原題 | 原題:Hit Man |
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制作年・国 | 2023年 アメリカ映画 |
上映時間 | 1時間55分 PG-12 |
原作 | 原案:「テキサス・マンスリー」誌 スキップ・ホランズワースの記事に基づく |
監督 | 監督:リチャード・リンクレイター 脚本:リチャード・リンクレイター&グレン・パウエル |
出演 | グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、サンジャイ・ラオ |
公開日、上映劇場 | 2024年9月13日(金)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、イオンシネマシアタス心斎橋、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinema 神戸国際、MOVIXあまがさき ほか全国ロードショー |
~パウエル × リンクレーターでアメリカ版”ガリレオ”が誕生!?~
リチャード・リンクレーター監督と言えばビフォア三部作が真っ先に浮かぶが、その後も次々に個性的な作品を生み出している。今度の作品は10代の頃から知るグレン・パウエルとの共同脚本で、警察に捜査協力をする男の話だ。
潜入捜査と言えば麻薬捜査官が客のふりをして売人を逮捕するイメージだが、本作は殺し屋を装って依頼人を逮捕するという、ちょっと現実離れした内容。さすがCIAの本拠地という感じだ。本業が大学教員と聞けば、まるでガリレオシリーズ(東野圭吾原作、福山雅治主演)の世界。心理学と哲学を教える堅物のゲイリー(グレン・パウエル)が、依頼人に会うときは変装しキャラクターまで作り込むという念の入れようだ。依頼人の性格やライフスタイル、趣味嗜好を徹底的にリサーチし相手の懐にとびこむと、巧みに話を聞き出してキーワードを引き出す。録音データが頼みの綱となるため決定的な一言が必要なのだ。鮮やかで無駄のない語り口で一気に引き込んだ後はゲイリーの七変化ぶりをユーモラスに描き出す。逮捕までの流れはショーを観ているようで実に面白い。そして、あるとき夫の殺害を依頼しようとするマディソン(アドリア・アルホナ)と出会うのだが、そのとき作り上げたロンというキャラクターにゲイリー自身がいつしかのめり込んでしまい・・・。
前情報なしに観ていたら、最後の最後に本物のゲイリーの姿が映し出されてビックリ!何でも2001年に掲載された雑誌の記事が元になっており、パウエルがリンクレーターに声をかけ映画化が実現したというのだ。そう聞くと本作の完成度の高さがうなづける。そして、奥行きをさらに深いものにしているのが、モデルとなったゲイリー・ジョーンズ(1947-2022)に対するリスペクトとあくなき探求心だ。飼い猫の名前がイド(本能)とエゴ(自我)だったり、講義のなかで語られる言葉が彼の人物像に深みを与えている。
パウエルは言う、ゲイリー・ジョーンズこそ本物の役者だと。70件以上の事件を解決した、ということはつまり、そのつど完璧にヒットマンを演じ切ったということなのだ。彼に惚れ込んだ二人は膨大な数の警察記録を読み込み、録音データを聞いた。しかし実際にゲイリーに会ったのはリンクレーターだけでパウエルが会うことは叶わなかった。独自のゲイリー像を作り上げるためだ。何もかもが完璧で聞けば聞くほど熱いエピソードだ。この作品を作る過程がすでにゲイリーという謎に迫るミステリーなのだ。2時間観ただけで尽きせぬ興味が湧いてくるのだから長年取り組んできた彼らにとってみればなおさらだろう。
初めはぎこちなかったが成果を挙げるうちに自信がつき、どんどん垢ぬけてゆくゲイリーの姿は逆プリティウーマンのよう。サラリとこなしているが実はここが一番の肝である。冒頭は冴えない中年男にしか見えないが、我々が彼に惹かれるほどに真実味が増してくる。初めは気に留めなかった学生たちもゲイリーの人間的魅力に気付き始める。やがて私生活にも変化が表れるのはフィクション部分の展開だ。カツラにタトゥーも総動員し、あらゆるファッションに身を包むコメディタッチのストーリー展開が小気味良い分、後半のスリリングさが際立つ。
チームのメンバー、ジャスパー(オースティン・アメリオ)、クローデット(レタ)、フィル(サンジャイ・ラオ)も役者、司会者、コメディアンと様々な顔を持つ曲者ぞろい。ここに集う面々の誰もが複数の顔を持っていると言えそう。アメリカ映画の魅力がギッシリ詰まった1本だ。ちなみに変装姿には様々な作品のキャラクターが引用されているので元ネタと比べてみるのも楽しそう!
(山口 順子)
公式サイト:https://hit-man-movie.jp/
配給: KADOKAWA
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