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『カミハテ商店』

 
       

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作品データ
制作年・国 2012年 日本(北白川派)
上映時間 1時間44分 
監督 監督:山本起也 プロデューサー:高橋伴明
出演 高橋惠子、寺島進、あがた森魚
公開日、上映劇場 2012年11月10日(土)~ユーロスペース、11月24日(土)~京都シネマ、12月8日(土)~第七藝術劇場、12月15日(土)~神戸元町映画館、他全国順次公開


~自殺志願者に寄り添う女・千代のコッペパン~

  これが出口の見えない今の閉塞状況か。「カミハテ商店」は、ドキュメンタリー映画「ツヒノスミカ」(06年)でスペイン国際映画祭の最優秀監督賞(ジャン・ヴィゴ賞)を受賞した山本起也監督。希望のないやりきれなさを静かなタッチで描き出した。

  舞台は島根県隠岐郡の離島の“自殺の名所”。その近くで雑貨屋を営む初老の女性千代(高橋恵子)は、ふと自殺を選んでしまう人を止めることなく、そっと見守る。年間3万人、未遂を含めると10万人にのぼる自殺大国・日本で、生と死の狭間にいる人々を描いた、希望なき時代らしい作品。  山陰の小さな港町“上終(カミハテ)”でコッペパンを焼いて細々と暮らす千代の店を訪れるのは、牛乳配達の青年(深谷健人)と町役場の福祉課員(水上竜士)ぐらい。ひっそりした千代の店に、まるで“都市伝説”のように断崖絶壁目当ての自殺志願者がやって来る。彼らは千代の店で昔懐かしいコッペパンと牛乳を買い“最後の晩餐”を行う。

 kamihate-2.jpg 千代の父親も、彼女の目前で理由不明のまま自殺し、彼女は自殺願望に気付いても止めない。しばらくして断崖に行き、残された遺書と靴を拾って持ち帰る…。「死にたい人は死ねばいい」とでも言うように。

  彼女は母親も亡くした後、死者のような諦念と静謐の中にいる。だが、医者の診断を受けた時は「悪いんでしょう。はっきり言って」と迫りもする。

  ある時、子連れの母親を警察に通報して自殺を止めるが、彼女たちは保護された直後に自殺してがく然。それでも、数少ない知り合いの牛乳配達人が断崖に茫然と佇んでいるのを見て、思わず「毎度あり」と彼の口ぐせで声をかける…。    最果ての島の断崖絶壁を背景にした荒涼たる画面から死の影が立ち上る。人間はほんの弾みのように死を選ぶ。生への執着をなくした時代のよるべなさがやりきれない。23年ぶりに主演を務めた高橋恵子の、生と死の狭間にいる女の存在感が秀逸だ。

  尼崎の不可解な大量殺人、連日のようにマスコミを賑わす幼児虐待や子供殺し、薬物使用による車の暴走事故…。人の命があまりに軽いのに、生きることはますます難しく大変な時代、これは確かな生きてる証など何もない、そんな希薄さが漂うような“時代の表出”に違いない。(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.kitashira.com/
(C)北白川派

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