原題 | JOIKA |
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制作年・国 | 2023年 イギリス・ニュージーランド |
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | 監督・脚本:ジェームス・ネイピア・ロバートソン(『ダークホース』) 撮影:トマシュ・ナウミュク 振付:ジョイ・ウーマック 音楽:ダナ・ランド |
出演 | タリア・ライダー ダイアン・クルーガー オレグ・イヴェンコ ナタリア・オシポア エリカ・ホーウッド |
公開日、上映劇場 | 2025年4月25日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、OSシネマズ神戸ハーバーランド、TOHOシネマズ西宮OS 他全国公開 |
実在のバレリーナ ジョイ・ウーマックをモデルにした驚異のバレエ映画
バレエの世界を描いた傑作がまた一つ誕生した!アスリートを描いた作品は自分自身との闘いや周囲との足の引っ張り合いなど、華々しい舞台の影に想像を絶するようなドラマがある。その最たるものはバレエの世界ではないだろうか。これまでにも数々の名作が世に送り出されてきた。『ブラックスワン』(2010)ではナタリー・ポートマンがライバルとの確執やコーチ・母親との軋轢のなかで自らを追い詰めてゆく演技が凄まじかった。また『ホワイトクロウ』(2019)は実在のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフがKGBの監視下から逃れようとする物語だ。このときヌレエフを演じたオレグ・イヴェンコが今作ではジョイのパートナー役で出演している。本作もまた実話を基にしたもので、2021年のドキュメンタリー映画『The White Swan』でも描かれたジョイ・ウーマックの物語だ。
ジョイ(タリア・ライダー)は15歳のとき単身アメリカからバレエの本場ボリショイ・バレエアカデミーへ入学する。実力は十分なのにロシア至上主義のアカデミーでは外国人に対する偏見によって、教師からも生徒からも無視に冷笑といった手痛い歓迎を受ける。ジョイを演じるのは『17歳の瞳に映る世界』のタリア・ライダー。3歳からダンスのキャリアを積みバレエの基礎も身についているが、撮影にあたっては1年間のレッスンを受けた。このことだけでも、元々の素養をそのまま転用できるほど甘い世界ではないということが伝わってくる。
アカデミーの教師ヴォルコワを演じた『イングロリアス・バスターズ』のダイアン・クルーガーもまた、英国ロイヤル・バレエスクールでダンサーを目指していた経歴の持ち主。また、ライバルのナターシャを演じたエリカ・ホーウッドはオランダ国立バレエ団の現役ダンサーだ。さらにジョイが舞台『瀕死の白鳥』を観に行くシーンでは、ナタリア・オシポワ本人が出演し作品世界を補強している。ダンサーも俳優も超一流が顔を揃えた本作だが、最大の功績はジョイ・ウーマック本人が制作に関わっていることだ。ネイピア・ロバートソン監督はウーマックを積極的に制作現場に迎え入れ、ダンスシーンにおける全権を委任したという。画面に、よりリアリティを与えられるよう徹底してこだわったウーマックと実在の人物を描くことに定評のあるロバートソン監督とのタッグがみごとに結実した。
また、本作は同時に当時のボリショイの特殊性も描き出している。その後のジョイの運命は自身の強い思いとその状況が絡み合い起こるべくして起こった事態なのだろう。この辺りのことはパンフレットに詳しいので併せて観てみると、より臨場感が増すはずだ。
酷使した足首は黒ずみ、生爪は剥げ、トウシューズには血が滲む。まさに満身創痍。観ていると、夢を応援したい気持ちと止めたくなる思いの両方が心の中でせめぎ合う。しかし、彼女がした選択とそのとき母親にかけた言葉に胸のつかえが取れる気がした。可愛らしいチュチュに身を包みおぼつかない足取りでステップを踏んでいた少女が、自分の足で歩き出し自らの手で夢を掴みにいく姿には胸が熱くなる。だが制作陣が観客に示すのはそれだけではない。何かに挑戦し秀でるためには何が必要か、それを実践する覚悟があるのかという問いをジョイの人生を通じて投げかけているのだ。
その後ボリショイ・バレエ団は外国人も登用するようになったものの2022年のウクライナ侵攻以降、停滞を余儀なくされている。タリア・ライダーは本作をきっかけにバレエに興味を持ってほしいと話す。血の滲むようなレッスンシーン、ため息の出るようなステージング、全くの門外漢の私でも息を呑んだ。この圧巻の2時間をぜひ劇場で体験してほしい。
(山口 順子)
公式サイト:joika-movie.jp
公式X:@showgate_youga
配給 : ショウゲート
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