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『モディリアーニ!』

 
       

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作品データ
原題 Modi:Three Days on the Wing of Madness
制作年・国 2024年 イギリス・ハンガリー/英語・フランス語・イタリア語 
上映時間 1時間48分
原作 戯曲「モディリアーニ(デニス・マッキンタイア)
監督 監督:ジョニー・デップ  脚本:ジャージー・クロモウロウスキ、マリー・オルソン・クロモロウスキ 撮影:ダリウス・ウォルスキー&ニコラ・ペコリーニ
出演 リッカルド・スカマルチョ、アントニア・デスプラ、ブリュノ・グエリ、ライアン・マクパーランド、スティーヴン・グレアム、ルイーザ・ラニエリ、アル・パチーノ
公開日、上映劇場 2026年1月16日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、ユナイテッド岸和田、京都シネマ、kino cinéma神戸国際 ほか全国公開

 

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~苦悶するパンクな芸術家のハードな3日間~

 

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こんなパンクなモディリアーニを見たことがない! いやぁ、ジョニー・デップ、よくぞメガホンを取ってくれました。このハリウッド・スターが監督を務めたのは、マーロン・ブロンドと共演し、本人の出自にもなっているネイティブ・アメリカンを題材にした『ブレイブ』(1997年)以来です。


ピカソ、シャガール、藤田嗣治、パスキン……。20世紀初頭、パリで自由奔放なボヘミアン画家たちを「エコール・ド・パリ」(パリ派)と呼ばれていますが、彼らの中でぼくが一番、気に入っているのがユダヤ系イタリア人のアメデオ・モディリアーニ(1884~1920年)です。極端にディフォルメさせた肖像画にすっかり魅了されていますので。


自由で放蕩的な生き方と結核が元で弱冠35歳で天命を全うしたことで、この画家は小説、演劇、映画でしばしば取り上げられています。映画なら、ズバリ、往年の二枚目俳優ジェラール・フィリップが好演したフランス映画の名作『モンパルナスの灯』(1958年)を思い浮かべますが、今や年配者しかピンとこないでしょうね。他にアンディ・ガルシア主演の『モディリアーニ 真実の愛』(2004年)という映画もありました。


modi-500-1.JPGはて、ジョニー・デップはどんな切り口で、どんな演出をしているのか……、否が応でも期待値が上がる中、オンライン試写で観ると、何とセリフが英語(一部、フランス語とイタリア語)ですがな。ガーン! アメリカ人監督で、イギリス=ハンガリー合作映画とはいえ、パリを舞台にしているのだから、全編、フランス語で通してほしかった! 現地語主義者のぼくには論外の作品……。


だから、一気にシラけてしまったのですが、そのうち英語で喋っていることなど忘れ、どんどんのめり込んでしまった。それほどまでに芸術家としてのモディリアーニ像をしっかり描いていたからです。劇中、登場人物が「ファック・ユー!」と叫んでいたのに……。


modi-500-7.jpg舞台は第一次世界大戦の最中、1916年のパリ・モンパルナス。モディリアーニは10年前にイタリアの片田舎町から芸術の都へやって来て、高級住宅地のモンマルトルで暮らしていましたが、3年後、多くの芸術家がいる庶民の街モンパルナスへ転居しています。本作はこの街になじんだモディリアーニの3日間の物語です。御年、32歳。結核を患いながらも、彫刻と絵画の制作に没頭するも、なかなか世間から認められず、貧困に喘いでいました。


冒頭シーンが何とも鮮烈! 生活費を稼ぐため高級レストランで客の似顔絵を描いているモディリアーニ(リッカルド・スカマルチョ)が金持ちの男客とのもめ事を機に、いきなり店内で乱闘となり、アクション映画さながらアクロバティックな動きを見せるのです。活劇そのもの! モディリアーニと言えば、内省的で陰鬱なイメージがあるだけに、この想定外の展開とトンだキャラに一気に引きずり込まれました。


modi-500-3.JPG当時、画家仲間のモーリス・ユトリロ、ロシア(ベラルーシ)生まれのシャイム・スーティン、藤田嗣治(1886~1968)と仲良くしていたそうですが、映画では、なぜか藤田が外され、ユトリロとスーティンしか出てきません。それとイギリス人の作家・詩人・文芸評論家と多才なベアトリス・ヘイスティングス女史が恋人として重要な役どころになっています。


ユトリロは饒舌なアルコール依存症、スーティンは腐った牛肉など特異なモノに興味を抱くフェチ、モノ書き業を卑下するベアトリアスはモディリアーニにとってはミューズ(女神)のような存在。3人3様、非常に個性的で、インパクトが強い! みなモディリアーニを「モディ」と呼び、強い絆を保っています。


modi-500-4.JPG芸術家をやめて故郷の村へ帰ろうと思い始めるモディリアーニはその苦悶をアルコールに求め、彼らと浴びるほど飲みまくります。完全に「負のスパイラル」。やがて死神が寄り添い、錯乱の世界へ……。この心理描写は巧かった。


時折、チャップリンやキートンの時代のモノクロ無声映画が挿入される辺り、デップの「遊び心」が表れていると思いました。彼が敬愛するジム・ジャームッシュ監督の影響を受けているのでしょうかね。たまに映し出される幼き日々のノスタルジックな映像も効果的でした。


modi-500-2.JPGクライマックスは、モディリアーニが大富豪のアメリカ人画商+コレクターのモーリス・ガニャ(アル・パチーノ)に自作の絵画を売り込みに行き、対峙する場面です。プライドが人一倍高く、値踏みを嫌がる高慢ちきな画家に対し、ガニャは本音をぶつけます。「絵に命がない」「憂鬱な絵だ」「君は画家じゃなく、彫刻家だ」。ゲッ、容赦ありませんな。


表現者としてここまで言われると辛い。さぁ、心がボロボロになった主人公はどうするのでしょうか。ここからエンディングに至るプロセスが本作のテーマになっていました。「創作するか、死ぬか」……。自身が手がけたベアトリスの肖像の使い方がお見事! 


modi-500-5.JPG主演のイタリア人俳優、リッカルド・スカマルチョは日本ではあまり知られていませんが、ええ味を出してはりました。風貌がどことなくモディリアーニとよく似ていて。何よりも眼力がありました。そしてアル・パチーノ、さすがですね。座っているだけで言い知れぬほどの存在感をかもし出していました。


プレスシートによると、本作は、モディリアーニを描いた舞台『モディ』の映画化で、その主演を務めたパチーノからデップが監督を勧められ、3日間のドラマにするようにとアドバイスも受けたそうです。実際、かなり濃密な人間ドラマに仕上がっていました。


modi-500-6.JPG前述した映画『モンパルナスの灯』と『モディリアーニ 真実の愛』は、ともに最晩年に愛した妻ジャンヌとの絡みを描いています。本作もてっきりそう思いきや、いい意味で裏切られました。挫折したモディリアーニの再生。その瞬間を切り取っており、すごく新鮮でした。


デカダン(退廃的)な雰囲気の中、ポップ感覚で芸術家の内面に深く切り込んだ野心作、それがジョニー・デップ版のモディリアーニ映画でした。なかなか、やりはりますなぁ。それにしても芸術家って、ホンマにしんどい仕事ですね。


武部好伸(作家・エッセイスト)

公式サイト:https://longride.jp/lineup/modi/

配給:ロングライド、ノッカ

©︎Modi Productions Limited 2024

 

 

 

 

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