制作年・国 | 2024年 日本 |
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上映時間 | 2時間7分 |
監督 | 神山征二郎 |
出演 | 中村橋之助、志田未来、渡辺大、染谷俊之、三浦貴大、酒井美紀、川崎麻世、林与一、緒方直人 他 |
公開日、上映劇場 | 2025年1月10日(金)~全国順次公開 ★現在は配信中 ★2025年9月27日(土)大阪市淀川区の第七藝術劇場にて作品上映ならびに神山征二郎監督、晋平の母を演じた土屋貴子、新田博邦プロデューサーによる舞台挨拶がおこなわれる。 ★ロケ地の一つでもある長野県須坂市のイオンシネマでは2025年10月3日(金)のグランドオープンに合わせて上映が予定されている。 |
~日本の音楽史に一時代を築いた作曲家とその名曲の数々を振り返る~
「てるてる坊主、てる坊主、明日天気にしておくれ」「母さんお肩をたたきましょう、たんトン、たんトン、たんトントン」日本に住む人なら誰もが、もの心つく頃から慣れ親しんできたメロディだろう。これらの楽曲を世に送り出した作曲家が中山晋平だ。
長野県中野村(現在の上田市)に生まれた晋平は、貧しいながらも東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽部)を目指し上京する。その寄宿先である劇作家・島村抱月(緒形直人)や恩師・幸田延子(酒井美紀)との出会いによって才能を開花させる。西欧の調べと日本古来からの響きを融合させた稀有なメロディは民衆に愛され、やがて流行歌というムーブメントをつくりだす。キャストも大物揃いだが、登場人物もまた偉人揃いだ。晋平役には映画初出演となる歌舞伎役者・中村橋之助が抜擢された。その後、登場する文壇の大物たち、西条八十を渡辺大、野口雨情を三浦貴大が演じる。
監督は『ハチ公物語』(1987)『北辰斜にさすところ』(2007)の神山征二郎監督。宮沢賢治など歴史上の人物を扱った経験も豊富で、虚飾を廃しドラマ性に偏りすぎないフラットで誠実な作風が特徴だ。本作でもドラマティックになりそうなエピソードはいくつもあるが、さらりとなぞるに留めることで日本の近代史を辿りつつ音楽の系譜が豊かに伝わってくる。たとえば「シャボン玉」の制作過程だ。野口雨情の想いがあのメロディに載るとき、新たな「シャボン玉」が聴く者の胸に萌すだろう。晋平とタッグを組んで次々とヒットを飛ばす佐藤千夜子を演じた真由子の歌唱は聞き応えたっぷり。また、終盤に使われる童謡「アメフリ」は心象風景と溶け合うみごとなアレンジで心を揺さぶる。
「カチューシャの唄」を皮切りに、”命短し恋せよ乙女” の歌い出しで有名な「ゴンドラの唄」から「東京音頭」まで名曲の数々が惜しみなく登場し70-80代の方々にとっては青春の思い出が蘇ることまちがいなしだ。そして、冒頭に紹介した通り、晋平は数多くの童謡や民謡を残している。唱歌とは、これほどまでに国民に愛され歌い継がれているのだと今さらながらに感嘆の思いがする。そして、当時の作詞家というのは元々詩人である。それが、現代の私たち、そして次世代の子どもたちに詩心を伝えている。制作途中、晋平と言い争いになる西条八十の言葉が胸に迫る。メロディと歌詞がうまくはまらないとして、晋平が詞を変えようとしたとき八十は言う。「作詞家にとって言葉は命です!」
現代にも詩人はいる。詩を書く人だけが詩人なのではなく、その精神性は先人たちの偉業の上に脈々と受け継がれているのではないか。と同時に晋平は徹底して大衆を意識する。芸術性と大衆性の融合こそが島村抱月と晋平が意気投合し目指したところだからだ。お囃子や合いの手のような、覚えやすく思わず口をついて出るもの。晋平の母が息子を訪ねて上京する際、見送りの万歳三唱のなかで誰彼となく晋平の曲を口ずさむシーンがそれを体現している。
また、本作は ”ヨナ抜き” 音階についてもふれている。ドレミの音階をヒフミヨイムナ(1~7)で表した時代があり、そのヨとナ、すなわちファとシを抜いたドレミソラの五音のみを使用する手法のことである。明治以降定着し、今もなお残る手法だ。晋平の作曲もこの方法に則っておこなわれている。このように本作は日本の音楽資料的価値もある。戦時色が濃くなるにつれ音楽界にもその影響は否応なく表れる。時勢に逆らえず満州へ従軍する者、流れる音楽が軍歌に取って代わることを嘆く者。平和が奪われ人々の生活や心情に影を落とす様は現世にも重なる。やがて古賀政男らに次世代のバトンは渡されてゆく。音楽が生まれ、西欧文化と交わり、やがて大衆に浸透してゆく、その化学反応を名曲の調べとともに心ゆくまで味わいたい。また、エンディングの「ゴンドラの唄」は今年7月に逝去した上條恒彦による歌唱。本作の物語世界とともにじっくり耳を傾けてほしい。
(山口 順子)
公式サイト:https://shinpei-movie.com/
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配給:シネメディア
©『シンペイ』製作委員会2024
尚、9月27日(土)大阪市淀川区の第七藝術劇場にて作品上映ならびに神山征二郎監督、晋平の母を演じた土屋貴子、新田博邦プロデューサーによる舞台挨拶がおこなわれます。また、ロケ地の一つでもある長野県須坂市のイオンシネマでは10月3日(金)のグランドオープンに合わせて上映が予定されています。