
| 原題 | Black Box Diaries |
|---|---|
| 制作年・国 | 2024年 イギリス・アメリカ・日本合作 |
| 上映時間 | 1時間44分 |
| 監督 | 監督:伊藤詩織 プロデューサー:エリック・ニアリ、ハナ・アクヴィリン、伊藤詩織 企画:河村光庸 編集:山崎エマ 撮影:ハナ・アクヴィリン、岡村裕太、伊藤詩織、大塚雄一郎 音楽:マーク・デグリ・アントニ |
| 公開日、上映劇場 | 2025年12月12日(金)~T・ジョイ PRINCE 品川、2026年1月9日(金)~T・ジョイ梅田、アップリンク京都、kino cinema神戸国際、1月23日(金)~kino cinema心斎橋、2月20日(金)~宝塚シネ・ピピア 他全国順次拡大上映中! |
自らの尊厳を取り戻し、正義を糾すための10年に渡る闘いの日々
ジャーナリストの伊藤詩織氏の監督作品『Black Box Diaris』(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)は、自身が被害者となったレイプ事件(2015.4.13)の真相と、告訴後の実情や民事訴訟で最高裁まで闘った顛末を、非情な現実と闘い、ジャーナリストとしての立場や被害者としての葛藤に苦悩しながら耐え抜いた10年の日々を捉えたドキュメンタリー映画である。
伊藤詩織氏に何が起きたのか、正義の盾であるはずの司法はどう動いたのか、日本のマスコミは何を問題視して何を伝え、何を伝えなかったのか――自らの尊厳を取り戻し、正義を糾すために闘ったひとりの若い女性の闘争記は、ジェンダーを超え、国境を超え、未だに理不尽な状況下にある人々へのエールとなるに違いない。
加害者は当時TBS・ワシントン支局長で安倍首相の伝記作家でもあった山口敬之。(2016年6月9日には『総理』を刊行)総理大臣という太いパイプを持つ加害者。告訴するも証拠不十分を指摘され、証言や映像を提出するなどして何度も訴え続けて逮捕状が出されたが、直前で逮捕は見送られた。その後嫌疑不十分で「不起処分」が相当とされた(2016)。
そこで、伊藤氏は司法が動かなければマスコミに訴えようと日本外国特派員協会で記者会見を開催(2017.5)。アメリカで「#Me Too」運動が始まる半年前のことである。衝撃的な事件内容に注目を集めるも、マスコミによる検証どころか、敢えて顔出し実名で会見した伊藤氏に対し誹謗中傷が巻き起こることとなる。(2019年公開の劇映画『新聞記者』でも取り上げられている。)その後、検察審査会でも「不起訴相当」とされた(2017)。
伊藤氏は、ネイティブ英語を話しアメリカナイズされた言動で美しく魅力的であるが故に、服装ひとつで誤解されやすいところがあるようだ。だが、終始一貫した主張は揺るぐことなく信頼性は高い。映画では、記者会見を前にした伊藤氏の不利な立場や、誹謗中傷やあらゆるプレッシャーに耐える姿、そしてジャーナリストとしての葛藤にさいなまれる姿を至近距離でとらえた映像で肉薄する。
450時間にも及ぶ映像を編集する段階で、盛り込みたくなかったシーンが2つあったという。1つ目は自死を試みてしまったシーンで、家族に宛てたビデオレター。「特に母には見せたくなかった」と述懐する。いくらジャーナリストとして強い使命感で動いていても、プツンと張り詰めた神経が切れたのだろうか。長年に渡るプレッシャーや不安な日々によく耐えていたと思う。本当に彼女の強靭な信念に敬服するばかりだ。
2つ目は捜査官A氏との電話でのやり取り。最初に事件を受け付けた捜査官で、紋切り型の対応で最悪な印象だったようだが、次第に理解を示し逮捕へと働いてくれた人物である。だが、逮捕直前に当時警視庁刑事部長だった中村格氏によって逮捕は取り消されたという。その後A氏は異動となり担当から外された。「私にとってはヒーローみたいな人」、高い壁を前に唯一味方になってくれた存在だったのだろう。
映画の冒頭、事件当夜二人を乗せたタクシー運転手の証言こそ真相を伝えていると思った。伊藤氏が意識不明の状態にありながらも必死で「最寄り駅で降ろしてほしい」と訴え、最寄り駅に着くと、加害者の男がホテルへ行くよう指示。男はホテルに着いても降りようとしない伊藤氏を無理やり降ろし抱きかかえて連れて行ったという。さらに、映画の後半、ホテルのドアマンが彼女のために証言するという勇気ある行動を見せる。刑事事件としては加害者を罰することはできなかったが、民事訴訟では最高裁まで闘って勝利を勝ち取ることとなる。
それでも、世間の目は厳しい。伊藤詩織という一人の勇気あるジャーナリストに対し、非情にもネガティブな言葉を投げ付ける輩は絶えない。一方的な被害者の主張だけでなく、加害者側の関係者や逮捕を阻止した刑事部長などにも取材を試みたり、精神的に追い詰められる様子を赤裸々に見せたり、できるだけ客観的に伝えようとしている。
同じような被害を受けても声を上げられない人々や、権力側がいかに犯罪を隠蔽し得るのか興味を持つ人々、自分の娘にも起こり得る事かもしれないと危惧する人々、伊藤詩織氏へ違和感を感じている人も含めて、問題意識を持つ人ほど興味深い作品だと思う。「権力を笠に着て理不尽な行為をする者に対し傍観するのではなく、“Active Bystander”(行動する傍観者)として厳しい目を持って立ち向かってほしい」と伊藤氏は訴える。
(河田 真喜子)
公式サイト:https://bbd-movie.jp/
配給:スターサンズ、東映エージエンシー 協力:日活
©Star Sands , Cineric Creative , Hanashi Films


