原題 | 英題:Padre Project |
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制作年・国 | 2023 年 日本 |
上映時間 | 1時間20分 |
監督 | 監督・プロデュース・編集:武内剛 撮影監督:成富紀之 脚本・構成:吾妻蓮 |
公開日、上映劇場 | 2024年9月27日(金)~アップリンク京都、9 月28日(土)~シアターセブン、元町映画館 ほか、全国順次公開 |
〜父親探しの向こうにみつけたもの〜
ドキュメンタリーってちょっと気負ってしまうところがある。本当の話というのは観る方にとってもある程度、覚悟がいるものだ。ところがこの作品、ドキュメンタリーというのを忘れて見入っていた。
被写体はカメルーン人の父と日本人の母を持つお笑い芸人、ぶらっくさむらいこと武内剛。遠くイタリアはミラノへ父親探しの旅に出るという。父とは2歳のときにイタリアで会ったのが最後。女手ひとつで自分を育ててくれた母が認知症になり、世界はコロナ禍へと突入した。頭の隅にくすぶっていた、いつか父親を訪ねてみたいという思いを実行に移すのは今しかない!”ありがとう市場”とプリントされたTシャツを身につけ、いざ出陣。ちなみにこのロゴはクラウドファンディングでのPR権を獲得した企業のものらしい。
まず本作の一番の魅力はロードムービーとして楽しめるところだ。観客はちょうど通訳のキキさんの立ち位置かもしれない。英語は話せるもののイタリアでカメルーン人を探すという幾重にも入り組んだ状況。そして、アフリカ系移民の集まる地域では現地の言葉が飛び交い、よそ者がおいそれと入っていける空気ではない。そんなとき日英伊トリリンガルのキキさんの存在は心強い。地元の放送局に連絡したり、チラシを貼ったりと知恵を絞りあらゆる手を尽くす。タイムリミットは10日間。どんな結末が待っているのだろうか。
冒頭に書いた観る方の気負いとは裏腹に、彼自身には気負ったところがない。だから肩の力を抜いて観ることができるのかもしれない。人探しという制約上、同じことの繰り返しになったり、重複表現が生まれやすいはずだが、カメラに向かっての語りのほか、キキさんとの作戦会議や地元住民への聞き取り、自身の言葉で語られるナレーションなどをうまく組み合わせて飽きさせない。旅がすすむにつれ、人当たりが良く陽気に見える武内監督のこれまでの人生が決して平坦なものでなかったことがわかってくる。
本作は海外の映画祭でも好評を博し徐々に公開の枠が広がっている。そんななか上映に併せて各界で活躍する有名人やミックスルーツを持つゲストを招いてのトークショーなども開催されるようだ。ここ数年、様々な社会の変容があった。それは突然起こったことではなく水面下で堆積していたものが噴出した格好だ。本作の起点はあくまでも個人だが、個人の問題は必ず社会と繋がっていて同じ問題に直面する誰かがいる。そして、本作は武内監督の家族が乗り越えてきた問題だけでなく、あり得たかもしれない問題に対する視点も忘れていない。いま私たちは社会が変わっていこうとする大きなうねりの中にいる。社会の一員である以上、傍観者ではいられない。本作はそれを見つめ直し、話し合うきっかけになり得る作品だ。
武内監督の父が母との出会いの地であるイタリアを訪れたそもそもの理由は、映像作家を目指してのことだったという。武内監督もまた、本作をきっかけに映画作りへの意欲を見せる。それは、親子だから同じものに引き寄せられたというより、10代の頃から模索し続け、思いつく限りのことにチャレンジしてきた結果そこにたどり着いたという印象だ。しかし、本作を観終わったとき、この人の次回作が観てみたいと思ったのもまた事実。今度は自分ではなく他の人を撮ってみたいという武内監督の新しい挑戦に大いに期待したい!
(山口 順子)
【公式サイト】 https://padreproject.jp
【公式 X】 https://x.com/padreproject50
配給:ミカタ・エンタテインメント
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