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『ブルーボーイ事件』

 
       

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作品データ
制作年・国 2025年 日本 
上映時間 1時間46分
監督 監督:飯塚花笑  脚本:三浦毎生 加藤結子 飯塚花笑  撮影:芦澤明子 音楽:池永正二
出演 中川未悠、前原滉、中村中、イズミ・セクシー、真田怜臣、六川裕史、泰平、渋川清彦、山中崇、安井順平、錦戸亮他
公開日、上映劇場 2025年11月14日(金)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、kino cinema心斎橋、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、OSシネマズミント神戸ほか全国ロードショー

 

私たちはどれだけ知っているのか?

性的マイノリティをめぐる裁判にスポットを当てた問題作

 

正直に言うと、ブルーボーイとは何なのかも、それに関連した裁判が過去にあったというのも知らずにこれを観て、大きな衝撃を受けた。性社会・文化史研究者の三橋順子氏によると、ブルーボーイとは「1960年代のスラングで、身体を女性化した男性」を意味する。つまり、性別適合手術(昔は性転換手術と呼ばれた)を受けた男性のことであるが、1965年、3人の男性にその手術をした医師を、東京地方検察局が優生保護法違反(現在は母体保護法に改正)で摘発したのが「ブルーボーイ事件」である。

 
blueboy-500-2.jpgオリンピック景気や1970年開催の大阪万博などで日本が経済的にも文化的にも上昇気流の中にあった世相を背景に、トランスジェンダーたちへの差別偏見が露骨に示された時代のドラマが綴られていく。1965年の東京、“街の浄化”を進めたい警察は、繁華街で客引きをしているセックスワーカーを取り締まろうと躍起になっていた。だが、当時の売春防止法では、身体的には女性であっても戸籍上は男性であるブルーボーイたちは対象にならない。そこで、起訴の対象を医師に向け、その裁判の証人としてブルーボーイたちが登場してくるのである。

 
blueboy-500-1.jpg物語は、喫茶店で働きながら、恋人との幸せな結婚を夢見るサチ(中川未悠)を中心に展開する。サチは医師の赤城(山中崇)のもとで女性になるための手術をしたが、すべてが完了していないのに赤城がつかまってしまい困った状況にある。平穏な生活を望み、最初はそっとしておいてほしいと言うサチだが、世の中の差別偏見のために昔なじみが殺され、証人台に立つ決心をする。この裁判のシーンが映画の最大の見どころだ。検察の、嫌みや悪意のこもった酷い追及に怒りを覚え、そして最後のサチの言葉に涙があふれてくる。


blueboy-500-3.jpg今でこそ、多様性という言葉がよく聞かれるようになったが、昭和のこの時代に性的マイノリティの人たちがどんな目で見られたか。いや、現代でもSNSなどで彼らに対するたちの悪い発言を見つけることはできるだろう。それを考えると、胸の奥が鋭く突かれるようだ。


blueboy-500-6.jpgサチを演じた中川未悠は演技経験がないにもかかわらず、この場面で圧倒的なオーラを放つ。ちょっと黒木華にも似た雰囲気があるが、証人として語る彼女には、心からの“素”の叫びが乗り移ったかのよう。自身もトランスジェンダーとして生きる飯塚花笑監督は、この映画には当事者キャスティングが絶対に必要だと考え、オーディションによって多くのトランスジェンダー女性を配役の要に据えた。

 
日本の歴史の裏側に追いやられた裁判。改めて、「私たちはどれだけ知っているのか」と自らに問いかけるべきだと思う。


(宮田 彩未)

公式サイト:https://blueboy-movie.jp/

配給・宣伝:日活/KDDI

©2025 『ブルーボーイ事件』 製作委員会

 
 

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