原題 | Babygirl |
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制作年・国 | 2024年 アメリカ |
上映時間 | 1時間54分 |
監督 | 監督/脚本:ハリナ・ライン 撮影:ヤスペル・ウルフ |
出演 | ニコール・キッドマン、ハリス・ディキンソン、アントニオ・バンデラス、ソフィー・ワイルド |
公開日、上映劇場 | 2025年3月28日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS)、T・ジョイ京都 ほか全国公開 |
〜A24発!キッドマン✖️バンデラス✖️ライン監督が放つ大人の寓話
フェティシズムを入り口に、よくある愛憎劇かと見せかけて一筋縄ではいかないのがA24作品。
超大物俳優の顔合わせに気を取られていると第二、第三の矢が放たれ、あれよあれよという間に気づけば知らない場所に立っていた気分だ。
ロミー(ニコール・キッドマン)は夫ジェイコブ(アントニオ・バンデラス)と娘二人の4人家族。プール付きの大きな家に住み、夫は舞台演出家、自身は大企業のCEOという絵に描いたような”持てる者”。しかし、人に言えないある悩みを抱えていた。そこへインターンのサミュエル(ハリス・ディキンソン)が現れ、メンターとして自分を指名する。面談の場で内なる欲求をズバリ言い当てられたロミーは主導権を握ろうとしながらもサミュエルのペースに巻き込まれてゆくのだった。
時おり幼少期のフラッシュバックのような場面が挟まれるが、因果関係は明かされず、サミュエルに至っては一切のバックボーンが語られない。何が原因で、今何が起こっているのかということも、その結果、誰がどうなったのかということも詳らかにはしない。しかし、これらをサスペンスとして見たとき物語が違って見えてくる。逆再生してどこが始まりなのか考えてみたくなるほどだ。と言っても話はこびが複雑な訳ではない。登場人物の心理状態が知りたくなるのだ。BGMはどこかホラーテイストで、音楽と映像とキッドマンの訝しげな表情によって独特のバイブスが生まれている。
愛や嫉妬を燃料に暴走する物語は数多く描かれてきたが、本作には新しい風を感じる。ディテールに小さな驚きがちりばめられているのだ。女性の内面を細やかに描写する作品を観ると女性監督であることは多い。本作においては内面描写がさほどないため気付かなかったが、なぜこれほど官能的なのに煽情的でないのか不思議だった。ハリナ・ライン監督を知りその謎が解けた気がした。
ライン監督は自身も舞台女優としての経験があり、本作はニコール・キッドマンに宛てて書かれたオリジナル脚本だ。二人はすぐに意気投合した。インティマシーコーディネーターはもちろん、セクシャルなシーンには必ずコレオグラフィー(振り付け)を準備し撮影はクローズドセットのなか俳優、監督のみで行われた。
90年代のヒット作『危険な情事』『ナインハーフ』『幸福の条件』などに親しんできたというライン監督。しかし、そこには明確な”型”があった。男性の視点で作られているということだ。作品としての面白さとは別にステレオタイプの女性像が繰り返されてきたのだ。つまりは男性から見た理想の女性像であったり、都合の良い存在ということだろう。『幸福の条件』(1993)については公開当時、筆者もヒロインの行動に違和感を覚えたものだ。ライン監督は常々この”型”を破って、女性の視点から作ってみたいという野心を持っていた。そして今回、セクシースリラーというジャンルにとどまらず、現代の視点からの要素を多く取り入れ、男女をスイッチさせた部分もあるという。この点は『バービー』(2023)と共通する面もあるが個人的には本作の方が理解しやすかった。『バービー』が集団対集団という構図だったのに対し、本作は徹頭徹尾、個人を媒介にしているからかもしれない。
また、注目したいのが『TALK TO ME』(2023)での好演が記憶に新しいソフィー・ワイルド。彼女が演じたエスメこそ新時代の女性像のように映ったが、実はいつの時代も存在するキャラクターなのかもしれない。ともあれ各人が人生に何を求めるのかという根源的な視点が落とし込まれたことで、ジェンダーや役割を超えた複合的な作品になった。エンターテインメントに振り切ったところも魅力。
(山口 順子)
公式サイト: https://happinet-phantom.com/babygirl/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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