく四季に例えられるが、収穫の秋を跳び越えて冬の時代に突入してしまったケイトには見える景色が彼らとまったく違っていたのだ。
一方、ガサツであけすけな態度に救われることがある。無知は罪ではない。本当に罪深いのは相手を理解しようとしないことなのだ。ベック(エミー・ロッサム)はケイトとは全くちがう生き方をしてきた。歌手志望で常識や慣習というものに囚われず自由に生きている。ただ、夢はあるのに自信がなく、一歩踏み出す勇気が持てないでいる。
そんな二人が出会い、反発しながらも認めあうようになる。エンディングでベックは「Falling Forward」という曲を歌う。シンガーソングライターでもあるエミー・ロッサム自身がこの映画のために作ったオリジナル曲だ。“falling forward”とは日本では“倒れるときは前のめり”と訳される言葉で、どんな時でも志を捨てずに前に進もう、という意味だ。坂本竜馬がこれに類することを言ったとも言われている。
ケイトから託された思いを歌に込め、自分の殻を破って飛躍しようとしているベックと、自らの生き様を身をもって示したケイト。二人は確かな絆で結ばれた。それを象徴しているのがピアノのシーンだ。物語の序盤でケイトが演奏するショパンの英雄ポロネーズの力強いタッチと、後半、ベックがケイトの手を取って一音一音確かめるように奏でる優しい音色。自信に満ち注目を集めていた前者よりも後者の方が伸びやかに見える。ケイトの穏やかな眼差しを通して登場人物の人生一つひとつに等しく重みが感じられる。
夫も、母親も、疎遠になった友人たちも。誰もが弱い面を抱えている。いつも正しくは生きられない。ケイトはそんな生の営みすべてを愛おしく感じていたにちがいない。生も死も本人だけのものではないが、本人の意志はやはり尊重されるべきである。世代によって見方は変わるのだろうが、人生がいつまで続くのかわからないという点では同じ。終活という言葉も聞きなれたこの頃、そのとき自分はどうしたいのか。そして、今をどう生きるのか、考えさせられる作品。
(山口 順子)
★ヒラリー・スワンク来日記者会見レポート⇒ こちら
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