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『舟を編む』

 
       

funeamu-550.jpg『舟を編む』

(伊藤久美子バージョン)

★松田龍平・宮﨑あおい 舞台挨拶レポートはこちら

       
作品データ
制作年・国 2013年 日本
上映時間 2時間13分
原作 三浦しをん『舟を編む』(光文社刊)
監督 石井裕也
出演 松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、伊佐山ひろ子、八千草薫、小林薫、加藤剛
公開日、上映劇場 2013年4月13日(土)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、ほか全国ロードショー

 

~言葉って面白い…辞書づくりに賭けた情熱~


funeamu-1.jpg 「恋」ってなんだろう。言葉で説明しようとすると、どう表現したらいいのか戸惑ってしまう。そういう時、辞書をひいてみる。いろんな辞書を見比べると、説明の仕方がまるで違って、興味深い。これは、辞書づくりに人生をかけた人たちの物語。

 1995年。インターネットも今ほど普及しておらず、辞書づくりは、カードを使った手作業で行われていた。街角で使われている新しい言葉や用例を集め、選んで語釈(語義説明)をつけていく。見出し語の数およそ24万語。気の遠くなるような作業を、15年もの歳月をかけて完成させていく。映画は、辞書づくりという、地道で忍耐の必要な作業に携わる人たちの姿を生き生きと、ユーモアを交えて描き、言葉の魅力をたっぷりと実感させる。

funeamu-2.jpg 27歳の青年、馬締(まじめ)光也は、名前どおり、まじめ一筋で、無類の本好き。コミュニケーションをとるのが苦手で、出版社の営業部では変人扱いされていた。そんな馬締が辞書編集部に呼び寄せられ、「大渡海」という新しい辞書の編集に携わることになる…。松田龍平が、辞書づくりをとおして少しずつ他人に心を開いていく馬締を自然体で演じ、好感を呼ぶ。下宿の大家の孫娘にひとめぼれした馬締の恋模様は、不器用で、微笑ましい。恋する相手に想いを伝えるのに、どんな言葉を使ったらいいのか思い悩む馬締の姿は、言葉と向き合う辞書づくりの試みに通じるものがあり、言葉のおもしろさをリアルに伝える。

funeamu-3.jpg 馬締の成長をあたたかく見守る辞書編集部の面々がいい。オダギリージョー演じる先輩編集員は口ばかり達者で一見ちゃらんぽらんに見えて、いつしか馬締の影響を受けて熱い意気込みをみせるようになる。オダギリの脱力ぶりが笑いを誘う。加藤剛、小林薫、伊佐山ひろ子と貫禄ある役者がそろい、辞書づくりにかけた静かな情熱と、人生の厚みを感じさせる。八千草薫がわずかな出番ながら、馬締に感謝の気持ちを伝える物腰の上品さと丁寧さでインパクトを残す。美術もすばらしい。書類と辞書が積み重なった辞書編集部の部屋はもちろん、馬締の下宿部屋の本棚には圧倒される。

 皆で力をあわせて、ひとつのことに情熱をもって取り組み続けることのすごさと楽しさを、この映画でぜひ体感してほしい。きっと言葉って、こんなにおもしろいんだと再発見するにちがいない。

(伊藤 久美子)

公式サイト⇒ http://fune-amu.com/

© 2013「舟を編む」製作委員会

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