制作年・国 | 2024年 日本 |
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上映時間 | 2時間17分 |
監督 | 脚本・監督:山中瑶子 撮影:米倉伸 |
出演 | 河合優実 金子大地 寛一郎 新谷ゆづみ 中島歩 唐田えりか、渋谷采郁 澁谷麻美 倉田萌衣 伊島空 / 堀部圭亮 渡辺真起子 |
公開日、上映劇場 | 2024年9月6日(金)~TOHOシネマズ (梅田、なんば、二条、西宮OS) 、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき他 全国ロードショー |
受賞歴 | 第77回(2024年)カンヌ国際映画祭の監督週間で国際映画批評家連盟賞を受賞 |
〜ちょっと不健康でも不健全でも、自分だけのオアシスをみつけよう!〜
『あみこ』で世界の注目を集めた山中瑤子監督が、ふたたびカンヌ国際映画祭を沸かせる快挙を遂げた。その『ナミビアの砂漠』がいよいよ劇場公開される。
カナ(河合優実)は中国とのミックスルーツを持つ21歳、脱毛サロンのスタッフだ。何でもやってくれる優しい恋人(ホンダ:寛一郎)と同棲しながら、他にも恋人(ハヤシ:金子大地)がいる。自分にも他人にも、適当に嘘を吐きながら酒とタバコを携えて大都会をひらひらと泳いでいるように見えるが、あるとき歯車が狂い始める。きっかけは何だったのか、周囲にもわからないが本人にもわかっていないようで…。
終始ストーリーがどこへ行くのか道筋が読めないが、河合優実自身、共感よりどう演じれば面白くなるかという観点で演じたという。後半に登場する葉山(渋谷采郁)との対話が物語を理解する大きな助けになると同時に、今作の大きな柱の一つである暴力性が物語の鍵となる。カナのパワーの源はどうやら怒りのよう。優しい恋人にある意味飼い慣らされていたカナは、表向きは問題を抱えているように見えないが、内面にはマグマを抱えている。
原因はホンダとの関係ばかりではないが、共依存とも言える関係性の中で解決は望めそうにない。いっぽうで第二の恋人の存在は起爆剤となりうる。二人の関係は一見すると警察沙汰になりかねないものだが、後半、それはまるでぶつかり稽古のようである。「付き合いきれない!」と言って出ていこうとする恋人を「お前は帰れる実家があっていいよな!」と叫びながら外廊下から引きずり戻すカナ。暴力カップルがレスリング選手と名トレーナーに見えてくる。当然ながらこのシーンはすべて殺陣のように動きが決まっている。紙一重ではあるが、浮気とDVという入口からまったく違う景色が見えてくるのだ。
二人の恋人たち、ホンダを演じた寛一郎は演技が緻密なタイプでハヤシを演じた金子大地は野生的なタイプだという。だからなのか、ハヤシとカナがお似合いに見えてしまったが、気が合うことと長く一緒にいられることはまた別の話だから先のことは誰にもわからない。実際、私の中でもハヤシの印象は良くなったり悪くなったりを繰り返した。そして、ホンダのことも薄気味悪さは否めないが、一緒に暮らすのに最適と思ったりもした。どっちも最悪、という意見を聞くと確かにそうかもしれないが、あえて聞きたい、皆さんはどっち派だろう。
海外評を見ると”現代日本の文化を描いている”というものがあり、改めて日本の文化とは何なのだろうと考え”調和文化”と聞いてなるほどと思った。それならば日本に深く根ざしている感覚だ。そして、このネット社会のなかでより先鋭化していると言えるだろう。出張に出るホンダがお土産は何がいいかと聞いたときカナは言う。「考えて送る」気持ちが冷めている為だけでなく、即答を避ける文化の表れとも言えるだろう。
映像的な飛躍が面白く、焚き火のシークエンスとランニングマシーンのシーンは最高だ。映画的な仕掛けでもあるが、ランニングハイという言葉がある通り一種の離人状態とも取れる。これをカラッと、しかし正面から描いているのが新鮮だ。また、印象的なズームアップが数回ある。流れを急にせき止めるようなカメラワークだが不思議と緊張感が途切れない。
カナの登場シーンもそうだ。陸橋を歩くカナを捉えたカメラが徐々に近づき全身を映し出すとき、背中を丸め手足を放り出すような歩き方にカナの内面がもれ出ている。そこに映る人物に一気に惹きつけられ目が離せなくなる。細やかな心理描写やセリフと荒削りに見える撮り方や音響のアンバランスさが絶妙にマッチし、宛て書きで作られた脚本によって河合優実とカナはみごとにシンクロしている。誰もが健康な前提だと病的になるが、どこか不健康でいて当たり前という前提になれば見え方が変わる。日本の社会を捉え直した上でサバイブする道を照らすような作品。
(山口 順子)
公式サイト:https://happinet-phantom.com/namibia-movie/
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製作:『ナミビアの砂漠』製作委員会
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会