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『メイソウ家族』

 
       

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作品データ
制作年・国 2025年 日本
上映時間 1時間50分
監督 ◎監督『YUI』・『UMI』:熊切 和嘉、『MONOS』:金田 敬  ◎脚本 『YUI』: 三田村 裕真(メイソウ家族) 、『MONOS』: 阪上 彰馬(モノス) 、『UMI』: 幸田 遼太朗(UMI)  ◎脚色『YUI』: 菊田 涼乃、『MONOS』: 村岡 楓太、『UMI』: 長瀬 南海  ◎撮影監督:佐々木原 保志 ◎音楽:池永 正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
出演 ◎出演 『YUI』:戸田 菜穂、永野 宗典、三浦 理奈、高村 佳偉人 、『MONOS』:三浦 理奈、秋庭 悠佑、『UMI』:西岡 奏、木村 了  ◎特別出演 :久保田 磨希、タージン、島田 珠代、真凛、 板東 さえか、 谷村 美月
公開日、上映劇場 2025年8月29日(金)~ヒューマントラスト渋谷、テアトル梅田、アップリンク京都、ほか全国順次公開!

 

〜メイソウする家族と1本のスプーン〜

 

本作は大阪芸術大学との産学協同で作られた作品。卒業生でもある二人の映画監督が制作に関わった。一人は『658km、陽子の旅』(2023)『ゼンブ・オブ・トーキョー』(2024)の熊切和嘉。もう一人は成人映画を多く手がけてきたほか『校庭に東風吹いて』(2016)『夏、至るころ』(2020監督補)など活動の幅を広げている金田敬。「YUI」「MONOS」「UMI」の三部構成のうち、「YUI」「UMI」を熊切監督が、「MONOS」を金田監督が担当したが、物語は少しづつ繋がっている。 

 
meisoukazoku-YUI-500-1.jpg由依(三浦理奈)は4人家族の長女、父親(永野宗典)は家庭を顧みないが仕事も程々。母親(戸田菜穂)は家事もきちんとこなし家族の世話を甲斐甲斐しく焼く良妻賢母。優等生の弟・優輝(高村佳偉人)にばかり目をかける母親に対し、由依は寂しさを募らせている。そんな、ある意味平凡な家庭に事件が起こる。ある日、優輝が学校からペンキをかぶって帰って来るなり部屋に閉じこもって出てこなくなるのだ。焦った母親は迷走し始め・・・。

 
meisoukazoku-YUI-550.jpgこの第一部は正直、ありそうな内容なのだが、個性的な役者陣によって飽きることなく観せる。戸田菜穂の安定感と永野宗典のテキトーさは秀逸だ。母親の、家族のために一生懸命なのに近視眼的で実は子どものことがよく見えていない感じとか。父親の、真面目とは言えないけれど、それなりに社会の規範から大きくはみ出すことはせず、家庭のゴタゴタにもなるべく関わりたくはないけど無視もできない感じ。この二人から滲み出る雰囲気が一見平凡な展開に推進力を持たせている。この第一部は両監督がこぞって手を挙げたほど脚本として初めからまとまっていたようだ。


meisoukazoku-YUI-500-2.jpgしかし、その後の第二部からの展開が、え?そうくる?となって、さらに第三部はまた意外な味付けになっていく。登場人物は重なっているのに、ドラマのジャンルが次々変わっていくのだ。

 
meisoukazoku-monos-550.jpgとくに第二部「MONOS」は予備知識がなかったことで不思議さが増したが、知らなくても観ているうちに飲み込めるので安心して欲しい。むしろ、そんな???も含めて楽しみたい。コメディ要素の多いこのパートは、関西では知らない人はいないであろう島田珠代やレポーターのタージンなど出演者もバラエティに富んでいる。主役は「YUI」から引き続き三浦理奈とミュージカルコース現役生の秋庭悠佑が抜擢された。また、造形には世界的エフェクト・アーティストであり同校の客員教授でもあるスクリーミング・マッド・ジョージが担当し、動きも含めて監修した。

 
meisoukazoku-UMI-500.jpg第三部の「UMI」は脚本としては荒削りな部分があったというが、この三作三様の全く異なった個性が1本の映画として不思議なまとまりを感じさせ、鑑賞後の感覚を清々しいものにしている。出演は西岡奏と木村了。

 
meisoukazoku-UMI-550.jpgそもそも、本作はそれぞれ別々に書かれた脚本を連作に組み上げたもの。大阪芸術大学に所蔵されている卒業生たちの膨大な脚本の中から厳選された3本を在校生たちがアレンジし、プロアマの垣根を越えたチームワークが実現した。疑問に感じたことは臆さず指摘する態度は、教師と生徒ではなく、共同作業者だったと金田監督は振り返る。明日のエンタメ界を担う人材のデビュー戦とも言えそうだ。

 
本作には新鮮な驚きが隠されている。まるでふいに空気が抜けてどこへ飛んでいくかわからない風船のようだ。野球場で飛ばすときの、勢いよく暴走するあの感じをぜひスクリーンで体感してほしい。


(山口 順子)

配給:日活
製作総指揮:塚本 邦彦
製作統括:田中 光敏
エグゼクティブプロデューサー:濱名 一哉
協賛:大成建設株式会社  日本電設工業株式会社
企画:大阪芸術大学  芸術学部  映像学科  製作吉著作:大阪芸術大学
©︎大阪芸術大学

公式 HP:  https://www.osaka-geidai.ac.jp/topics/meisoukazoku

公式 X:@meisou_movie

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