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『きいろいゾウ』

 
       

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『きいろいゾウ』宮﨑あおい、向井理舞台挨拶レポートはコチラ

       
作品データ
制作年・国 2012年 日本
上映時間 2時間11分
原作 西加奈子著『きいろいゾウ』小学館
監督 廣木隆一
出演 宮﨑あおい、向井理、柄本明、松原智恵子、リリー・フランキー、緒川たまき、濱田龍臣、本田望結
公開日、上映劇場 2013年2月2日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、T・ジョイ京都他全国ロードショー

~ツマとムコが“真の”夫婦になるまで~

kiiroizou-2.jpg 宮﨑あおいが声の出演をした『おおかみこどもの雨と雪』の田舎の家を彷彿とさせる、のどかな風景と大きな古びた一軒家での暮らしぶりが映り、「ツマ~」「ムコさん~」と微笑ましく呼び合う夫婦になんとも癒される。しかも、これが見事な関西弁だから、ググッと惹き込まれてしまう。西加奈子のロングセラー『きいろいゾウ』を、自身も大ファンという宮﨑あおいと向井理を迎えて映画化。『軽蔑』、『ヴァイブレーター』の廣木隆一監督がファンタジーとリアルが交錯する原作を、実感ある夫婦の物語に仕立てあげた。

kiiroizou-3.jpg 人里離れた田舎で穏やかに暮らす”ツマ”(宮﨑あおい)と”ムコ”(向井理)は、出会ってすぐに結婚した若夫婦。背中に飛べない鳥のタトゥーがあるムコは、小説を書くかたわら介護の仕事をしている。一方、幼いころから入院を繰り返していたツマは、大好きな「きいろいゾウ」の絵本を読んでいるうちに動物や植物の声が聞こえるようになっていた。お互いの過去を知らない2人だったが、ある日ムコに届いた一通の手紙に、ツマは胸のざわめきを覚える。ツマはムコが毎日書いている日記を読み始め、ムコの知られざる一面に触れていくのだった。

kiiroizou-4.jpg ツマが子どもの頃を回想するシーンでは西加奈子の温かいイラストアニメが登場したり、ツマが話しかける犬やソテツの木との会話が味わい深く、前半はファンタジー感に満ちている。しかし、一通の手紙がツマとムコの関係を大きく軋ませていく。お互いのことを知らずに結婚した二人に訪れる試練の中でも、夫婦が静かに感情をぶつけ合うシーンは目を見開かされる。女の顔となって怒りに震える激しさを見せるツマと、それをひたすら受け止めるしかないムコの姿は、お互いの内面をさらけ出し、辛いけれど真の夫婦になるために必要な瞬間なのだ。

kiiroizou-5.jpg 過去の不倫相手であるムコに、妻を助けてほしいと手紙を送った夫(リリー・フランキー)や、妻が入院してしまうと雨が降ることも分からないと不在を嘆く夫(柄本明)。そして田舎暮らしを望むツマのために、小説の仕事を減らすことを選ぶムコなど妻を愛するゆえ事故を犠牲にするかの行動をとる夫たちの姿が次々と重なり、この愛の姿こそ一番のファンタジーに思える。そして何よりもツマという特別な雰囲気を持ったキャラクターを、奔放かつ真っ直ぐに飾り気のないスッピンで演じた宮﨑あおいの表情一つ一つが本当に見逃せなかった。夫婦はきれいごとではないけれど、それを乗り越えれば絆は深くなる。山や海に囲まれた大自然の中で紡がれた夫婦物語は、決して甘いだけではない。

(江口由美)

公式サイト⇒http://www.kiiroizou.com/
(C) 2013西加奈子・小学館 / 「きいろいゾウ」製作委員会

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