
| 原題 | THE PENGUIN LESSONS |
|---|---|
| 制作年・国 | 2024年 スペイン、イギリス/英語、スペイン語 |
| 上映時間 | 1時間52分 |
| 原作 | トム・ミシェル「人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日」 |
| 監督 | 監督:ピーター・カッタネオ 脚本:ジェフ・ポープ |
| 出演 | 出演:スティーヴ・クーガン、ヴィヴィアン・エル・ジャバー、ビョルン・グスタフソン、アルフォンシーナ・カロッチオ、デイヴィッド・エレロ、ジョナサン・プライス |
| 公開日、上映劇場 | 2025年12月5日(金)~新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、 kino cinéma神戸国際 ほか全国公開 |
〜軍事政権下で、ひそやかに守られた命の実話〜
ペンギンと言えば、suicaのキャラクターでお馴染み、アニメ映画でも度々登場する人気者。だけど、なかなか身近に触れ合う機会はないはず。それが、学校にいたとしたら・・・!?そもそもペンギンって人間に懐くものなのだろうか?ペンギンに情緒はあるのか?その答えをぜひこの作品で確かめてほしい。
舞台は1976年、アルゼンチン・ブエノスアイレスの富裕層が通うセントジョージ校。英語教師として赴任してきたトム(スティーブ・クーガン)の受け持ちは中学部、下位クラスだ。校門には銃を持った警備員の姿があり、校長からは「学校に政治を持ち込むな」と釘を刺されている。こども同士であっても”ファシスト” ”社会主義”といった言葉が口にのぼり、そこには大人社会の縮図があった。その背景には政情不安がある。ときは軍事政権下、反抗する者は連行される時代だった。
そんな荒んだ教室に新風を吹き込むのがトムであり、ペンギンのフアン・サルバドールだ。サルバドールとはスペイン語(ポルトガル語)で救世主という意味。トムが旅行で訪れたウルグアイの海岸で、重油まみれになったフアンを保護し連れ帰ったのだ。清掃員のソフィア(アルフォンシーナ・カロッチオ)らに協力してもらいながら隠れて世話をしていたが、そのうち学校のアイドル的存在になってゆく。
しかし、彼らが守った命がある一方で、市井の人々の安全が脅かされている日常があった。街では「Digadondestán!」(彼らはどこへ行ったの?)という声がこだまする。それは家族や大切な人を奪われた人々の悲痛な叫びだ。逮捕や弾圧によって1976年から1983年にかけて多くの人が行方不明となっているのだ。
そんな歴史の片隅でこの奇跡のような物語は生まれた。詩や文学が好きなトムは比喩表現を好む。トムは言う「時にはペンギンをプールに入れろ」と。言葉だけではピンとこないが、本編を観れば伝わるものがある。実際にフアンが水の中で手足を伸ばす姿をみると、何とも言えない思いが込み上げる。
とにかく、フアンは愛らしい。浜辺に打ち上げられ、重油にまみれて真っ黒なシルエットが微かに動くのを見たときから、命そのものなのだ。ホテルのバスルームで黒い汁がシャワーで流れてゆくとき、海に離そうとするトムの元に何度となく戻ってくる姿、小首を傾げて歩く姿。誰もが一度見たら忘れられないだろう。体調は60cmだから、人間の赤ちゃんなら生後3ヶ月ぐらい。可愛いって最大の武器だ。思わず笑顔になってしまう。
「ペンギン・レッスン」というタイトルはペンギンが教室にいること、教室の生徒たちを成長させることを指していると思っていたが、最後まで観ると、もっと深い意味があることに気付かされる。この映画は心の柔らかい場所へそっと陽の光を当ててくれる。人間の弱さにもスポットを当てながら、ただ「いい話」にまとめるのでなく深い余韻を与える。こどもたちには「かわいい」から入ってもらえたら十分だと思う。大人になって改めて観てみると、より豊かな鑑賞体験が得られるのではないだろうか。そんな成長の種を残してくれる作品。
(山口 順子)
公式サイト: https://longride.jp/lineup/penguin/
配給:ロングライド
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