
| 制作年・国 | 2025年 日本 |
|---|---|
| 上映時間 | 2時間15分 |
| 原作 | 「奇跡のバックホーム」横田慎太郎(幻冬舎文庫) 「栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号 24」中井由梨子(幻冬舎文庫) |
| 監督 | 企画・監督・プロデュース:秋山純 主題歌:「栄光の架け橋」ゆず(SENHA) |
| 出演 | 松谷鷹也、鈴木京香、前田拳太郎、伊原六花、山崎紘菜、草川拓弥、平泉成、田中健、佐藤浩市、大森南朋、柄本明 / 高橋克典 |
| 公開日、上映劇場 | 2025年11 月 28 日(金)~TOHOシネマズ梅田、大阪ステ―ションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、あべのアポロシネマ、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ二条、OSシネマズ神戸ハーバーランド ほか全国公開 |

~28年を生き抜いたトラ戦士、横田慎太郎への賛歌~
今年のプロ野球日本シリーズは、パ・リーグの覇者ソフトバンク・ホークスがセ・リーグを制した阪神タイガースを破り、日本一に輝きました。ぼくは筋金入りのトラキチなので、2年ぶりの日本一を期待していたので、ガックリきましたが、客観的に見て、ホークスの方が一枚上手。まぁ、しゃない。サバサバしています(笑)。
それにしても、藤川阪神、強かった! 9月7日、ぼくはリーグ優勝を甲子園で体験し、感動しまくりました。日本一は無理でしたが、2年前に早逝したトラ戦士の横田慎太郎もきっと天国で喜んでいることでしょう。その横田の短くも熱く生き抜いた姿を描いたのが本作です。このレビューは非常に想いのこもった文章になりそうで、これまでとはテイストが異なりますが、どうかお許しあれ。
横田は、ロッテ・オリオンズの外野手だった父親(横田真之)の影響で、小学生のころから野球を始め、鹿児島実業高校では不動の4番打者でエース。2013年のドラフトで、阪神から2位で選ばれ、念願のプロ野球入りを果たしました。身長187センチ、体重94キロ、と身体能力に優れた大型新人。
岩崎優(同)、岩貞祐太(投手)、陽川尚将(内野)、梅野隆太郎(捕手)らの同期と並んで臨んだ入団記者会見での、初々しい表情が忘れられません。この年に引退した桧山進次郎の栄えある背番号「24」を引き継ぎましたね。
2016年のシーズンから「超変革」のスローガンを掲げて指揮を執った金本知憲監督の目に留まり、開幕戦で一軍デビュー。走れるスラッガー(強打者)として大いに期待されるも、翌年、21歳のとき、脳腫瘍が見つかり、治療を終えてから育成選手として奮闘しましたが、2019年に引退。そして、2023年7月18日、黄泉の客人となりました。享年、28歳。〈オーラ〉のある逸材で、ぼくの推しの選手だったので、ホンマに残念無念でした。
本作は、そんな横田の野球選手としての生き様に焦点を絞った映画とばかり思っていましたが、快く裏切られ、家族のドラマ、とりわけ母子の物語でした。原作は、横田本人が自らの歩みを執筆した『奇跡のバックホーム』(2021年)と、脚本を担当した中井由梨子のノンフィクション『栄光のバックホーム』(2023年)。ともに幻冬舎刊ということもあり、同社の映画進出第1弾となりました。これを機に、幻冬舎の映画がどんどん出てきそうな予感が……。
横田に扮したのが新人俳優の松谷鷹也。父親が巨人と近鉄に所属したプロ野球選手の松谷竜ニ郎ですが、全然、知りませんわ(笑)。すんません! 本人は高校球児で、この映画の企画時から横田と親交を深め、愛用のグローブまで譲り受けたらしいですね。そんな経緯から主役に抜擢され、横田本人になりきろうと、何と社会人野球の福山ローズファイターズの練習生になったというのだからすごい!
少し堅さが感じられたけれど、まるで本人の魂が乗り移ったかのように演じ切り、在りし日の姿を甦らせていました。横田はホンマに野球が好きで好きでしゃあなかったんですね。脳腫瘍とわかったときの絶望感から立ち直るも、視力障害が出て、モノが二重、三重に見えるという野球選手として致命的な後遺症に苦しむ……。もう、最悪ですわ。
2019年9月26日、西宮市の鳴尾浜球場で行われた二軍での引退試合。そこで起きた奇跡が映画のタイトルになっており、阪神ファン、いや野球ファンの間で語り草になっています。ぼくは動画で何度も何度も観て、興奮しました。はて、映画ではどのように演出したのか、全神経を集中させて見入りましたが、そのシーンを目にした途端、涙があふれ出ました。まさに横田が生き返ったのです!
1年先輩の北條史也とはライバルであり、親友でもあったとは知らなかった。一番仲がよかったんですね。2人のごく自然なやり取りがドラマの潤滑油になっていたと思います。前田拳太郎が演じていましたが、ちょっとイケメンすぎたかな(笑)。大阪・堺出身の北條は現在、社会人野球の三菱重工Westで内野手として活躍していますね。
息子を支え続けたのが母親のまなみ。親子なので当たり前ですが、見返りのない無償の愛に圧倒されました。横田の病状がいかに悪化しようとも、絶対に治ると信じ、とことん寄り添うのです。ぼくには、北朝鮮に拉致された愛娘が絶対に生きて帰ってくると信じている横田早紀江さんの姿と重なりました。母親の独白による映画の冒頭とラストはホンマに胸に染み入るシーンでした。
その強い母親を鈴木京香が好演していました。この人が演じると、どうしてもお上品になりがちですが、本作では肝っ玉母さんぶりをそこはかとなく出していたと思います。父親の高橋克典と姉の山崎絋菜は、まぁ無難な感じかな。
トラキチにとって興味深かったのが阪神関係者のキャスト。金本監督役の加藤雅也はイメージとちゃいますがな。二軍監督の掛布雅之に扮した古田新太はお腹の出具合がぴったし(笑)。一軍コーチの平田勝男役の大森南朋は何となく雰囲気が出ていましたね。横田が引退後、YOUTUBEチャンネル「川藤部屋」で意気投合した川藤幸三に柄本明が演じていたのには驚いた。あまりにも風貌が異なっていたから。でも、声色がそっくりでしたわ。スカウトの田中秀太役の萩原聖人はカッコ良すぎたかな。
2年前の優勝時、抑えのエース、同期の岩崎がマウンドへ上がったとき、横田の登場曲、ゆずの『栄光の架橋』が流れました。映画の中でその場面が映るや、アカン、またまた感涙してしまった。そして観終わったとき、心の中で叫びました。「横田、ありがとう! 安心しぃや、阪神、めちゃめちゃ強うなったで!」
何だかスポーツ新聞への寄稿文みたいですね。ついでに……、来年、阪神が日本一になりますように!!
武部 好伸(作家・エッセイスト)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eikounobackhome/
配給:ギャガ
Ⓒ2025「栄光のバックホーム」


