原題 | RENOIR |
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制作年・国 | 2025年 日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタール |
上映時間 | 2時間2分 |
監督 | 監督・脚本:早川千絵(『PLAN75』) |
出演 | 鈴木唯、石田ひかり、中島歩、 河合優実、坂東龍汰/リリー・フランキー、Hana Hop、高梨琴乃、西原亜希、谷川昭一朗、宮下今日子、中村恩恵 |
公開日、上映劇場 | 2025年6月20日(金)~ 大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX京都、アップリンク京都、109シネマズHAT神戸、kino cinema 神戸国際、MOVIXあまがさき、 他全国公開 |
〜不思議なものを不思議なまま掴もうとする少女から、浮かぶ原風景〜
『PLAN75』(2022)で世の中に老いと死について痛烈な問いを投げかけた早川千絵監督。今度は1980年代を舞台に11歳の少女の視点から物語を編む。平成元年が1989年だからちょうど昭和の終わり頃。末期がんの圭司(リリー・フランキー)と仕事や家事に疲れ切っている詩子(石田ひかり)の一人娘が主人公・フキ(鈴木唯)だ。時はオカルトブーム全盛期。テレビでは”〇曜スペシャル”のような特集番組がしばしば放送され、フキも入門書を片手にカードマジックや催眠術に夢中になっている。
時代の変化と技術革新に人間の方が追いつけない、そんな令和の現代。子どもを取り巻く社会環境にも不安要素は多い。そこへ昭和の空気を持ち込むといかにも牧歌的になりそうだが、本作はそうわかりやすくは展開しない。時代を遡ることでかえって普遍性を浮き上がらせる仕掛けがいくつも用意されているのだ。フキの戸惑いは圭司の病状や死そのものへの怖れだけでなく、周囲の大人たちの動向のせいでもある。それは父親との時間を慈しむフキの心に混ざるノイズである。そうするとオカルトはフキにとって浄化手段なのかもしれない。次第にフキの行動は家庭内を飛び出し周囲に波及してゆく。
鈴木唯は早川監督がオーディションで出会った一人目の少女で、一目見てフキだと思ったという。彼女を通して脚本や演出に手を入れたというだけあって演じているという感じすらない。まるで記憶の底に沈澱していた原風景が少女の姿を借りて現れたようだ。「ルノワール」は内容に直結するタイトルにしたくなくて選んだそうだが、絵の中の少女は友人ちひろ(Hana Hop)に対するフキの憧れや複雑な思いを反映しているようでもある。
また母娘の微妙な空気感も良い。詩子の、しっかり者の顔と脇の甘さを併せ持った雰囲気が、子ども時代の終わりを迎えつつあるフキのアンバランスさとシンクロする。子どもは傍にいる大人が伝えることで言葉を獲得してゆくが、感情は目に見えないから難しい。自転車での母娘二人乗りのシーンがそんな心の距離を画で見せてくれる。
そのほかのキャストも芸達者揃い。ドラマ「ライオンの隠れ家」で注目を集めた坂東龍汰は、今回も難易度の高い人物を巧みに演じ切った。底知れなさを感じさせる中島歩もさすが。そして河合優実は作品毎、観るたびにちがう人。この人が言った「魔が差した」という言葉から逢魔が時(おうまがとき)という言葉を思い浮かべた。黄昏時の意味だが、平安時代には魔物が動き出す時間帯と信じられていたそう。本作の、いつ何どき厄災に遭ってもおかしくないような不安を感じさせつつ、吹き渡る風のような爽やかさをもたらす独特な世界観と通じる気がした。
早川監督の作品は導入から一瞬で観る者を釘付けにする。それこそマジックのようだ。子どもの頃に考えていることのほとんどを大人になると忘れてしまう。そんなあれこれが次から次へと繰り出される。キャンプファイヤーでYMOの「ライディーン」が流れたときは一気にタイムスリップした気分になった。振り付けがまさにそれ!と言いたくなる個人的ハイライトシーンだ。小学生のころ死ぬことが怖くて眠れない夜があったことをふと思い出し、不思議なものを不思議なまま掴み取ろうとする少女の姿が深く心に残った。
(山口 順子)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/renoir/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(国際共同製作映画)
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