
| 制作年・国 | 2026年 日本 |
|---|---|
| 上映時間 | 1時間56分 |
| 監督 | 監督・脚本 : 中川駿(『少女は卒業しない』『か「」く「」し「」ご「」と「』) 撮影監督:趙聖來 主題歌:大森元貴「0.2mm」(ユニバーサル ミュージック / EMI Records) |
| 出演 | 山時聡真 菅野美穂 南琴奈 田中偉登 西野七瀬 荻野みかん 朝井大智 藤本沙紀 オラキオ 金澤美穂 市原茉莉 少路勇介 |
| 公開日、上映劇場 | 2026年3月27日(金)~新宿バルト9、T・ジョイ梅田、なんばパークスシネマ、MOVIXT京都・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸、MOVIXあまがさき他 全国公開! |
〜ケアだけじゃない、見守り・繋がり合う物語〜
難病を描いた作品と聞くと観るのが辛く感じる人もいるのではないだろうか?実は私もそうだ。しかし、本作はそういったイメージを良い意味で覆す。

『ディア・ドクター』『近畿地方のある場所』の菅野美穂が本作では難病に冒される難しい役どころに挑戦した。その母を懸命に支える高校生の息子を『ちはやふるーめぐりー』の山時聡真が演じる。そして、本作では難病の母とヤングケアラーの姿だけでなく、離れたり近づいたりしながら人と人が関係を構築してゆく様子が鮮やかに描かれる。
美咲(菅野美穂)と佑(山時聡真)の日常は過酷だ。母の発病をきっかけに佑の生活は一変する。24時間介助が必要なため、つねに睡眠不足で学校生活もままならない。少年時代から続けていたバスケットボールもやめざるを得なくなり、いつの間にか諦めの表情を浮かべるようになっていた。そんな佑に担任教師は自己推薦での大学受験を勧める。
監督は『少女は卒業しない』『か「」く「」し「」ご「」と「』の中川駿。本作は初のオリジナル脚本であり、中川監督自身の実体験が投影されている部分もあるという。共に暮らしてきた歴史が、介助する/される立場に変わったことで生むもどかしさがリアルに描かれる。また、美咲が静かに涙を流すシーンも印象的だ。寝ている状態で泣くと耳に涙が伝う。スクリーンごしにもその煩わしさが喚起される。押さえ込んでしまいがちな不安や葛藤、不満、苛立ちも、抑えたトーンでストーリーに組み込むが、それを母子二人の閉じた物語でなく、周囲の人々との関わりを交えて描いているところが魅力だ。激しく感情を爆発させる場面はあまりないが、淡々と続く日常に少しづつ降り積もる感情が、行き場を失って堆積してゆくのが可視化される。
重いテーマにも関わらず開かれた物語になっているのは、周囲の人々の思いもさりげなく描かれるから。これは群像劇を得意とする中川監督の持ち味でもあり、ヤングケアラーの現状を盛り込みつつ物語として観やすくする意識的な采配でもあるという。ケアマネージャーの西野七瀬や南琴奈、田中偉登ら同級生たちの存在、学校や通学路の風景が物語を豊かにしている。
そして、同時に助けを求めてもいい、頼っていいということを描いていることにも注目したい。特筆したいのは、人と人とが繋がる前の段階から描いているところだ。そこには”見守り”の姿勢がある。一見、傍観しているようにも見えるが、手を伸ばせば届きそうな距離からそっと見ている。一番大切な視点がここにあった。誰かの手助けをするためには、まず対象をよく見ていることが前提だ。声をかけるタイミングは難しいが、普段から気をつけて見ていることでタイミングをはかれることがある。いっぽう当事者になると周りが見えなくなり、厚意に気づかないこともある。それが双方の立場から描かれ、自然と伝わってくるのだ。
主題歌はミセスグリーンアップルの大森元貴。バンドサウンドのポップなイメージとは違ったソロの静かな曲調は、映画の世界と地続きに優しく響く。タイトルバックのさりげなさも劇伴も物語世界から注意をそらさぬよう細やかに設計されている。とくに親子が語らうシーンが良かった。引きの演出、つまり”見守り”の姿勢が映画作りにも活かされている。劇中では”お世話”という言葉で表現されるが、ケアや手助けはする方もされる方も丁度いいラインをみつけるには時間がかかる。本作は人と人とが助け合って生きていく上での大切なヒントを与えてくれる。
(山口 順子)
公式HP:https://movie90m.com/
公式X:@movie90m
配給:クロックワークス
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
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