ホセ・ルイス・ゲリン監督記者会見はコチラ
原題 | Los motivos de Berta |
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制作年・国 | 1983年 スペイン |
上映時間 | 1時間58分 |
監督 | ホセ・ルイス・ゲリン |
出演 | アリエル・ドンバール他 |
公開日、上映劇場 | 2012年6月30日(土)~渋谷イメージフォーラム、7月3日(火)同志社大学、今秋~第七藝術劇場、京都みなみ会館、神戸アートビレッジセンター他順次公開。 ※7月3日(火)同志社大学ではホセ・ルイス・ゲリン監督によるトークセッションあり |
~映像美の中に潜む、時代を映すモチーフ~
『シルビアのいる街で』(2007)で、その映像の美しさがセンセーションを巻き起こしたスペインのホセ・ルイス・ゲリン監督の世界初となる映画祭が日本で実現する。松尾芭蕉や小津安二郎に影響を受けたと語るホセ・ルイス・ゲリン監督自身の来日も予定され、幅広く作品が紹介される初の機会となる。中でも『ベルタのモチーフ』はゲリン監督の処女作で、ようやく日本での公開が実現した非常に興味深い作品だ。モノクロ映像に描かれる美しい大自然の中、少女が生きる世界やその内面が詩情豊かに語られ、我々人間は自然の中で生かされている存在であることを静かに表現している。
冒頭、紙芝居のようにシーンごとを切り取る映像の連続から、次第にベルタの日常が明らかになってくる。しぼりたての牛乳を届けたり、弟と遊んだり、自転車で好きなところに出かけていく生活。穂を揺らす風の音や、川の流れ、小鳥のさえずりなどの音がこだます中、時折文明の騒音が聞こえる。見渡す限りの地平線が広がるおだやかな村で鬼ごっこやカエルを遊び道具にするベルタだが、兄は兵役でなかなか戻ってこず、周りからは不審者扱いされている男と出会うなど、おだやかなベルタの日常に小さなさざ波が立ってくる。
家族との日常の暮らしや弟とのじゃれあいを織り交ぜながら、口では説明できないような気持ちをささやかな冒険でまぎらわすベルタを、ゲリン監督は詩のように静かに映し出す。男から聞いた亡き妻の話を最後まで信じ、目の前で自殺した男の死を自分なりに受け入れる姿はどこか達観していて、ベルタの今までの“死”と向き合う体験を暗示しているかのようだ。
一方、穏やかな村に訪れる騒々しい車の列が、えもいわれぬ不穏感を表現している。車の列の正体は撮影隊であり、ロメール監督の常連女優、アリエル・ドンバールが撮影隊の女優として登場。ベルタが埋めた(葬った)男の遺品である帽子を女優が偶然とはいえ掘り出すシーンからは、“侵略者”というキーワードが浮かび上がる。
ホセ・ルイス・ゲリン監督がベルタを通してちりばめたモチーフは、観ている者によって繋ぎ合わされ、自ら物語を紡ぐ余地を十分に与えている。奥深い映像に魅了されながら、自然の息遣いに耳を澄ませ、映画の醍醐味をじわりと味わうことのできる作品。そこに近代化がまき散らす残骸という名のモチーフが潜んでいることも忘れてはならない。(江口 由美)
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