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『黒いスーツを着た男』

 
       

kuroisutu-550.jpg『黒いスーツを着た男』


 

 

★〈ラファエル・ペルソナ〉 インタビューはこちら

 

       
作品データ
原題 Trois mondes 
制作年・国 2012年 フランス・モルドヴァ 
上映時間 1時間41分
監督 カトリーヌ・コルシニ(『旅立ち』『彼女たちの時間』)
出演 ラファエル・ペルソナ(『アンナ・カレーニナ』『恋のベビーカー大作戦』)、クロチルド・エスム(『美しい人』『ミステリーズ 運命のリスボン』)、アルタ・ドブロシ(『ロルナの祈り』)、レタ・カテブ(『愛について、ある土曜日の面会室』)
公開日、上映劇場 2013年8月31日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、9月7日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、9月14日(土)~神戸アートビレッジセンター ほか全国にて順次公開


  ~成功を掴みかけた男の転落…それは全うな人生の始まりでもあった~
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 もう少しで念願叶う!という時に、不幸のどん底へ落とされるような不安を感じたことはないだろうか? この映画の主人公アル(ラファエル・ペルソナ)は、修理工から地道に努力して自動車ディーラーの管理職に就き、黒いスーツを着て真面目に働いていた。彼にとって黒いスーツは、成功のシンボルのようなもの。さらに、10日後には社長令嬢との結婚式を控え、幸せを掴む直前にひき逃げ事件を起こしてしまう。目撃者のジュリエット(クロチルド・エム)と被害者の妻ヴェラ(アルタ・ドブロシ)の二人の女性に追い詰められるアル。アルの身に起こったことは決して他人事ではない。見ている我々にも善人と悪人の違いを問われているようで身が引き締まる思いがした。

kuroisutu-2.jpg 仲間たちに促されたとはいえ、被害者を置き去りにして逃げ去ったアルの罪は重い。妊娠を巡り婚約者と口論となり、たまたまバルコニーに出て事故を目撃してしまったジュリエットもまた、人生の選択を迫られていた。彼女は被害者の容体を気遣い病院へ行き、悲嘆に暮れる妻のヴェラの力になろうとする。そこへアルが現れ、後を追い彼の事情を知る。周囲に相談できず苦悩するアルに同情したのか、ジュリエットは彼と関係を持ってしまう。だが、真実を知るジュリエットを心の拠り所にすればするほど、アルは良心の呵責に苛まれる。

 モルトヴァからの不法移民のヴェラにとっては、アルが自首するより金銭で決着をつけた方が都合がよく、アルに多額のお金を要求する。その金策のために、会社社長がやっている裏稼業にアルも手を出し、それが発覚して危険な状況に置かれようとしていた。

kuroisutu-4.png 本作は幸せの絶頂から転落するという暗いお話に終っていないところがいい。カトリーヌ・コルシニ監督が初めて男性を主人公にした作品でもあり、野心むき出しの強欲さもなく、ある結論へ辿り着いた男の葛藤をフレンチノアールタッチで描いている。悲哀を滲ませながらも後味のいい印象を残したラストシーンは秀逸だ。監督の高い要求に応えたラファエル・ペルソナの繊細な演技も素晴らしい。

 

kuroisutu-RP-7.jpg アルを演じたのは、“アラン・ドロンの再来!”と謳われるラファエル・ペルソナ(32歳)は、海外メディアでは注目の的だが、日本では6本の公開作を控え今後期待されるイケメン俳優だ。アラン・ドロンが『太陽がいっぱい』や『地下室のメロディー』などで強い野心を抱くあまり自滅する若者の悲哀を感じさせていたのに対し、ラファエル・ペルソナは普通の人間が抱える苦悩をナイーブに演じて、現代人には共感しやすい人。時代が生んだアラン・ドロンの強烈な印象とは違うが、ラファエル・ペルソナも幸福を背にして生きる人間の悲哀を感じさせる稀有の俳優であることは間違いない。

(河田 真喜子

公式サイト⇒ http://www.cetera.co.jp/kurosuits/

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