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『人類資金』

 
       

jinrui-550.jpg『人類資金』    おおおお大阪★★大阪証券取引所での記者会見の模様は(2013.9.17)⇒こちら

       
作品データ
制作年・国 2013年 日本
上映時間 2時間20分
原作 福井晴敏
監督 監督:阪本順治、 脚本:福井晴敏 阪本順治
出演 佐藤浩市 香取慎吾 森山未來 観月ありさ 石橋蓮司 豊川悦司 寺島進 三浦誠己  岸部一徳 オダギリジョー ユ・ジテ ヴィンセント・ギャロ 仲代達矢
公開日、上映劇場 2013年10月19日(土)~全国ロードショー

 

 

  


 

★戦後の世界経済を「どついたるねん!」

 


 

 

 

 “新世界の阪本順治”が新作『人類資金』で“世界の~”になった。阪本監督はデビュー作『どついたるねん』など新世界3部作が高く評価され、藤山直美主演の『顔』はベストワン、かと思ったら人気作家、福井晴敏氏と組んでスパイサスペンス『亡国のイージス』、勝新に対抗して香取慎吾で『座頭市』も撮った。今の日本映画界では三池崇史監督とともに多彩な監督として注目される。

 『人類資金』は『~イージス』製作時に原作者・福井氏との話し合いから生まれた。福井氏の原作、脚本と競うように作られた映画は、過去何度も社会を騒がせた“M資金”を題材にした国際的な経済サスペンス。「本当にあったM資金」がアジアの小国を救う、熱い物語。日本を皮きりに、ロシア(ハバロフスク)、タイ、ニューヨーク国連本会議場と世界各地を転々とかけ巡ってロケしたスケールは日本映画離れしている。そこに、阪本監督のもう一つの顔が見える。

jinrui-2.jpg  終戦前後の混乱期は、ミステリーに富んでいる。終戦の1945年、徹底抗戦を叫ぶ強硬派軍人が600トンもの金塊を持ち出す。その一人、笹倉雅実大尉は「戦後、世界を席巻するだろう資本に対抗するため」金塊を海に沈める。佐々部清監督『日輪の遺産』も同じシチュエーションで始まる悲劇だったが、M資金ドラマはそこから世界をかけ巡る。 600トンの金塊は今では数10兆円。連合国軍総司令部(GHQ)が接収し日本政府の一部を通して戦後復興や反共費用として極秘に運用されてきた、とされる。主人公・真舟雄一(佐藤浩市)は父親が“M資金”専門の詐欺師で彼も後を継ぐ。詐欺に失敗した彼の前に“謎の男”石優樹が(森山未來)が現れ、財団の人間へと誘う。財団名は「日本国際文化振興会」。彼が詐欺を持ちかける時に使い、父が生涯追ってきたM資金の管理団体名だった。

jinrui-4.jpg 財団の男(岸部一徳)からいきなり「M資金を盗み出せ。報酬は50億円」と持ちかけられ、驚いていると本当の依頼者M(香取慎吾)が現れる。彼こそ金塊を持ち出した笹倉大尉の孫、本物のM資金管理者だった…。  ここまでの“国内編”は導入部、物語はそこから世界に飛び出していく。ハバロフスクでヘッジファンド団体代表(オダギリジョー)を罠にかけて50億円もの大金を稼ぎ、さらに真の目的を果たそうとする。

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★「本当にあったらどう使う?」M資金と山薩映画


 

  「M資金」を知ったのは五木寛之の小説で「隠退蔵物資摘発委員会」の工作員が登場した時からだった。戦時中、政府が国民から供出させた金銀、財宝などの巨額の財産を軍部の一部がGHQ絡みで秘匿、戦後、日本政府の秘密組織が追う、という物語に惹かれた。  次に耳にしたのは俳優・田宮二郎の自殺(79年)がらみで、彼は「M資金詐欺にひっかかった」とまことしやかに囁かれた。五木寛之は小説、田宮二郎は噂に過ぎなかったが、福井氏の原作は「実在」を前提としているのが大きな特色だ。

  そこには、これまで怪しげな幻に過ぎなかったM資金が「実在であってほしい」という願いがこもっている。M資金が本当にあったら何に使う? そんな問いに阪本監督が答えてみせた社会派映画ではないか。

 聞けば、阪本監督は往年の社会派の巨匠「山本薩夫監督のような作品を作りたかった」という。オールドファンならご存知、山薩監督は戦時中から筋金入りの左翼として知られる。後年は巨悪追及映画に凄みと講談調の面白さが加わり、社会と人間を壮大なスケールで描いて多くのファンを熱狂させた。大学の腐敗を暴いた『白い巨塔』(66年)、財閥一族と戦争を描いた『戦争と人間』(全3部70~73年)、銀行家一族を描いた『華麗なる一族』(74年)、政治腐敗を糾弾した『金感触』(75年)、商社のえげつない競争を描いた『不毛地帯』(76年)…。いずれも少々泥くさいが骨太の人間描写が特徴で、そのあたりが『どついたるねん』や『王手』、『顔』と共通しているかもしれない。阪本監督でいえば、新世界から生まれた王者(赤井英和)のカウンターが“世界経済をどついた映画”か。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.jinrui-shikin.jp/

(C)2013「人類資金」製作委員会

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