原題 | 原題:서울의 봄(英題:12.12: THE DAY) |
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制作年・国 | 2023年 韓国 |
上映時間 | 2時間22分 |
監督 | 監督:キム・ソンス 脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス |
出演 | ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘイン、イ・ジュニョク |
公開日、上映劇場 | 2024年8月23日(金)~ 新宿バルト9、T・ジョイ梅田、なんばパークスシネマ、シネマート心斎橋、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸、MOVIXあまがさき ほか全国公開 |
〜キム・ソンス監督の胸に波紋を残した韓国史の闇に迫る!〜
実録物の傑作がまた一つ誕生した。韓国の民主化を遅らせた要因と言われる歴史的なクーデターを描いた142分の大作だ。1979.10.26のパク大統領暗殺に始まり、その混乱も冷めやらぬなかチョン・ドゥグァン将軍(ファン・ジョンミン)率いるハナ会によってソウルに激震が走る。ハナ会とは朴正煕政権時代に作られ1993年まで存続していた実在の私組織。その暴走を止めるべくチョン・サンホ参謀総長(イ・ソンミン)がイ・テシン(チョン・ウソン)を都市警備司令官に任命したことで潮目が変わった。あらゆる手段を講じてソウル陥落・政権奪取を画策する反乱軍と守り切ろうと奮闘する鎮圧軍。やがて陸、海、空軍を巻き込む大事件へと発展する。この一夜の攻防は夜討ちをかける戦国時代さながらだ。銃撃戦もさることながら心理戦による緊張の連続に高まる心臓の鼓動が止まらない!
練り上げられた脚本と共に役者陣も磐石の布陣。組織が網の目のように絡み合い、分科分掌が把握しにくいが、そこは著名な俳優を起用するというキム・ソンス監督の采配が功を奏した。懐柔されて寝返る者も現れ、勢力図がオセロの盤面のように刻々と変化してゆくなかで、対立構造が一目でわかるからだ。
そんな名優たちの丁々発止のやり取りの中でもファン・ジョンミンは突出している。浅黒い肌に脂ぎった風体と、事あるごとに怒声を浴びせ相手を服従させる姿はいかにも俗物といった感じ。モデルとなったのは全斗煥元大統領。(第11,12代1980-88)ファン・ジョンミンが演じたのはほんの数ヶ月だが、全斗煥の経歴をみていくと人物像がみごとに重なるようだ。本作で見た姿と寸分違わぬイメージで、その後をまた観てみたい、演じてほしいと思わせる。
腹心のノ・テゴン少将(パク・ヘジュン)の役どころは盧泰愚元大統領(第13第)だろう。一方、イ・テシン(チョン・ウソン)の人となりはドゥグァンとは真逆の清廉さだが、この生き様もまた凄まじい。この人物造形についてはフィクションだが、かなり力を入れて作り上げたというだけあってドラマの根幹を支えている。終盤の二人の睨み合い、イ・テシンのある行動に対しドゥグァンが虚を衝かれたシーンは秀逸だ。特別ドラマティックな演出はなく淡々と映し出すのみだが、味方に対しても常にハッタリを効かせてきたドゥグァンの鉄面皮がほんの一瞬はがれる。ぜひ注目してほしい。
そして本作にはもうひとつ重要な視点がある。当時漢南洞に住んでいたキム・ソンス監督は事件の夜、銃声を聞いたという。本作にも国防長官が銃声に驚いて、漢南洞の公邸の窓越しに外の様子を伺うシーンが登場する。19歳のソンス青年には何が起こっているのか知りようもなかったが、その後、古傷が疼くように折にふれその晩のことがフラッシュバックしたという。図らずも胸の奥に封印していたものと向き合うこととなった、その集大成が本作なのだ。
当然ながら個人と国との繋がりは容易に切り離せない。基本的にはその国に生まれたら誰もがそのシステムの中で生きていかざるを得ないからだ。しかし、知らぬ間に方向が捻じ曲げられていたとしたら・・・史実でもフィクション部分にわかり易い救いを描くやり方もあるかと思うが、本作にはごまかしがない。悪は悪として敗北は敗北として徹底的に描き切っている。ここに集う人間のあらゆる情動がうねりのように感じられ、胸を掻きむしりたくなるような苦さが込み上げる。しかし、同時に何故か清々しさが残るのは、”試合に負けて勝負に勝った”ということかもしれない。
独裁政権から民主化への歩みは『KCIA』に始まり『タクシー運転手』『1987、ある闘いの真実』『偽りの隣人 ある諜報員の告白』『キングメーカー』などから追うことができる。当該事件の映画化は本作が初めて。フィクションも含まれるなかで1本の映画から歴史を読み解くのは難しいが、様々な角度と語り口から描かれた作品群を紐解くことで見えてくるものもあるだろう。韓国映画には史実を描いたものが数多くある。だからこそ1本1本の作品は独自の視点で焦点を絞って描きこむことができるのかもしれない。本国では4人に1人が劇場に足を運ぶ大ヒットとなった。時代や国は違えどそれを超えてくる臨場感だ。
(山口 順子)
配給:クロックワークス
公式サイト:https://klockworx-asia.com/seoul/
公式X:@19791212theday
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