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『オールド・オーク』

 
       

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作品データ
原題 THE OLD OAK 
制作年・国 2023年 イギリス、フランス、ベルギー (英語・アラビア語)
上映時間 1時間53分
監督 監督:ケン・ローチ 脚本:ポール・ラヴァティ 
出演 デイヴ・ターナー、エブラ・マリ、クレア・ロッジャーソン
公開日、上映劇場 2026年4月24日(金)~ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、5月1日(金)~109シネマズ箕面 ほか全国ロードショー


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~パブを舞台にシリア難民との共存を探る~

 

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「オールド・オーク(THE OLD OAK)」――。「古いオークの木(ブナ科)」という意味の題名にまず惹かれました。しかも監督が社会派映画の巨匠、イギリスのケン・ローチ。現在、89歳。本作が最後の作品らしいです。否が応でも期待が膨らみ、オンライン試写で観ると、期待以上の出来映えでした。この人、まだまだ映画を撮れるのではないかと思ったほどです。


オークはウイスキーの樽に使うので、愛飲家のぼくはてっきり、『天使の分け前』(2012年)に次ぐスコッチ・ウイスキーの物語かなと勘ぐりましたが、社会の分断を題材にしたバリバリの硬派映画でした。「オールド・オーク」というのはパブ(英国の酒場)の名前です。そこを舞台にした物語なので、お酒とはかろうじて関係がありますが(笑)


そのパブはイングランド北東部の元炭鉱町にあります。具体的な地名はなかったけれど、かつて国のエネルギー供給地として活況を呈したダラム炭鉱のようです。サッチャー政権下の1980年代、炭鉱合理化に反対する大規模ストが頻発し、それが名作『リトル・ダンサー』(2000年)に投影されていました。


映画の時代は2016年。エネルギー政策の転換で廃坑が相次ぎ、町は寂れ、人口流出が続き、全く活気がありません。典型的な「時代に取り残され、忘れられた田舎町」です。そんな中、唯一のパブ「オールド・オーク」は住民にとってオアシスのような存在で、日々、常連さんがやって来て、古き良き時代を懐かしんでいます。客はしかし、年配者ばかり。若者の姿が見当たりません。当然、経営は厳しい。


話はそれますが、昨今、英国のパブが激減しているそうです。理由は運営コストの高騰、若者のアルコール離れ、後継者不足など。何でも1日に1~2軒のペースで閉業しているとか。現在、まだ4万~4万5000軒あるそうですが、はて、この先、どうなるのでしょう。英国の社会に溶け込み、酒文化の象徴ともいえるパブ……。気になって仕方ありません。


oldoak-500-1.jpg閑話休題――。ある日、その田舎町にシリア難民の一団がやって来ます。えらいこっちゃ! 住民は浮き足立ちます。なんでこんな貧しい町に? それは住宅費が安く、メディアに注目されないからだそう。秩序を保っていた町に、にわかに不穏な空気が漂い、〈異質な集団〉に対して露骨に敵意をむき出しにする者もいます。明らかに、難民は〈招かれざる人たち〉です。何だか関東のK市でクルド人を差別・中傷する一部の人たちみたい。


そうした中、T・J・バランタインというパブの店主が一時的に難民を店内へ収容させます。この中年男性、かつては地域のためにあれこれと尽力した人物ですが、今やすっかり活力が衰え、精彩がありません。その理由はここでは明かしません。しかし間違いなく心根の優しい人です。なぜならごく自然に弱者に手を差し伸べたのですから。


シリアでは2011年の内戦以降、これまでに375万人が国を逃れ、主にヨーロッパ諸国に逃れてきました。それがシリア難民です。英国に最初にやって来たのがまさに2016年でした。戦争、虐殺、拷問、凄惨な逃避行、家族の離散や死亡など筆舌に尽くしがたい体験をした人たちなのに、悲しいかな、地元民から差別の目で見られます。


oldoak-500-2.jpgその難民の中に、国際ボランティアのキャリアを活かして流暢に英語を操り、独学でカメラを学んだヤラという若い女性がいます。非常に気丈な娘で、新天地の情景を躊躇なく撮影しまくります。そんな彼女と接したT・Jが「パブロフの条件反射」のように吸い寄せられ、そこに3児を引き連れてきた難民の母親ファティア、地元慈善団体のメンバー、ローラが寄り添ってきます。彼らに共通するのは人権意識の高さです。


息を吹き返したT・Jがパブを利用して難民をサポートし始めると、それに反発する人が出てきます。とりわけパブの常連たちがそうです。「わしらの居場所がなくなるやんけ!」。「オールド・オーク」は彼らのアイデンティティーともいえる店だけに、その心情はよく理解できます。そのうち難民擁護派と反対派との間に深い溝ができ、小さな町に分断が生じてきます。


映画はT・Jとヤラとの友情を軸にして、両者の軋轢をあぶり出していきます。「おんなじ人間やないか。社会的弱者を助けたい」という人道主義と「異質な者は受け入れがたい。怖いし」という自己防衛の気持ちのぶつかり合い……。ケン・ローチ監督は徹底したリアリズムでぐいぐい映像を引っ張っていきます。


それをリベラルと保守という単純な色分けではなく、もっと超越したところから活写していくところが本作の真骨頂です。キーパーソンともいえる常連客のチャーリー(トレヴァー・フォックス)の他はすべて地元住民が出演しているそうです。これはローチ映画の常套手段ですが、素なる演技によって問題の深刻さがよりいっそう認識できました。


映画で取り上げた出来事は何もこの町だけの問題ではなく、世界が直面している問題です。共存できるのか、分断のままいくのか……。ローチは明らかに共存を求めています。「善意ではなく連帯」という理念が作品に通底しており、互いに違いを認めて理解する「寛大さ」と「思いやり」こそが肝要だと。


それが真のリベラルだとぼくは思います。リベラル=左派では決してありません。本作を観て、頭がスッキリしました。やはり、ケン・ローチ監督にはせめてもう1作、撮ってほしい!


武部 好伸(作家・エッセイスト)

公式サイト: https://oldoak-movie.com/

配給:ファインフィルムズ 
後援:ブリティッシュ・カウンシル
© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023

 

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