制作年・国 | 2025年 日本 |
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上映時間 | 2時間5分 |
原作 | 浅倉秋成(『俺ではない炎上』双葉文庫) |
監督 | 山田篤宏(『AWAKE』『ハッピーエンド』) 脚本:林民夫 撮影:大内泰 |
出演 | 阿部寛、芦田愛菜、藤原大佑、長尾謙杜、三宅弘城、橋本淳、板倉俊之、浜野謙太、美保純、田島令子、夏川結衣他 |
公開日、上映劇場 | 2025年9月26日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、イオンシネマシアタス心斎橋、あべのアポロシネマ、MOVIX京都、T・ジョイ京都、TOHOシネマズ二条、109シネマズHAT神戸、OSシネマズ神戸ハーバーランド、kino cinema神戸国際ほか全国ロードショー |
「そこのあなた、SNSは怖くないですか?」と観た後に問いかけたくなる
Twitter(現在はX)をはじめ、Facebook、LINE、Instagramなど、SNSと呼ばれるインターネットサービスが次々と世に出てきて、老若男女を問わずスマホを持つ人のほとんどがこれらのどれかを日常的に使用していると思われる現代。個人をターゲットにした悪質な書き込みが拡散し、不幸な事件もいくつか起こった。そういう時代だからこそ製作され、多くの共感を呼びそうなのがこの映画だ。原作は、近年の活躍がめざましい若手作家・浅倉秋成の同名小説。
大手のハウスメーカーで部長を務める山縣泰介(阿部寛)は、仕事は順調、部下には慕われ、家庭も円満で、順風満帆の人生を送っていると思っていた、そのとんでもない事件が勃発するまでは…。なんとある日、彼は全く身に覚えがないのに殺人犯に仕立て上げられたのだ。捏造された彼のアカウントにより、女子大生の遺体画像が発信され、顔写真や個人情報が拡散。ネットは一気に“炎上”し、「俺は無実だ!」と叫ぶ山縣の声など無残に踏みにじられ、街を歩けば彼の顔を見て驚愕して逃げ出す人々も。訳が分からないまま、自分を守るため、彼は身を隠さねばならなくなる。
こんなことになったらそりゃえらいこっちゃ!と思うのだけれど、この逃走劇がどこか可笑しくてたまらないのは、これがはまり役ともいえる阿部寛の個性が全開だから。『テルマエ・ロマエ』(武内秀樹監督/2012年)でのおとぼけな演技でコメディに向いてるなと思ったし、『異動辞令は音楽隊!』(内田英治監督/2022年)などはまさに本作に似通った主人公像で、どっちかといえば偉そうにふるまっていた男がある日を境にアイデンティティが崩壊する危機に直面する姿をユーモアと哀切で体現する。綱一本で絶壁と格闘するシーンの撮影はなかなかハードだったと聞くが、これもつい笑ってしまう。つくづく悲劇は見方を変えれば喜劇的、と思わせるところだ。また、得体の知れない女子大生役で登場する芦田愛菜にも注目。物語の重要な役どころで、あっと言わせる結末までぐいっと引っ張ってくれる。
人間は自分のことを過大評価しがちなのだろうか、それともこうありたいと願っているから至らない部分に目をつむってしまうのか、などと考えてしまった。エンターテインメントの色は濃いけれど、SNSの功罪を問う映画であるとともに、人の生き方についてもけっこう深いところを突いてくる。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/oredehanai-enjo/
配給:松竹
©2025「俺ではない炎上」製作委員会 ©浅倉秋成/双葉社