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『コメント部隊』

 
       

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作品データ
原題 原題:댓글부대/英題:TROLL FACTORY 
制作年・国 2024年 韓国 
上映時間 1時間49分
原作 チャン・ガンミョン(「댓글부대」)
監督 監督・脚本:アン・グクジン 
出演 ソン・ソック、キム・ソンチョル、キム・ドンフィ、ホン・ギョン
公開日、上映劇場 2025年2月14日(金)~シネマート新宿、アップリンク京都、109シネマズHAT神戸 ほか全国公開

 

〜虚実の危うさを世に問う怪作!〜

 

コメント部隊とは言い得て妙、うまいタイトルだ。つまり、やらせ記事を組織的に書かせる工作要員のこと。世論調査ならぬ”世論操作”で有利な情報を流したり不利な情報を隠蔽するだけでなく、ミスリードを誘い巧みに人心を惑わせ一種の洗脳状態に持っていくという。本作は、国家情報院が大統領選挙で起こした事件をモチーフにした、チャン・ガンミョンによる同名小説の映画化作品だ。ちなみにチャン・ガンミョン自身が元新聞記者である。


comment-500-1.jpg主演を務めるのは、カナダ滞在中にNetflixドラマ「センス8」でグローバルデビューを果たした後、韓国に戻って本格的に俳優活動を始めるや、たちまちトップ俳優となったソン・ソック。善にも悪にも振り切らない掴みどころのないキャラクターをひょうひょうと演じ切った。

 
社会部記者イム・サンジン(ソン・ソック)は巨大企業”マンジョン”の不正を暴く記事を書いたことから停職処分となる。しかし、それが実は世論操作によるもので、しかもマンジョンが関係しているとの情報を得ると上司の制止も聞き入れず取材に乗り出す。情報提供者のチャッタッカッ(キム・ドンフィ)の呼び出しに応じると、フリーターの友人たち(キム・ソンチョル)(ホン・ギヨン)と共に自分たちがやったと言うではないか。イム・サンジンは話を聞くうち次第に特ダネを掴めそうな高揚感に包まれ狂騒の中に自ら身を投じてゆくのだった…。

 
comment-500-2.jpg繰り返しアングルを変えて映り込む観覧車が目を引く。アクションなど映像的な派手さはないが、ケースごとのシークエンスがひとつひとつドラマになっていることでメリハリが生まれ、テンポの良い語り口で惹きつける。ニュース仕立てで見せていくロウソク集会やデモの歴史も委細を知らない私たちに対するプレゼンの役目を果たしていて興味深い。


一方、そんな語り口のポップさに反して語られる内容のセンセーショナルさにゾッとさせられる。さながらネット社会の闇の部分が総動員となった様相である。初めて知ることより、この流れ知っているかも・・・という既視感による怖さが勝った。世論操作のやり方がとにかく巧妙で当事者の視点ではもちろんのこと、知らず知らずのうちに加担していたらという恐ろしさの両方があるのだ。それにしてもそんな情報操作にやすやすと乗らないためには、何ができるのだろうと考えずにはいられない。

 
comment-500-3.jpg情報は中身よりタイミングなのか?一次情報ってそれほど重要なのか?まずは事実かどうかという視点に立ち返る必要があるはず、いや、それを考えている時点ですでに術中にはまっているのかもしれない・・・などと観終わってからもずっと考えてしまうのだ。 

 
物語は風刺的な視点とともにある種の中毒性を描き出す。観覧車が次第にハムスターの滑車に見えてくる。新聞が印刷されるシーンは懐かしさとともに輪転機もやはり回っていると気付くと、いつの間にか大きなうねりの中に巻き込まれていると気づいて背筋が寒くなるようだ。

 

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アン・グクジン監督が「永遠に消えることのないネット世界で何度も見返せる映画になってほしい」と言うとおり飽きることなく鑑賞できる作品になっている。ストーリーの魅力は元より、自分自身の感覚に問いかけてくるからだ。

 
終始キーボードを打つカチャカチャという音が響く。イム・サンジンは叩かれても”身バレ”しても取材を続ける。その姿は虚勢を張っているようにも、正義の剣を振るっているようにも見えない。正義感か使命感かそれとも意地か?その答えは映画を観てほしい。また、三人の若者たちの暮らしぶりや生き方が心に残った。そこには就職難民のリアルがあった。


(山口 順子)

公式サイト:https://klockworx.com/movies/comment/

配給:クロックワークス

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