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『ニューノーマル』

 
       

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作品データ
原題 原題:뉴 노멀(英題:NEW NORMAL)
制作年・国 2023年 韓国 
上映時間 1時間53分
監督 監督・脚本:チョン・ボムシク『コンジアム』
出演 チェ・ジウ「冬のソナタ」、イ・ユミ「イカゲーム」、チェ・ミンホ(SHINee)「ザ・ファビュラス」、ピョ・ジフン(Block B)「ホテル・デルーナ」、ハ・ダイン、チョン・ドンウォン
公開日、上映劇場 2024年8月16日(金)~新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、テアトル梅田、MOVIX京都、kino cinéma神戸国際、MOVIXあまがさき、ほか全国公開

 

〜日常に潜む恐怖を体験させるヒトコワ系ホラー〜

 

『コンジウム』のチョン・ボムシク監督の新作が”体験型スリラー”として話題を呼んでいる。6遍のショートストーリーからなり、各話の人間関係は少しづつ重なっている。タイトル通り新しくもあるが何か既視感もある不思議な世界観だ。コロナ禍で”新しい日常”という言葉をよく耳にしたが、ニューノーマルとは直訳すれば新しい常態。反語がくっつき合うことで元の状態には戻れないという意味になる・・・。

 
newnormal-500-4.jpg冒頭、暗闇の中で物騒なニュースの音声が重なり合うように流れ、やがて映し出されるのはロボット掃除機が滑らかに走る大理石のリビングで、大画面テレビから流れるニュース映像に眉をひそめるチェ・ジウの顔。そこに現れる怪しき火災報知器の点検員(イ・ムンシク)。不吉な予感しかない。無駄のない導入にグッと引き込まれる。(chapter1 M)その後はわずか4日間の出来事を時系列を前後させながらカフェ、アパートの部屋、雑居ビル、コンビニ、あらゆる場所へ私たちをワープさせる。

 
newnormal-500-1.jpg動機らしい動機も示されず犯罪と死だけが淡々と描かれ、死の前には誰もが無力だと言わんばかりだが、それも含めて平凡な(!)日常の一部だと言っているようである。加害者は”普通”の仮面を被っていたり、違和感があってもこの程度ならと思わせる。被害者も皆がみんな善良とは言えないが、現代人の孤独が滲み出ていて無機質さの中にかえって物語性を感じさせる。

 
newnormal-500-2.jpg悪人が悪人の顔をしていないということ、つまり別の顔を見せる意味ではマッチングアプリでのデートを連想させる。(chapter3 殺しのドレス)出会った瞬間には精一杯感じよく振る舞うが、付き合う価値なしと判断すれば即切り捨てるという変わり身の早さなのだ。

 
事件に限らず、現実社会で日々起こっているであろう事象を数珠繋ぎに描くなかで、時間が経って浮かんでくるのは酔客やクレーマーなどコンビニの客の顔である。一方、カフェの客は深く印象に残らない。コンビニはあらゆる人間の交差点のようなもので一瞬すれ違うだけ、気取る必要もない、だから素が出る。反対にカフェはオシャレな場所でありマッチングアプリの出会いの場であり、誰もがよそ行きの顔をしているからかもしれない。コンビニ店員のハ・ダインはそんな毎日に膿みている。(last chapter MY LIFE AS A DOG)彼女の乾いた表情とキックボードで深夜の路上を疾走する姿が深く余韻を残す。 

 
newnormal-500-7.jpg多くの人間が死ぬのにグロテスクさは、さほどなく落ち着いて観られる本作。しかし、観終わったあとにいや〜な汗が出る。一度怪しいと思うとそこにばかり意識が集中してしまう反面、目に留まらないものには気付きもしない人間の脳の仕組みを突いている。本当に怖いのは”普通”の中に紛れている狂気であり、今やそれがノーマル=常態だと言われているようだ・・・。

 
個人的に一番怖かったのが中学生が老婆と出会うchapter2 (DO THE RIGHT THING)。唯一結末が明示されないから余計に背筋が寒くなった。小学生のとき学校帰りに老婆から受けた宗教めいた勧誘を思い出したからかもしれない。人によって怖いと感じるポイントはそれぞれだが、全く危険を感じない訳ではなく、黄色信号が点っているのにふらふらと引き寄せられる感覚なのだ。

 
newnormal-500-5.jpgまた、抜粋したように各章のタイトルが映画の題名になっている。そのものズバリのミステリーあり意外なところで邦画のラブストーリーありと幅広い映画案内にもなっている。そもそもこの作品自体2007年から2009年にかけて深夜枠で放送され映画にもなった「トリハダ」シリーズが原案になっている。そう言えばヒトコワ系の怪談は日本の得意とするところ、新しさと既視感を同時に感じた訳がわかった。そうなると本作のパッケージングの上手さに唸ってしまった。音響も趣向をこらされクラシックあり映画音楽ありK-POPあり、コミカルな映像表現もあって俳優陣もフレッシュだ。特にピョ・ジフンが最悪な『恋する惑星』(1994)みたいで最高だった。

 

(山口 順子)

公式サイト: https://newnormal-movie.jp/

配給:AMGエンタテインメント

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