制作年・国 | 2023年 日本 |
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上映時間 | 1時間48分 |
原作 | 筒井康隆『敵』(新潮文庫刊) |
監督 | 脚本・監督:吉田大八 (『紙の月』『桐島、部活やめるってよ』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』) 撮影:四宮秀俊 |
出演 | 長塚京三、瀧内公美、黒沢あすか、河合優実、松尾諭、松尾貴史、中島歩、カトウシンスケほか |
公開日、上映劇場 | 2025年1月17日(金)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
受賞歴 | 第37回東京国際映画祭(2024年)東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠受賞 |
~加速する老いと迫り来る死のはざまで、男が見たものとは?~
ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(2023年)で役所広司が演じた男を連想してしまう人は多いだろう。一日、一日、ていねいに生きる独り身の男という意味で。役所広司のほうは公共トイレのクリーニングという仕事を持っていたが、この映画の長塚京三のほうは退職した大学教授で仕事はもうほとんどしていない。年代は異なるし、自炊する・しないという違いもある。だが、それぞれに生活の中心に巌として据えているものがある。それは自分の好みやこだわりを大切に守っているということ。
20年前に妻の信子(黒沢あすか)に先立たれ、一人で暮らす渡辺儀助(長塚京三)は77歳になる。10年前に大学を辞め、フランス近代演劇史という専門分野では講演依頼もまれになり、ほとんど隠居生活だ。そこで、儀助は計算する。自分の貯えや年金であとどのくらい生きられるか、と。だから余計な出費はしないが、生活スタイルは凛として崩さない。性的な欲望を抱え持つ儀助は、元教え子の鷹司靖子(瀧内公美)やバーで知り合った大学生の菅井歩美(河合優実)に密かに男性目線を向けたりもする。日々は平穏に過ぎてゆくように思えた。ところがある日、儀助はパソコンの画面に「敵がやって来る」というメッセージを見つけ…。
深みのあるモノクロの映像を味わいつつ、儀助の生活ぶりに思わず共感した。自分のスタイルを崩さないっていいなあ、と。原作は筒井康隆の同名小説で、独特の軽妙さやユーモアが散りばめられ、細部に至る儀助のこだわりが綴られている。やがて現実と夢の境界があいまいになっていき、亡き妻がたびたび登場してくる。本当に起こったことと儀助の妄想が錯綜し、観る者をも翻弄する。知性やプライドが男のスケベごころと格闘する主人公像を、鮮やかに印象づけた長塚京三がみごとだ。
第37回東京国際映画祭で、東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠に輝いた。さて、「敵」とは何なのか? 映画は答えない。問いだけがぽんと空中に置かれている。これからどんどん増えていくだろう独居老人。どう生きるか、どう覚悟すべきか。いろいろ考えさせられたが、そういう切実な現実を超え、一筋縄ではいかないこの映画は実に面白かった。
(宮田 彩未)
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