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『大きな家』

 
       

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作品データ
制作年・国 2024年 日本 
上映時間 2時間3分
監督 監督・編集:竹林亮 企画・プロデュース:齊藤工 音楽:大木嵩雄 撮影:幸前達之 
公開日、上映劇場 2024年12月6日(金)~東京 ホワイトシネクイント・大阪TOHOシネマズ梅田・名古屋センチュリーシネマ先行公開、他12月20日(金)~全国順次公開

 

〜そばに居て、ただ受容れる〜

 

はじめに”本作に登場する子どもたちを特定する行為、誹謗中傷をしないでください”という告知がされる。「小さいおうち」という有名な童話があるが、ここで言う「大きな家」とは、児童養護施設のこと。様々な事情から保護者の監護を受けられない子どもたちは乳児院、児童養護施設、自立支援施設等の社会的養護を経て社会にでる。

 
A Big Home_pos.jpg俳優であり自らメガホンも取る齊藤工が企画し『14歳の栞』(2021)『MONDAYS』(2022)の竹林亮監督とタッグを組んで制作した本作は『14歳の栞』同様、配信や製品化はされず、劇場での公開のみとなる。


十数年前から疑似家族を描いた作品が増えた印象があったから、漠然とそういうものを想像していたが少し違っていた。本作のなかでは折にふれ子どもたちに向けてその問いかけがなされる。「ここのみんなは、、、家族?」訥々とした話しぶりで核心を突いた質問をすることにびっくりした。家族という定義からして曖昧だから答えに困るだろうと思ったが、子どもたちはとてもフラットにこたえている。本作が訴えるものとはいったい何なのだろう。


やや緊張しながら観はじめると意外にリラックスしたムードが漂っていた。7歳、11歳、14歳・・・と段階的にスポットを当てていくことで、その年頃の子どもたちの内面が垣間見える作りになっている。本編のなかで竹林監督はほとんど話さない。小さな子はこちらが話さなくてもおしゃべりしてくれるが、年齢を重ねると段々口数は減ってくる。一方で雄弁になることで自分を守る子もいるから、それも一概には言えない。そんな日常的な空気が映っている。


A Big Home__sub2-500.jpg卒所した子の本作を観た感想に”下の子たちの姿が小さい頃の自分と重なった、あの頃は気づかなかった愛情もあった”というのが印象的だった。当たり前の感想のようでいてけっして当たり前ではない。これは祖父母が孫の世話をする姿を親の立場から見たときに似ている。子ども時代に区切りをつけたから出てくる感想なのだ。


さいごにもう一度、冒頭の文言が映し出される。それは告知というより祈りのようだ。生身の人間が登場することで伝わるものは確かにあるが、プライバシーについてはとくに配慮が必要。急速な時代の変化のなかでは尚のこと。同じものを見ても反応は人それぞれだからこそ、大人が責任を負わなければならない。その覚悟が表れている。他者を理解するには想像力が必要と言われるけれど、尺度は個人に依るものだけに限界がある。そんな時できることは何なのか。それは、わからないままに受け入れることではないだろうか。大きな家ではそれが実践されているように思えた。傍に居ること、気にかけること、待つこと。これはすべて非言語コミュニケーションだ。


ここでは生活のなかで自然とそんな心の交感があるのではないかと思う。言葉を交わすことはもちろん大切だけど、その前に必要なのは耳を傾けてくれるという安心感なのだ。そして、撮影クルーはそんな、大きな家の雰囲気を尊重して、そこに居たのではないだろうか。この映画には、子どもたちのこれからの人生のお守りになるように、という願いが込められている。


A Big Home__sub4-500.jpg改めて本作が訴えるものは何か?と考えてみると、ここに居るよ、と言っているように思えた。ここでみんな生きているよ、と。生まれる場所は選べないからこそ、人権と安全が保障される世の中であってほしい。私たち大人はそんな世の中を作っていかなければならないと改めて思う。


エンドロールでハンバートハンバートの楽曲「トンネル」が流れる。”どこへ行くのかわからない どこから来たかもわからない 行くも戻るもない道を 戸惑いながら歩いてゆく” この映画のために作られた曲ではないそうだが、胸を衝かれた。と同時に子どもから大人へのトンネルをくぐる子どもたちへのエールに聴こえた。トンネルを抜けたら新しい風景が開け、きっと新しい風が吹くと。いま日本には4万2千人の社会的養護を必要としている子どもたちがいる。彼ら一人ひとりの姿は私やあなたや周囲の大切な人たちと同じ、悩みながら前に進んでいこうとしている。知らなければ他人でも、知り合えば知人になる。多くの方にこの映画が届くことを願ってやまない。


(山口 順子)

※公式サイトでは寄付ができるムビチケを販売中

公式サイト:https://bighome-cinema.com/

配給:パルコ

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