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『ぼくのお日さま』

 
       

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作品データ
制作年・国 2024年 日本 
上映時間 1時間30分
監督 監督・脚本・撮影・編集:奥山大史(『僕はイエス様が嫌い』) 主題歌:ハンバート  ハンバート「ぼくのお日さま」
出演 越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、潤浩、山田真歩ほか
公開日、上映劇場 2024年9月13日(金)~テアトル梅田、TOHOシネマズなんば、アップリンク京都、イオンシネマ京都桂川、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー

 

~美しいパステル画のようなタッチで描く、きらきらしたひと冬の宝物~

 

奥山大史という、傑出した若き才能と出会ったのは、デビュー作『僕はイエス様が嫌い』(2019年)だったが、いつの間にか彼はあれこれと活躍の場を広げているらしい。是枝裕和監督をはじめ、彼に注目し、コラボしたりする人も多いようで、やはり本当に才ある人は放っておかれないのだろう。だが、自身の長編映画としては、これが第2作。そして今回も、「やられました」。けして壮大な物語を紡ぐわけではないけれど、日常の中の非日常をこれほどドラマティックに描けるなんて!胸の奥がきゅるきゅる音を立て、その音はしばらくずっと居座ってしまった。

 
bokunoohisama-500-1.jpg雪が積もる北国。小学校6年生のタクヤ(越山敬達)はアイスホッケーの練習にいそしんでいるが、どうもあまりうまくならない。彼には少し吃音があって、そのせいか言葉の数が少なく、引っ込み思案のように見える。そんなある日、タクヤの目はひとりの少女に釘付けになった。それは、同じスケートリンクで、フィギュアスケートの元選手・荒川(池松壮亮)から指導を受けているさくら(中西希亜良)である。ドビュッシーの『月の光』に合わせて巧みに滑るさくらは、タクヤの日常を一変してしまった。そんなタクヤの気持ちに気づいた荒川コーチは、「いっしょにフィギュアスケートをやってみないか」という驚くべき提案をするのだった…。

 
bokunoohisama-500-4.jpg恋が芽生えるその瞬間は、人生の中の宝物といっていい。想いがかなうとか、かなわないとかは後からやって来るもので、ひとつの存在が唯一無二だと感じられること自体が、すごいと思う。そして、恋するひとと同じ時間を過ごせるとなったら、その高揚感は如何ほどだろうか。忘れかけていた恋のときめきが、タクヤという無垢の少年を通して伝わってきて、幾つものシーンでほろりとさせられた。順調に進んでほしかった物語は、あることがきっかけで方向転換させられる。さくらが目撃したことに端を発するのだが、つくづく女の子は鋭いなと思う。

 
bokunoohisama-500-3.jpg奥山監督自身、子どもの頃に7年間、フィギュアスケートをやっていたそうで、スケートをしながらカメラを回して撮影することもあったとか。前作同様、脚本・撮影・編集・監督の四役だ。また、本作は歌が先、映画が後。どういうことかといえば、男女二人組のデュオ、〈ハンバート ハンバート〉の「ぼくのお日さま」という歌を、コロナ禍の時、奥山監督がよく聴いていて、そこからインスピレーションをもらったとか。この歌は、吃音の少年の気持ちを表したもので、珠玉ともいえるラストシーンの後に流れる。この使い方が絶妙で、観ているほうは、タクヤという少年に重ねて、遠い昔の自分をも抱きしめたくなってしまうのだ。

 

(宮田 彩未)

公式サイト:https://bokunoohisama.com/

配給:東京テアトル
©2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

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