
| 原題 | SENTIMENTAL VALUE |
|---|---|
| 制作年・国 | 2025 年 ノルウェー |
| 上映時間 | 2時間13分 |
| 監督 | 監督:ヨアキム・トリアー『わたしは最悪。』 脚本:ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト |
| 出演 | レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオース |
| 公開日、上映劇場 | 2026年2月20日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHO シネマズなんば、 MOVIX 京都、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ西宮OS ほか全国公開 |
〜時代を越えて繋がる、家族と家と映画の物語〜
パズルのような映画が好きだ。様々な要素が個々に存在していて、それぞれが作用し合ったり点のままで存在していたり、それが最後にどんな紋様を描き出すのか。2025年カンヌ国際映画祭のグランプリに輝いた本作がそうだ。ヨアキム・トリアー監督がノルウェーのオスロを舞台に再びレナーテ・レインスヴェを主演に撮った。
ノーラ(レナーテ・レインスヴェ)は舞台俳優として成功しているが、実は心に問題を抱えている。母シセルが亡くなり、幼い頃に家を出た父グスタフ(ステラン・スカルスガルド)が弔問に訪れる。映画監督のグスタフは新作の主演をノーラに持ちかけるがノーラはそれを突っぱねる。
母はセラピスト、父は映画監督、長女のノーラは舞台俳優、次女のアグネス(インガ・イブスドッテル・リッレオース)は家庭を持ち、歴史学の研究者でもある。各自のキャラクターを象徴するような職業が物語に深くコミットすると共に、そこに各々の苦悩が凝縮されている。
グスタフの演出風景にはトリアー監督が投影されているように見えた。グスタフは当初Netflixで企画を進めようとするが、15年というブランクもあって苦戦を強いられる。そんななかでもグスタフの言葉や行動には映画制作に対する矜持が感じられる。
また、舞台劇と映画の魅力を融合させた映像表現が面白い。前半は暗転が多用され、映画制作が動き出す後半は軽快な音楽でカットインするシーンが入る。ほかにも心象風景を演劇と巧みに組み合わせたシーンが心に残る。『わたしは最悪。』でも印象深いシーンがあったが、トリアー監督はタバコの使い方がうまい。激しく言い争った後、屋外でタバコを吸うグスタフとノーラをなんとも言えない空気が包む。とくべつ言葉をかわす訳ではなく、親密さでもないが、気まずさだけでもない微妙な距離感を煙が少し埋めてくれる気がして、好きなシーンのひとつだ。
両親の離婚によって親子の関係に亀裂が入る。いっぽう映画製作も順風満帆とはいかない。それぞれが抱える古傷やトラウマが日常にも深刻な影を落とす。しかし、迷いながら、間違いながら、それでも一歩づつ歩んでゆく過程が映画の製作プロセスを通して丁寧に描かれる。セリフも重要なファクターだが、本作では言葉より目の動きや視線の移ろいがより多くを物語る。とくに次女アグネス(インガ・イブスドッテル・リッレオース)の息子・エリックの誕生パーティの父娘三人の心理戦は息が詰まるほどだ。一つひとつのシーンが濃密すぎて、初めはあまり気に留めなかったアグネスの存在が後半にかけて深みを増してゆく。とくに終盤、ノーラにかける言葉が胸に響く。本作で二人はアカデミー賞主演女優賞と助演女優賞にそれぞれノミネートされた。
また、主要キャストのなかで唯一、家族の物語の外部の存在(劇中劇の出演者レイチェル)を演じたエル・ファニングの切実な表現が胸を打つ。娯楽大作から心理描写の難しいヒューマンドラマまで幅広くこなす彼女とレイチェルの役どころが重なる。
ラストカットは意外に素朴だが、家と民族や歴史を物語のなかに取り込みながら、周囲の人間を慈しむ気持ちが作品全体を包む。家族や家そのものの物語でありながら、映画や演劇作りを含めた複合的な物語になっている。スタンディングオベーションが歴代最長記録を塗り替えたという逸話にも、うなづけるシーンだ。各々が心に空洞を抱え、埋められない孤独があることを曖昧にせずまっすぐに描いているところが良い。そこからがスタートだ!と言われている気がした。
(山口 順子)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sentvalue_NOROSHI/
配給:ギャガ NOROSHI A GAGA LABEL
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