映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『ワン・バトル・アフター・アナザー』

 
       

OBAA-main-550.jpg

       
作品データ
原題 One Battle After Another  
制作年・国 2025年 アメリカ
上映時間 2時間42分 PG12
監督 監督/脚本:ポール・トーマス・アンダーソン(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ファントム・スレッド』『マグノリア』)
出演 レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、ベニチオ・デル・トロ、レジーナ・ホール、テヤナ・テイラー、 チェイス・インフィニティ、ウッド・ハリス、アラナ・ヘイム
公開日、上映劇場 2025年10月3日(金)~全国ロードショー


banner_pagetop_takebe.jpg

 

~うねりながら愛娘の奪回を描く壮絶な〈追走活劇〉~

 

OBAA-Pos.jpg

レオナルド・ディカプリオとショーン・ペン――。ともに卓抜した演技力を誇るオスカー俳優(アカデミー賞主演男優賞受賞)の初顔合わせ。しかも監督が、世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア)で監督賞をゲットした名匠ポール・トーマス・アンダーソンというのだから、否が応でも期待値が高まりますね。ウキウキしながらWB(ワーナ・ブラザーズ)の試写会で観ると、やっぱり期待以上の作品でした!


主人公のボブ・ファーガソン(レオナルド・ディカプリオ)という男が反政府運動の活動家というのが面白い。映画の中では革命家となっていましたが、国家体制を転覆させたレーニンやカストロらと比べると、超小ツブで、どちらかと言えば爆破テロリスト? でも不法移民の解放を謳ってエスタブリッシュメント(権力)に敢然と立ち向かう姿は、紛れもなく〈反体制の闘士〉そのものでした。


とはいえ、優柔不断なキャラとあって、のちに結婚する、カリスマ的な女性活動家ペルフィディア(テヤナ・テイラー)の尻に敷かれっぱなし。彼女はとてつもなくエネルギッシュで、自由奔放。組織だけでなく、男を支配するのもお好きなようで。ところが特殊部隊に捉えられ、思いもよらぬ方向へと……(この部分は核となるので、言えません)。


OBAA-sub4.jpg冒頭、軍隊との激突シーンはかなり強烈でした。よくよく観ると、兵士はみな白人で、抗っているのは黒人やヒスパニック(スペイン語話者)らの非白人ばかり。不法移民に鉄槌を下すトランプ政権と重なり、何だかアメリカの分断を象徴しているように思ったのはぼくだけでしょうか。この「白人VS非白人」の構図が本作のベースとなり、後々まで引きずっていきます。


両者のバトルが延々と続くと思いきや、16年後が本筋になります。この切り替えが心地よい。ボブは、行方不明の妻とは会えないままですが、高校生になった娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)と2人で暮らしています。これといって定職にも就かず、酒とドラッグに溺れ、何ともだらしない中年男になりさがっていますが、はて、今でも活動家なのかな? と思っていたら、いきなり物語が動き始めます。


OBAA-sub1.jpgずっと内偵捜査を進めてきた軍の特殊部隊がボブとウィラの居所を突き止め、逮捕しようと接近してきたのです。そのリーダーがロックジョー大佐(ショーン・ペーン)。この男、かつてボブの妻と何やら「いわく付き」で、別の目的もあってウィラと接触したがっています。トカゲみたいに爬虫類っぽく、執着心が強く、残忍丸出し。ゆめゆめ近づきたくない男ですわ。


さぁ、ここから一気に物語がヒートアップし、息をもつかせぬ展開が繰り広げられ、あれよあれよと言う間に砂漠地帯にある胡散臭い(?)修道院の場面に落ち着きます。そこに至るまでの流れがまさに疾風怒濤。ウィラが通っている空手道場のセルジオ先生(ベニチオ・デル・トロ)、彼女を救出する女性活動家(レジーナ・ホール)ら謎めいた人物が次々と登場するのですが、とりわけ、得体の知れない、それでいてユーモラスなヒスパニックのセルジオ先生が理屈抜きにオモロイ!


OBAA-sub2.jpgウィラを確保したロックジョー、逃亡を図ろうとするウィラ、その愛娘を保護しようとするボブ。終盤は三者の動きを交錯させながら、ドラマチックにエンディングへと突き進んでいきます。目を見張ったのは、波のようなうねりのあるハイウェイをロングとアップで捉えた映像。かくも道路を生き物みたいに描いてみせたのが凄い! ぼくには大蛇のように見えました。 


予期せぬストーリーと奇抜な映像……、そこに申し分のないキャスティングが重なります。今や50歳の中年になったディカプリオのやさぐれ感がたまりません。もう(人生が)終わったと思われた男が俄然、〈活動家魂〉を再燃させ、娘のために命を張る姿が不器用ながらもカッコいい! 焦りまくっている最中、どう足掻いても「暗号」を思い出せないシーンが最高におかしかった!


OBAA-sub5.jpg高齢者(65歳)に達したショーン・ペンの悪漢ぶりも堂に入っていました。結構、小柄な人なんですが、存在感の大きさが半端ではない。少々のことでは死なないし(笑)、クスッと笑わせるシーンも見せてくれます。これからもクセのあるヒール(悪役)を演じ続けてほしいです。今、ふと思いました。ディカプリオとペンのリアル共演場面はなかったのでは……と。


ワイルドなペルフィディアに扮したテヤナ・テイラーの吹っ飛んだ役どころも決まっていました。そして終盤になるにつれ、ヒロインとしての輝きが増してくるウィラ役のインフィニティのひたむきな演技も新鮮に映りました。空手道場のシーンでは、型をバッチリ決めていましたね。よほど身体能力が優れているのでしょう。


OBAA-sub6.jpgそれにしても、特殊部隊の背後にいる白人至上主義者(=人種差別主義者)の組織が非常に不気味でした。メンバーはWASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)丸出し。彼らの存在があるからこそ、単なるエンタメ映画ではなく、少し政治がかっているなと思わせ、深みを感じるのです。ぜひトランプ大統領に観てもらい、感想を聞きたいです。激怒しはるかな(笑)。


原題を直訳すれば、「闘いに次ぐ闘い」。そのタイトル通り、バトルだらけの追走劇をシャープな、かつ畳みかけるような演出によって極めて質の高い活劇に仕上げてくれました。全編、うねっていました! アンダーソン監督の作品は、ホンマ駄作なしですね。


OBAA-sub3.jpg『マグノリア』(1999年)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)といった秀作を手がけてきたのに、なぜかアカデミー賞の監督賞とは縁なし。本作でぜひ受賞してもらいたい。いや、同時に脚本賞も! とびきり有能なストーリー・テラーだからです。観終わってから、じわじわと面白味が感じられる映画に出会えてよかった、よかった。


武部 好伸(作家・エッセイスト)

■公式サイト:https://:obaa-movie.jp #映画ワンバトル

■配給:ワーナー・ブラザース映画

©2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

 

カテゴリ

月別 アーカイブ