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『聴こえてる、ふりをしただけ』

 
       

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『聴こえてる、ふりをしただけ』今泉かおり監督インタビューはコチラ

       
作品データ
制作年・国 2012年 日本 
上映時間 1時間39分
監督 今泉かおり
出演 野中ハナ、郷田芽瑠、越中亜希他
公開日、上映劇場 2012年11月3日(土・祝)~第七藝術劇場、京都みなみ会館、12月1日(土)~元町映画館他全国順次公開
受賞歴 第62回ベルリン映画祭ジェネレーションKプラス部門子ども審査員特別賞

~11歳の少女目線で描く、”死”との向き合い方~

 母の喪失からはじまる、思春期入口の少女の葛藤が、ここまで静かに、冷静に、そして繊細に描かれることに驚きを隠せなかった。第7回CO2助成監督に選ばれ、本作が初長編作品となる今泉かおり監督の少女たちの目線に立った人物描写が秀逸。主人公サチが母の喪失を受け止めるまでを、友人との関わりや、親戚や先生などの大人との関わりを絡めて表現した「行間を読む映画」だ。

 さち(野中ハナ)は母を亡くし、父と二人暮らしに。父に「お母さんが守ってくれる」と渡される母の形見の指輪を首に下げ登校するサチは、母の魂はこの世にあると信じている。ある日転校生の希(郷田芽瑠)が「トイレにはお化けがいて怖い」とおもらしして泣くのを聞き、さちは希のトイレに付き合うようになる。

 本作で登場する希は、表裏のない素直な女の子。思ったことをそのまま口にする周りからみれば幼く見える少女とさちは仲良くなっていく。最初は守ってあげるという気持ちが、次第にお化けの存在を信じる仲間となるが、論理的にお化けがいない理由を口走る希に対するやり場のない怒りを覚えるさち。彼女のその後の行動は邪の心を剥き出しにし、子どもの残酷な一面を浮き彫りにする。本当は自分もお化けがいないと分かっていながら、それを認めることが怖い揺れ動く心が、終盤の指輪を川に投げ入れ、今まで無表情だったさちが声を上げて泣くまでを真正面から捉え続けるシーンは見事だ。今まで押さえていた感情を一気に露呈し、鬱になった父に甘えることもできず、一人耐えてきたさちの心の叫びが聞こえた。

 大事な人を失ったとき、人はその喪失にどう向き合っていくのか。周りはどう支えていくのか。母が大事に育ててきた花は、もう一つの命のモチーフのように、母の死を受け止めたさちの心を照らす。積もったほこり、触れなかった母のエプロン、そこにそっとふれる指先にまで気持ちの入った静かに主張する演技が、観るものを最後まで掴んで離さなかった。喪失を受け止める永遠のテーマを少女の目線で表現した今泉かおり監督。映画監督の妻、二児の母として子育て、看護師の仕事を続けながら、ライフワークとして映画を撮り続けるという強い意志が同じ女性としても頼もしく映る。自身のキャリアを積み重ねることで、今泉かおり監督にしか撮れない作品を今後も生み出してほしい。(江口由美)

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