原題 | Sidonie au Japo |
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制作年・国 | 2023年 フランス・ドイツ・スイス・日本 |
上映時間 | 1時間36分 |
監督 | エリーズ・ジラール(『静かなふたり』『ベルヴィル・トーキョー』) |
出演 | イザベル・ユペール、伊原剛志、アウグスト・ディールほか |
公開日、上映劇場 | 2024年12月13日(金)~シネスイッチ銀座、テアトル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
~人生と愛と死について、やわらかな視点で描くおとなのファンタジー~
俳優イザベル・ユペールの、あのまなざしにはえもいわれぬ力がある。クールな知性が輝いていて、対するにはそれだけの姿勢がこっちに求められるようにも感じていた。でも、本作における彼女は、なかなかに可愛い。十分におとなになった女性が、本人すら気づかない素直さや弱さをちらりと見せてしまったようで。そして、思ったのは、素敵なおとなになるということは、分別くさくなり新しいことに無関心になることではないということ。どんな季節にもいいものがあり、それは、人生でも同じってこと。
デビュー作が日本で再販されることになったフランス人作家シドニ(イザベル・ユペール)は、出版社に招かれて日本を訪れる。空港で彼女を待っていたのは、担当編集者であり、日本の名映画監督と一字違いの溝口健三(伊原剛志)だった。ホテルに着いてから、シドニは不思議な出来事に出くわす。開かないはずの窓が開けられていたり、手を付けていないお弁当が空になっていたり。溝口とともに記者会見やサイン会などで各地を回るシドニだったが、亡くなった夫アントワーヌ(アウグスト・ディール)の幽霊と京都で出会い…。
監督のエリーズ・ジラールは、日本を“映画に選ばれた国”と表現するほど、どうやら大変な日本好きのよう。初の長編デビュー作のタイトルも『ベルヴィル・トーキョー』(2011年)だし、その映画がきっかけで初めて日本を訪れた時の印象はかなり衝撃的だったという。そして、たびたび訪れた日本での体験や思いが熟成されたかのように、この映画のあちこちに日本愛がにじみ出ている。奈良、京都、直島(香川県)などを回る、シドニ×溝口×亡き夫の、不思議だけれど怖くはない三重奏ロードムービーだ。
奈良、京都は、外国人が訪れる定番だが、加えて直島も注目スポットになっているらしい。ここには、水玉模様がモチーフの草間彌生のオブジェや、安藤忠雄設計の「地中美術館」などがあり、“自然とアートが融合する島”と呼ばれている。フランス映画っぽさを漂わせながら、“不思議の国ニッポン”を舞台として描く本作にとって、グッドチョイスかもしれないと感じた。
余計な感情表現はなく、淡々と、あるいは飄々とした描写が好ましい。寡黙な編集者を演じた伊原剛志は、フランス語を操りながらの引き算の演技。イザベル・ユペールを引き立たせる陰の存在に徹した潔さが光る。
シドニがたどってきた人生、夫と過ごした愛の日々、独り身になったシドニの死に対する思いなどが、ゆるやかに結ばれ、それからほどけていく。そして物語は、“ちょっと素敵な”エンディングへとたどり着く。お茶目で、ふんわり温かい。いなくなった者への訣別と、新しく始まった絆をさりげなく表していて、胸の中にぽっと灯りがついた。
(宮田 彩未)
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sidonie/
配給:ギャガ
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