
| 原題 | THE OUTRUN |
|---|---|
| 制作年・国 | 2024年 イギリス・ドイツ |
| 上映時間 | 1時間58分 |
| 原作 | THE OUTRUN(エイミー・リプトロット著) |
| 監督 | 監督:ノラ・フィングシャイト 脚本:ノラ・フィングシャイト、エイミー・リプトロット 脚色:エイミー・リプトロット、ノラ・フィングシャイト、デイジー・ルイス 撮影:ユヌス・ロイ・イメール |
| 出演 | シアーシャ・ローナン、パーパ・エッシードゥ、ナビル・エルーアハビ、イーズカ・ホイル、ローレン・ライル、サスキア・リーヴス、スティーヴン・ディレ |
| 公開日、上映劇場 | 2026年1月9日(金)~新宿ピカデリー、イオンシアタス心斎橋、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、kino cinema 神戸国際、MOVIX京都、1月10日(土)~第七藝術劇場、ほか全国順次公開 |
〜「依存」の反転と、自然の治癒力を浴びる鑑賞体験〜
『システム・クラッシャー』のノラ・フィングシャイト監督が今回手がけたのはイギリスでベストセラーとなったエイミー・リプトロットによるノンフクション「THE OUTRUN」。主人公のロナを演じるのは『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のシアーシャ・ローナンだ。
ロナはロンドンで生物学の研究室に在籍していたが、アルコール依存により職も恋人も失い故郷のスコットランド北部・オークニー諸島へ戻る。別居する父の羊牧場を手伝いながら母の家で過ごす毎日。そのなかで幼少期の養育環境が徐々に明らかになってゆく。ロナの見る白昼夢が時空にねじれをもたらすが、髪色が時系列を追う手がかりになる。前作でも幻想の世界へ誘う仕掛けがあったが、今作でもやはり際立つ映像表現が見られる。
これはロマンに満ちた冒険譚だ。おくびょう鳥とは鳴き声もなかなか聴くことができない、ウズラクイナのこと。原題の「OUTRUN」は現地では”農場を囲む放牧地” という意味で使われるそうだが、本来の単語の意味―“より速く走る”―には禁断症状や過去のトラウマを振り切ろうとするロナが重なる。そのイメージをフィングシャイト監督は詩的かつ哲学的な映像表現へ昇華させた。痛みや傷を扱った物語であることは間違いないが、それより回復に向かう道筋が、フィングシャイト監督の明確なビジョンと制作に携わったシアーシャの圧倒的な存在感によって具現化された。島の人々の撮影協力も欠かせない柱となっている。
また、ロナのモノローグが特別な意味を発揮する。おとぎ話の人魚姫に似たアザラシの伝承に始まり、あるときは数値を交えた論文調の語りであり、またあるときは都市と島をイマジネーションで繋ぐ。その意味を必死に追いかけながら観ていると情緒が追いつかないが、それこそがロナにとっての”OUTRUN”なのだとわかる。
そのなかで語られることのひとつにこんな話がある。人間とアザラシの遺伝子は79%まで同じ組成だというのだ。クラゲなら60%、植物でも50%というから驚きだ。だとすれば人工的な環境に疲れた人間が、自然の中で息を吹き返すのは当たり前のことなのかもしれない。しかし忘れてならないのはロナの知的好奇心である。それは専攻の生物学のみならず自然科学や宇宙にまで発展してゆく。実際の依存症経験者も出演するなかで様々な依存を描く本作が、並行して提示するのが「知への依存」だ。それが物語にべつの視点を与えてくれる。「依存」という響きに怖れを感じてしまうが、「自立とは依存先を増やすこと」とする考え方もよく聞かれるようになった。つまり一極集中が問題だということだ。
ロナがある日、寒空の下ひとり海に入って行くと、ある現象が起こる。このシーンではもはやシアーシャなのかロナなのか、とにかく彼女はまるで大自然の指揮者のようだ。自然そのものと呼吸を合わせることでエネルギーが満ちてゆくよう。上空から捉えた壮大な遺跡、岩礁に当たって立つ白波、空と海の境界が地平線の彼方で溶け合う情景、岩盤が抉られてできた入江。嵐になると小屋ごと吹き飛ばされそうだが、むしろ楽しそうにみつめるロナ。観測所はさながら秘密基地のようだ。こんな圧倒的な景色のなかに身を置けば細胞が入れ替わるのではないかとすら思える。ストーリー展開は決して滑らかではなく、疾走と急停止によって、つんのめる感じもあるが、きっと頭と心と体を刺激される鑑賞体験になるはず。
(山口 順子)
公式サイト: www.outrun2026.com
公式X: @okubyoudori01
配給:東映ビデオ
© 2024 The Outrun Film Ltd., WeydemannBros. Film GmbH, British Broadcasting Corporation and StudioCanal Film GmbH. All Rights Reserved.


