『スリープレス・ナイト』フレデリック・ジャルダン監督、主演トメル・シスレー氏、共同脚本ニコラス・サーダ氏インタビューはコチラ
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原題 | Nuit Blanche |
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制作年・国 | 2011年 フランス |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | フレデリック・ジャルダン |
出演 | トメル・シスレー、ジョーイ・スタール、ジュリアン・ボワッスリエ、ローラン・ストーケル、ヒロル・ユーネル |
公開日、上映劇場 | 2012年9月15日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開 |
~敵味方、見分けつかない混沌の時代~
たったひと晩の物語。ギャングも警察も運び屋も、周囲をみーんな敵に回してド派手に戦い、逃げ回るなんて…ここまでドツボにはまる男は滅多にいない。こんな状況に立ち至ることがまず不可能。だが、フレデリック・デシャルダン「スリープレス・ナイト」のトメル・シスレーは絶望的な中をうごめき、もだえ「子供を救う」ためにすべてを投げうつ。こんなどんづまり男は見たことない。
“フィルム・ノワール”はかつてフランス映画が世界に誇った金字塔だった。古くはジャン・ギャバンの暗黒街映画。これにまだ駆け出しのアラン・ドロンが出ていた。60~70年代、ヌーヴェルヴァーグに対抗するように、ギャング映画を芸術の域にまで高め、熱狂させたのがジャン・ピエール・メルヴィル監督の傑作群だった。その名も「ギャング」(66年)はノワールの決定版だし「仁義」(70年)のドロンや殺し屋モンタンの全身に漂うアウトローの雰囲気には酔いしれた。
ギャングVS刑事では「リスボン特急」(72年)が原型か。列車襲撃情報をキャッチしたパリ警視庁の刑事はかつてギャングで、襲撃計画のボスはかつての暗黒街仲間。刑事は事態を察知してボスと対決する決意を固めるのだが、40年後の現代では刑事とギャングが一体化、というより刑事がギャングになり、ギャングが刑事を追い回して熾烈な戦いを繰り広げる。味方のはずの刑事も敵だから、敵味方の識別も難しい。それほど現代社会は敵が見えにくい。そんな混沌時代を見事に映像化した希有なギャング映画である。
車が真っ昼間襲撃され、大量のドラッグが盗まれる。犯人はなんと刑事。首謀者ヴァンサン(トメル・シスレー)ら2人の刑事。だが、ヴァンサンが顔を見られたために持ち主のマフィアに正体を知られ、彼らに報復としてヴァンサンの一人息子を人質としてとられ「麻薬と引き換えに子供を返す」と逆脅迫。彼はやむを得ず麻薬を持ってマフィア経営のクラブに乗り込む…。
警察腐敗や汚職刑事などはもはや刑事ものの定番だが、この映画はさらに複雑にサスペンスを盛り上げる。ヴァンサンの行動をいぶかった女刑事が彼を追跡、上司に報告したら上司もまた怪しい方だったからたまらない。女刑事はヴァンサンが麻薬を隠した場所から移してしまう。ヴァンサンはギャングには一部ホンモノを見せて信用させたが、いざ子供と交換の時にブツは行方不明。いよいよ進退極まったヴァンサンは客が踊るクラブや台所でギャング、麻薬の買い手、仲間の刑事や内務調査の刑事らとの死に物狂いの闘争&逃走劇を繰り広げる…。
ノンストップ・アクションという言葉がふさわしい、息つく暇もない急展開。目まぐるしい敵との戦いには口アングリだ。今の時代を痛感するのは、登場人物たちのだれ一人として正当性がないこと。強盗に転じたヴァンサンはもとより、その仲間の刑事も上司も、もちろんマフィアたちも、ただひたすら金と自己防衛に躍起になる。ただ一人、女刑事だけが力弱くも正義を貫こうとするのが痛々しい。
もっぱらギャング役が似合ったギャバン、刑事もギャングも出来たドロン…刑事=正義、ギャング=悪者といった区別など無意味な時代、「ラルゴ・ウィンチ」で飛びだした期待の星トメル・シスレーは同時にどちらも出来る今どきにドンぴしゃのキャラかも知れない。(安永 五郎)
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