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『海辺へ行く道』

 
       

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作品データ
制作年・国 2025年 日本
上映時間 140分
原作 三好銀『海辺へ行く道 夏』『海辺へ行く道 冬』『海辺へ行く道 そしてまた、夏』(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督 ・脚本:横浜聡子
出演 原田琥之佑 麻生久美子 高良健吾 唐田えりか 剛力彩芽 菅原小春 蒼井 旬 中須翔真 山﨑七海 新津ちせ 中西優太朗 小野晴子 河原 楓河、諏訪敦彦 村上 淳 宮藤官九郎 坂井真紀ほか
公開日、上映劇場 2025年8月29日(金)よりテアトル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、アップリンク京都、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸、MOVIX尼崎他全国ロードショー
受賞歴 第75回ベルリン国際映画祭ジェネレーションKPlus部門特別表彰

 

~迷える人生にアートは必要だ!~
 

 アーティストの移住支援をうたう立て看板がある島。そこに漂う空気はとても穏やかで、どこか包容力がある。ゆるやかで、少し調子はずれなジャズに乗って表示されるキャストやスタッフのクレジットの文字が上下に微妙にズレて、なんともいえない抜け感がたまらないオープニングだ。さあ、これからどんな世界が広がってくるのかとワクワクする。三好銀の『海辺へ行く道』シリーズを、松山ケンイチ主演の『ウルトラミラクルラブストーリー』や、第16回大阪アジアン映画祭で観客賞とグランプリをW受賞した『いとみち』の横浜聡子が映画化した本作。入道雲と広々とした青い海に囲まれ、蝉の鳴き声が聞こえる島での夏物語は、ただ爽やかなだけではない多様な楽しみを与えてくれるのだ。

 

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 美術部の奏介(原田琥之佑)には、困ったときに頼りになる先輩のテルオ(蒼井旬)がいる。秘密基地のような工房で、Aと名乗る男からの依頼で人魚の模型づくりについてイメージを膨らませたり、テルオと一緒にアート制作をするのを楽しむ夏時間を縦軸に、ある目的で町を訪れる大人たちのエピソードが展開する。まずは、アーティスト用の物件を紹介する理沙子(剛力彩芽)の勧めで入居を決めた高岡(高良健吾)とヨーコ(唐田えりか)。町の女性たちを虜にする口上を見せる包丁売りの高岡から早速買い求めた奏介の母、寿美子(麻生久美子)が台所で包丁の切り心地を褒めるシーンで山のような千切りキャベツがチラリと写り、キャベツ畑がメインビジュアルの『ウルトラミラクルラブストーリー』を思い出してニヤリとしてしまう。高岡が金儲けをしている間、町を自転車で滑走するヨーコのサンバイザーのツバの長すぎること!家族のことでモヤっとしている立花が思わずデジカメのシャッターを連写したくなるぐらい、ヨーコの奔放さがキラキラ光る。

 

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 高岡とヨーコが早々に町を去った後も、ケンと名乗るアーティスト(村上淳)がやってきたり、奏介の叔母で実はアーティストの借金取り立てをしているメグ(菅原小春)がやってきたりと、奏介ら地元の少年少女たちは、本来の来訪目的を知らずとも、そのままの大人たちを受け入れていく。思春期の彼らが大人たちと先入観のない状態で交わる一方、穏やかな日常を守るために町の大人たちがとる行動を一歩引いて眺めてみると、何が正義なのかと改めて問いたくなる状況が見えてくることもある。

 

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 そんな大人たちを気にすることなく、そして競ったり、気負うことなく作りたいものを作り、創作を楽しむ奏介やテルオの純粋な姿は、未来への希望だ。何が起こってもしなやかに受け入れる奏介を演じるのは、『サバカン SABAKAN』で映画デビューを果たした原田琥之佑。主張しすぎない演技が、奏介というキャラクターらしくていい。映画監督の諏訪敦彦や宮藤官九郎をはじめ、存在感のある俳優たちが脇を固め、独特のユーモアやシュールさを交えながら横浜聡子監督が描いた夏の一コマには、あらゆるところにアートがあり、お金では測れない創作の喜びに溢れていた。


(江口 由美)

公式サイト⇒umibe-movie.jp

©2025映画『海辺へ行く道』製作委員会

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