原題 | FOG OF WAR |
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制作年・国 | 2025年 アメリカ |
上映時間 | 1時間43分 |
監督 | 監督: マイケル・デイ 脚本: ルーク・ラングスデール 撮影監督: ディーン・フィッシャー・Jr 製作: ジョーダン・イェール・レヴィン、ジョーダン・ベッカーマン、マイケル・デイ プロデューサー: スコット・レヴェンソン |
出演 | ジェイク・アベル、ブリアナ・ヒルデブランド、ルーリグ・ゲーザ、デヴィッド・B・メドウズ、サル・レンディーノ、グレッグ・ナッチャー、デヴィッド・ギア、ジュリア・エブナー、ミラ・ソルヴィノ、ジョン・キューザック |
公開日、上映劇場 | 2025年8月15日(金)~新宿シネマカリテ、扇町キネマ ほか 全国公開 |
〜霧のなかに浮かび上がる戦争の爪痕〜
第二次世界大戦が終わる前年の1944年、ノルマンディ上陸作戦(オーバーロード作戦)の舞台裏で、もしこんなことが行われていたら・・・。『オペレーションローグ』で脚本・制作に携わったマイケル・デイ監督が、”もしも”をモチーフにスリリングな物語を完成させた。
舞台は霧が立ち込める森の中の古い館。第二次世界大戦で従軍し、戦友を失い自らも負傷兵として復員したジーン(ジェイク・アベル)は休暇を利用して、アメリカ諜報機関OSS(CIAの前身)に勤める婚約者ペニー(ブリアナ・ヒルデブランド)の家族の元へ出向く。マサチューセッツ州に住む叔父夫婦を訪ねる名目だが、その実、ジーンは極秘任務を拝命していたのだった。
ジーンに対し警戒心を隠さない使用人たちと謎多きベルギーからの移民ヴィクター(ルーリグ・ゲーザ)。さらに州防衛隊という名の自治組織が絡み合い、閉鎖的な村の雰囲気も相まって誰もが怪しく見える。
ところで、ドイツの暗号と言えばエニグマ。本作にもそれを匂わせるタイプライターのような機材が登場する。何度か映画化もされ2003年には同名の『エニグマ』が公開、2014年の『イミテーションゲーム エニグマと天才数学者の秘密』ではアカデミー賞(脚色賞)に輝いた。史実では暗号が解読されたのが1943年、ドイツが降伏するのが1945年だから、本作はちょうどその狭間を描いている。
秘密めいたヒロインのペニーが良い。『デッドプール』(2016-)でおなじみのブリアナ・ヒルデブランドだが、謎めいた雰囲気と両親に先立たれた孤独な少女の面影がみごとにマッチしている。そして、『マリグナント凶暴な悪夢』(2021)で注目されたジェイク・アベルもフラッシュバックに苦しむ兵士の姿を好演した。負傷した脚を庇いながら周辺を捜索する姿は板についていて、恋人と言えども任務を明かせない秘密めいた関係がドラマを盛り上げる。脇を固めるキャストも盤石で伯父ボブは『マルコヴィッチの穴』(2000)のジョン・キューザック、伯母モードもアカデミー女優の ミラ・ソルヴィノだ。ロケーションの雄大さ、全体に漂うクラシカルなムードが大時代的なロマンを感じさせドラマを格調高く見せる。
戦闘シーンをほとんど入れず、諜報活動を主軸にした心理戦で戦争の傷を描いたところが新鮮だ。戦争映画と言えば戦闘シーンの連続で残酷な描写が当たり前だったが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)なども広く知られるようになったことで過剰な演出が抑制されたようだ。
戦争をモチーフに、その背景にある政治や主義主張が家族や愛など個人の生活を壊してゆく様子を丁寧に描いてゆく。国を追われ離散してしまった家族や迫害を受ける人々の悲哀、一個人と国家の狭間で引き裂かれる人々の心情が、霧の中に浮かび上がる。人間ドラマに重点を置いた新しい形の戦争映画のように感じられた。
(山口 順子)
公式サイト:https://cinema.starcat.co.jp/fogofwar/
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
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