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『兄を持ち運べるサイズに』

 
       

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作品データ
制作年・国 2025年 日本 
上映時間 2時間7分
原作 村井理子「兄の終い」(CEメディアハウス刊)
監督 脚本・監督:中野量太  撮影:岩永 洋  音楽:世武裕子
出演 柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大、斉藤陽一郎、岩瀬亮、不破万作、吹越満 他
公開日、上映劇場 2025年11月28日(金)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸、OSシネマズ神戸ハーバーランド、OSシネマズミント神戸ほか全国ロードショー

 

~ハチャメチャなひとりの男の死が、家族に与えてくれたものとは?~

 

オダギリジョーがまさにはまり役で、随所で笑ってしまった。この映画の主人公像がぴったりだなんて有能で繊細な感性を持つオダギリジョーさんには失礼かもしれないが、こういう役を演じている彼はなんだか楽しそうで、そして実にリアルだ。けた外れに非常識なアウトローを、惚れ惚れするぐらい軽やかに体現してしまう。

 
anisaizu-500-4.jpg作家の理子(柴咲コウ)のもとに警察から驚きの知らせが入る。長年疎遠になっていた兄が急死したという。遺体を引き取りに来てほしいとのことで、現地へ向かう理子だったが、生活能力に欠け、借金ばかり頼んできたどうしようもない兄との思い出が幾つもよぎっていく。警察署で兄の元嫁・加奈子(満島ひかり)と娘の満里奈(青山姫乃)、息子の良一(味元耀大)と久しぶりに出会い、兄を荼毘に付した後、住居だったアパートをみんなで片づけることになる。やがて、加奈子の口から思いもかけない言葉が理子に向けられて…。


anisaizu-500-2.jpg原作は、村井理子の「兄の終い」。本作を観ながら、家族ってほんまに不思議やなあと思った。喧嘩したり、くっついたり、離れたり…。それでも何か目に見えない接着剤があるかのように(まあ、なかには事情できっぱりと絶縁してしまった家族もいるだろうが)。共有の思い出というのがミソなのだ。あの頃、あんなことした、こんなことを一緒にやった、その時、お父さんやお母さんはこうだった、祖父母はああだった…というのが心の奥底に眠っていて、何かあればそういうものが目を覚ます。


この映画でも、理子と兄の関係性は救いがたいほど破綻していたが、兄の死が思い出とともにひとすじの光を差し向ける。兄にとっても理子にとっても遅すぎたけれど、兄の死の以前と以後とでは、理子の人生の色はかなり変わったはずだ。それを思うと、これは切なさを携えながら明るさを求めた作品なのだなと思う。


anisaizu-500-5.jpg柴咲コウと満島ひかりというなんともイイ感じの競演に目を引き寄せられる。特に満島ひかり演じた加奈子という女性の芯の優しさが染みた。また、人がそれぞれ持っているキャラクターの多面性というものにも思いを馳せた。けして均一ではない。時と場所と相手によって変わり得るキャラクターというものがあり、だから理子のように兄を思い、加奈子のように兄を思えるのかもしれない。


anisaizu-500-6.jpg兄(なぜだか映画では兄の名前が出てこなかったような)の亡霊か、あるいは理子の頭の中の兄が動き回ったりしゃべったりするのがたまらなくおかしかった。『兄を持ち運べるサイズに』というタイトルもコミカルな、これはかなり共感されやすい家族映画だと思う、


(宮田 彩未)

公式サイト:https://www.culture-pub.jp/ani-movie/

配給:カルチュア・パブリッシャーズ

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

 

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