
| 原題 | Marty Supreme |
|---|---|
| 制作年・国 | 2025年 アメリカ |
| 上映時間 | 2時間29分 |
| 監督 | 監督・脚本:ジョシュ・サフディ (『神様なんかくそくらえ』『グッド・タイム』) |
| 出演 | ティモシー・シャラメ(『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』)、グウィネス・パルトロウ(『アベンジャーズ』シリーズ)、 オデッサ・アザイオン(『ヘルレイザー』)、ケビン・オレアリ―、タイラー・オコンマ(タイラー・ザ・クリエイター・ラッパー) |
| 公開日、上映劇場 | 2026年3月13日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS他)、なんばパークスシネマ、テアトル梅田、109シネマズHAT神戸、MOVIX(八尾、京都、あまがさき他)、T・ジョイ京都 他全国ロードショー |

~野心をむき出す卓球選手の疾走人生~
今、旬の外国人男優といえば、やはりティモシー・シャラメでしょうね。昨年、ここで書かせてもらったアメリカ映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』で仕草も声もボブ・ディランになり切り、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされました。現在、30歳。これからますます飛躍していきそうです。
そんなシャラメが、本作で演じたのがマーティ・マウザーという曰く付きの卓球選手。なぜ曰く付きかと言うと、スポーツマンらしい精悍さが微塵もないからです。口八丁手八丁の野心家で、自己中ロマンチストの夢追い人。はっきり言って、アンチヒーローです。
この人物にはモデルがいます。1950年代に卓球で全米チャンピオンに輝き、「卓球の魔術師」と異名を取ったユダヤ系のマーティ・リーズマン(1930~2012年)。ご存じですか。ぼくは全く知りません。
ネットで検索すると、闇の卓球クラブで賭け試合をし、客から暴利を貪っていたハスラーで、こんなことを豪語しています。「トップクラスの卓球選手はギャンブラーか密輸業者でなければならない」。うーん、かなり怪しいです(笑)
映画は、1952年、日本なら昭和27年、マーティが叔父の経営するニューヨークの小さな靴店で働いているシーンから始まります。非常に愛想が良く、それでいて抜け目がなく、超多忙な中、幼なじみの人妻、レイチェル(オデッサ・アザイオン)とちゃっかり逢瀬を楽しんでいます。これを見るだけで、23歳ながらも、なかなかのクセ者だとわかります。
靴屋の店員はあくまでもかりそめの姿。素顔は凄腕の卓球プレーヤーで、それが自身のアイデンティティーになっています。当面の目標は、イギリスで開催される卓球の世界選手権で優勝すること。しかし貧しく、常に金欠状態とあって、航空券を買う金すらない。そこであくどい手法で金をゲットし、渡英を叶えるのです。いやぁ、スポーツ選手の風上にも置けない、許し難いヤツですわ。ここからどんどん本性を現していきます。
今や卓球はオリンピックでも注目されていますが、当時のアメリカでは遊びの延長みたいな娯楽と見なされていたんですね。この映画を観て、初めてそのことを知りました。つまりマイナースポーツどころか、れっきとしたスポーツとは見なされておらず、だからこそ、「はみ出し者」の自分でも光が当たる可能性があると踏んだのかもしれません。
とはいえ、この青年、めちゃめちゃ卓球が強いんです。文句なく実力派。だから、堂々とスポーツマンシップに則って試合に没頭すればいいものを、大金持ちの社長(ケビン・オレアリー)に接近し、あろうことか社長夫人の元大物女優(グウィネス・パルトロウ)と愛人関係へと発展させていくのだから、おったまげますわ。
世界選手権では楽々と勝ち進めていきますが、決勝で日本人選手のエンドウ(川口功人)に惨敗し、自信が打ち砕かれます。ざまぁみろ。人生、そんな甘くありまへん。失意の中、帰国すると、これまでのツケがドーンと回ってきて、とんでもない目に遭います。さぁ、どうする。ここからが映画の本筋になっていきます。
マーティは、題名の「シュプリーム(至高)」のごとく、自分をとことん高みに登らせたいという意識が過剰なほどにあり、目的達成のためには手段を選ばない。さらに少しでも自分にプラスになりそうな人物と出会うと、とことん利用しようとする。夢というより、野望を燃えたぎらせており、猛烈にエネルギッシュ。熱い、熱い!
そんな主人公に扮したシャラメ、いやぁ、濃密な演技を披露してくれました。姑息さと狡猾さをここまで前面に出し切るとは凄い。でもどこか憎めない……。しかも卓球のシーンをすべて自分で演じたというから驚きです。かなりトレーニングを積んだのでしょうね。どんな役どころもこなせる器用な俳優なんやと改めて実感した次第。
社長夫人役のパルトロウは映画出演、久しぶりですね。経済的に恵まれた生活と引き換えに、芸能界での華々しいキャリアを投げ打ったことに後悔している、そんな内面を巧くかもし出していたと思います。寂しいんですね。だからこそ、ギラギラしているマーティに惹かれていったのでしょう。
マーティの宿敵となるエンドウに扮した川口功人はトヨタ自動車に所属する、ろう者の卓球選手です。道理でセリフをひと言も発しなかったわけです。2022年と2025年のデフリンピックの卓球男子団体で銅メダルを取った人なので、ラケットを手にする姿がバッチリ決まっていた!
このエンドウこそがマーティの澱んだ心に風穴を開けたのです。換言すれば、やさぐれ感を脱し、スポーツ選手の根幹に触れさせたのです。まさにキーパーソン! そんな2人が激突する卓球の場面はハイライトとして実に見ごたえがありました。場所は東京の上野公園。複数のカメラと広角レンズで同時に撮影していたようで、臨場感に溢れており、何だか卓球が格闘技のように見えました。
脚本も書いたジョシュ・サフディ監督は、冒頭からエンディングまで驚くべき疾走感で見せ切ってくれました。ホンマ、息つく暇がないほど「せわしない」映画でしたが(笑)、それは主人公の生きざまをそっくり投影したものだとぼくは受け止めています。
「マーティはアメリカが戦後に表現した自信、うぬぼれ、野心の体現者だ」。これ、プレスシートに記されていた監督の言葉です。なるほど、言い得て妙ですね。はて、今のアメリカはどうなのかな? ふとそんな疑問が浮かびました。
武部 好伸(作家・エッセイスト)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/martysupreme/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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