原題 | HERE |
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制作年・国 | 2024年 アメリカ |
上映時間 | 1時間44分 |
原作 | リチャード・マグワイア(グラフィックノベル「HERE ヒア」) |
監督 | ロバート・ゼメキス 脚本:エリック・ロス&ロバート・ゼメキス 撮影:ドン・バージェス |
出演 | トム・ハンクス、 ロビン・ライト、 ポール・ベタニー、ケリー・ライリー、ミシェル・ドッカリー |
公開日、上映劇場 | 2025年4月4日(金)~TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、OS西宮ほか)、kino cinema 心斎橋、T・ジョイ京都、kino cinema神戸国際、OSシネマズ神戸ハーバーランド ほか全国ロードショー |
~悠久の歴史の中、定点観測で波乱の人生を見つめる〈ハウス〉~
いきなり恐竜が駆け回る太古の世界。あれっ、『ジュラシックパーク』みたいな映画なのか? そう思った瞬間、隕石が地球に衝突し、火炎地獄に。アワワッ、何やねん!? 続いて寒々しい氷河期の光景が映し出され、やがて緑に覆われた森が出現し、狩猟民(先住民)が暮らしています。さらにイギリスとの独立戦争を経てアメリカの開拓期へ。
そして1900年ごろに半植民地様式(イギリス支配下の時代=18世紀)の2階建て住居が建てられます。その1階のリビングが本作の舞台です。凧を用いた実験でカミナリが電気であることを証明したベンジャミン・フランクリン(1706~90年)の名前が出てきたので、場所は東部のマサチューセッツ州かペンシルベニア州と思われます。
これらの映像はすべて同じ地点で映されているのです。つまり定点観測。メディアでは、例えば、現代と50年前の街並みや風景を対比させ、その変遷ぶりを知ってもらうのが狙いで、しばしば使われます。映画ではしかし、ここまで徹底的に実践したのは初めてだと思います。奇をてらった演出と言えばそうかもしれないけれど、ぼくは画期的な作品と受けとめました。
2億3000万年前には、その地に紛れもなく恐竜が闊歩していた! その後、時間の「帯」が連綿とつながっていき、今に至っていることを否が応でも感じさせてくれます。カメラは全く微動だにせず、目の前の事象を映し出すだけ。過去に戻ったり、現代に引き返したりして自由に時空を行き交います。こんな手法で映画を組み立てたロバート・ゼメキス監督の手腕と発想に驚かされました。
舞台となる家に複数の家族が居住しては去っていきます。そこに太古や古代の情景が挟み込まれ、最初のうちは時空転換の早さに追いついていけず、正直、理解するのに手こずったけれど、徐々に本作の狙いがわかってきました。前段はもう少しスローペースで展開させる方がよかったのではないでしょうかね。
軸となるのは、戦後の1948年、第2次世界大戦から帰還したアル(ポール・ベタニー)と妻ローズ(ケリー・ライリー)の家族です。やがて長男のリチャード(トム・ハンクス)が生まれ、その息子が主役になっていきます。絵心のある彼が18歳の高校生になり、ガールフレンドのマーガレット(ロビン・ライト)と結ばれ、老人期までの人生ドラマが脈々と描かれていきます。演じるのはすべてハンクスとライトです。
ゼメキス監督の得意芸ともいえるVFX(コンピューターなどを用いて現実では実現できない視覚効果)を駆使し、見事に若かりし頃と晩年の2人を映像に甦らせています。全く違和感なし。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作(1985~90年)、『ロジャー・ラビット』(88年)、『永遠に美しく』(92年)などのヒット作で披露したVFXの技術が確実に進化していました。
技術面にばかり目が向いてしまいましたが、リチャードとマーガレットの家族ドラマとしても観させます。娘が生まれ、夫は画家の道を断念して営業マンになり、弁護士を目指していた妻も主婦業に専念。両親との同居を嫌がる妻と夫との不協和音、その後も山あり谷あり。喜びも悲しみも幾年月……、巨匠木下恵介監督のこんなタイトルの日本映画がありましたが、まさにそれを地で行く内容でした。
人生は短いようで、実は長い。そして悠久の歴史の中にちゃんと組み込まれている。そのことがわかるような仕掛けになっています。だから人が生き続けるということは壮大な物語なんですね。外観がほとんど変わらない向かいの古風な邸宅がミソ。原作が、リチャード・マグワイアという作家のわずか6ページの異色グラフィックノベルというから驚きです。
この映画、知恵遅れながらも純真に生きる男を主人公にしたヒューマン・コメディ『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94年)のキャストとスタッフが再結集して作っているんですね。ガンプに扮し、アカデミー賞主演男優賞に輝いたトム・ハンクス、その妻役のロビン・ライト。1950年~80年代のアメリカの歴史を交えて描いていました。道理で空気感がよく似ていたはずです。
最初から最後まで定点観測を貫くと思いきや、一度だけカメラが動きます。ここでは言いません(笑)。リビングの内装が時代と住む家族によって異なっていましたが、はて、どんな形態の家屋なのか、周囲はどんな環境なのかとぼくはずっと気になっていました。それも解明されました。
人生、なかなか思うようにはいきません。でも、それが人生であり、思うようにいかせようとするのも人生。そんな幾世代もの人の営みを、〈ハウス〉が見つめていたんです。観終わったあと、きっとそう実感すると思います。刺激的な映画でした。
武部 好伸(作家・エッセイスト)
配給:キノフィルムズ
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公式サイト:https://here-movie.jp/
公式X:@HERE_movie0404